上 下
4 / 12
はじまりのお話

運命の出会い、きっとこれだ!

しおりを挟む
どうやら絡んできた人間を吹っ飛ばしたのは、ロップイヤーのウサギ獣人のようだ。
見た感じ、ぼくと年齢は変わらなさそうだけど、すごくやせ細っていて……羽が、ボロボロに折れている。

「えっ、君、大丈夫?」
「は? それ、おれのセリフじゃね?」

みれば全身どろまみれで、服もところどころ破れてる。丸見えだけど胸はぺたんこだし、男の子かな。
でも目がすごくきれいだ。エメラルドグリーンの、澄んだ宝石色。黄金の装飾みたいな髪の毛がさらさら風に揺れていて、漆黒のたれ耳が隙間から時々見える。
ボロボロの恰好なのに、どうして彼はこんなに綺麗なんだろう。
――不思議。

ぼうっと見とれていたら、お前生きてる? と言われ、ぼくははっと我に返った。

「はっ、オメガ獣人、隠れてたくせにのこのこ出てきやがったな! こら、今度こそ大人しく言うことを聞け……!」
「いってえっ、やめろ!」

派手に吹き飛ばされた人間の男が、頭を抱えながら起き上がり、今度はさっきの黒耳の少年を無理やり連れて行こうとした。ぼくは咄嗟に走り出して、その手をめいっぱい引っ張った。

「やめろ! その子、嫌がってるじゃないか」
「いたたたた! くそっ、てめえも道連れにするぞ!」
「いやだ! はなせ!」

男と少年を取り合ってもみ合ううちに、ぼくの白い帽子が風に飛ばされ、お忍びで見せてはいけない白い兎耳があらわになった。

「おっ、お前……アルファうさぎの王族か!」

途端、人間の目の色が変わった。こいつは見ただけで僕が何者なのか察したようだ。「ボスへのいい手土産ができた」とくつくつ笑いながら、ぼくたちの腕をさらに掴み上げる。逃げようとしたけれど体格差がありすぎてびくともしない。ついに、ぼくと黒耳の少年の足は宙に浮いた。

「わああっ」
「カツユキ様!」

じいやの真剣な声が、すぐそばで聴こえてきた。
よかった、もう大丈夫だ。あの強いじいやが、こんな悪い人間なんてすぐにやっつけてくれる。

大の男同士のバトルに巻き込まれ、振り飛ばされそうになりながら、ぼくは一生懸命黒耳の少年に手を伸ばした。少年は、不思議そうな顔をしながらぼくの手を取った。

「大丈夫、おいで! ぼくのお城に連れて行ってあげる」

その時、ぼくの中で誰かがそっと囁いたんだ。


――きっとこれが、運命の出会い。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら猫獣人になってました

おーか
BL
自分が死んだ記憶はない。 でも…今は猫の赤ちゃんになってる。 この事実を鑑みるに、転生というやつなんだろう…。 それだけでも衝撃的なのに、加えて俺は猫ではなく猫獣人で成長すれば人型をとれるようになるらしい。 それに、バース性なるものが存在するという。 第10回BL小説大賞 奨励賞を頂きました。読んで、応援して下さった皆様ありがとうございました。  ツイッター:@Ouka_shousetu

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

Ωの皇妃

永峯 祥司
BL
転生者の男は皇后となる運命を背負った。しかし、その運命は「転移者」の少女によって狂い始める──一度狂った歯車は、もう止められない。

三度目の人生は冷酷な獣人王子と結婚することになりましたが、なぜか溺愛されています

倉本縞
BL
エルガー王国の王子アンスフェルムは、これまで二回、獣人族の王子ラーディンに殺されかかっていた。そのたびに時をさかのぼって生き延びたが、三回目を最後に、その魔術も使えなくなってしまう。 今度こそ、ラーディンに殺されない平穏な人生を歩みたい。 そう思ったアンスフェルムは、いっそラーディンの伴侶になろうと、ラーディンの婚約者候補に名乗りを上げる。 ラーディンは野蛮で冷酷な獣人の王子と噂されていたが、婚約者候補となったアンスフェルムを大事にし、不器用な優しさを示してくれる。その姿に、アンスフェルムも徐々に警戒心を解いてゆく。 エルガー王国がラーディンたち獣人族を裏切る未来を知っているアンスフェルムは、なんとかそれを防ごうと努力するが……。

この恋は無双

ぽめた
BL
 タリュスティン・マクヴィス。愛称タリュス。十四歳の少年。とてつもない美貌の持ち主だが本人に自覚がなく、よく女の子に間違われて困るなぁ程度の認識で軽率に他人を魅了してしまう顔面兵器。  サークス・イグニシオン。愛称サーク(ただしタリュスにしか呼ばせない)。万年二十五歳の成人男性。世界に四人しかいない白金と呼ばれる称号を持つ優れた魔術師。身分に関係なく他人には態度が悪い。  とある平和な国に居を構え、相棒として共に暮らしていた二人が辿る、比類なき恋の行方は。 *←少し性的な表現を含みます。 苦手な方、15歳未満の方は閲覧を避けてくださいね。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

Fatal scent

みるく汰 にい
BL
__運命なんて信じない、信じたくない。 男女とは別の性別、第2性が存在するようになってから、幾分かの時が過ぎた。 もはやオメガは子供を産み育てるだけの役割だとするには前時代的で、全ての性は平等になりつつある。 当たり前のようにアルファはオメガを求め、オメガもまたアルファの唯一を願った。それも続きはしない。どれだけ愛し合おうと"運命"には敵わない。 鼻腔をくすぐる柔らかい匂いが、ぼくを邪魔する。もう傷つきたくない、唯一なんていらない。 「ぼくに構わないでくれ、うんざりだ」 アルファに捨てられたオメガ、清水 璃暖(しみず りのん) 「うん、その顔も可愛い」 オメガを甘やかす人たらしアルファ、東雲 暖(しののめ だん)

処理中です...