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はじまりのお話

運命のつがいって、どんな人?

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早くつがいを探す旅に出たいけれど、まだその年齢には達してないと言われて、ぼくはちょっと不貞腐れていた。
あと一体何ヶ月、何年、こんな狭いお城の中でじっと我慢しなくちゃいけないんだろう。
本当はアルファうさぎ王国の王様になんてなりたくないし、お城以外の場所で遊んでみたい。あの重苦しい城門の向こう側に行ってみたいけれど、片翼しかないから空なんて飛べやしないし。

「空、飛べるようになりたいなあ」

そんなことを呟いていたら、両翼を持った鳥人の従者がおもむろにやってきて
「カツユキ様、さあどうぞ」
なんて言って、背中を貸してくれる。
そうじゃない。ぼくが言ってるのは、そういう意味の「空を飛びたい」じゃないんだ。

自分の翼がいつか両翼になればきっと。――翔べる。


「番って、どうやって探すんだろう? もし見つからなかったらどうなるんですか」

不安になって訊いてみたら、イヌ族のじいやが緩い笑顔を零して髭をひくひくさせながら教えてくれた。

「出会えば一瞬でわかるのです。本人同士にしかわからない匂いと直感。あとアルファうさぎ族の皆さんは、こう……耳がピンと天に向かって高く伸びるそうですよ。私は見ていないのでわかりませんが、伝承によると」
「ふうん……」
「残念ながらつがいに出会えないまま大人になったアルファは、アルファ皇族同士で婚姻の儀を結びます。よその国にも稀に紛れ込んでいたりするので、運命の番も、うさぎ族とは限らないのですよ」
「でもつがいの性別は、オメガなんでしょう? どうしてアルファ同士で結婚するの」
「アルファは男女問わず両性具有。それにアルファ同士の婚姻では、アルファしか生まれないからです。次世代のアルファに、運命を託す。希少なオメガに出会えるアルファは、より選ばれた獣人なのです」
「じゃあぼくは、運命のつがいに会えなかったら、そのへんのアルファと結婚させられるんですね」
「カツユキ様……」

ややこしくてつまらない話だ。ぼくはアルファで男で王族で。アルファうさぎ族の子孫繁栄のために、生きていく。
世の中の市民はほとんどみんな、ベータっていう性別ばかりなのに。
ましてやオメガなんて性別、アルファより希少価値があって、ほとんど見かけない。

でも話を聞けば聞くほど、絶望的な妄想よりも、楽しみな未来を想像する方が楽しかった。

運命のつがいさん。
もしネコ族だったら、ひっかかれちゃうかな。くま族だったら、ぼくより大きくて逞しいかもしれない。
イヌ族だったら従順なイイコに違いないけれど、キツネ族だったら仲良くできる自信、ちょっとないかも。
ペンギン族とかあるのかな……? まだ見たことがない。もしかしてずっと泳いでるマーメイド人だったらどうしよう、ぼくは結構カナヅチなんだけど。
でもそんな不思議な異種性別の子と一緒に暮らせるかもしれないと思うだけで、この退屈な日々が変わりそうな予感がする。確信はないけれど、色んな妄想をするのは楽しい。

「会えるのかなあ……運命の人」

ぼくは日に日に、窓の外を見つめてはため息ばかりついて過ごしていた。
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