30 / 33
Lv.2 濃厚接触ゲーム
12 マジのウソです。僕を信じて
しおりを挟む
「俺……ケイタの恋は邪魔しない。偏見とかないから、大丈夫。それより二人がいつも仲良くしてくれて、マジで嬉しかったんだ。好きなゲームの話がいっぱいできて、居心地よくて。だからまだ一緒にいたいし。二人だけで内緒話にされんのは……ちょっと、きつい、かな。……はは、クラスも違うのに、わがままだよな。なんか女々しくてごめん」
「な……内緒になんてしてない!」
太一がそんな風に滝沢との仲を誤解しているとは思わなかった。それに、一緒に居て居心地がいいと思ってくれていたことが何よりうれしい。変な勘違いをされる前に、自分のちっぽけな願いをちゃんと伝えておけばよかった。今までなんで連絡のひとつも送れなかったんだろう。ヘタレな自分が情けなくて泣きそうだ。
ここでは滝沢の協力を仰ぐわけにいかない。一人でこの試練を乗り越えなければ。
太一のすぐ目の前に立ち、ゲーム中と同じくらいの至近距離で見つめ合う。今ならきっと、言えるはず。
「あの、なんて言うか……その……話はマジのウソで、変な噂、勝手に立てられて困っててるから」
「マジのウソ?」
意味のわからない言葉になってしまい、太一が眉をひそめて傾げる。ああもう、なんだこの変な日本語は。もっとマシなこと言えないのか。今すぐ口頭で即興で――となると、どもってばかりでカッコ悪い。
それでも必死に、ある限りの想いを言葉へと変えていく。
「滝沢とはほんとにただの友だちで。僕は太一とうまく話せなくて、代わりに色々聞いてもらったりして……その……ごめん」
ガバッ。
大げさなぐらい腰を折り曲げ、圭太は頭を下げた。太一はまだ事態が飲み込めず、困惑しているようだ。
「太一に直接聞く勇気が出なくて。なんでも滝沢任せにしてたせいで……へんな勘違いをさせてしまったみたいで……悪かった」
「……ええと。ケイタが好きなのは滝沢じゃないってこと……?」
「そ、そうだよ。変な話よりも僕の話を信じてくれよ。あんな噂流されてるとか、知らなかったし。マジで勘弁してほしいんだけどっ」
「じゃあどうして、滝沢とは仲良く話せるのに、俺とはうまく話せないの?」
その一言を放たれた途端、緊迫した空気が漂う。
非難するような目でこちらを見つめる太一の視線が怖くてどうしても顔を上げられない。こんな時はどうしたらいいんだっけ。そうだ、口だ。マスクでずっと隠されていた太一の口元。マスクラインに赤いニキビができていて少し辛そうなその部分をじっと見つめながら、圭太は勢いよろしく叫んだ。
「太一は……ぼ、僕の最推しだから!」
太一はぽかんと目を丸くして突っ立っていた。暫しの沈黙が走る。
(あ……あれ……?)
反応がこない?
圭太は咄嗟に自分の吐いた言葉を脳内に反復する。
(僕、今、なんて言った……?)
語彙力皆無を通り越して、表現力完全崩壊してないか!?
圭太の顔は燃え盛るキャンプファイヤーの如く、あっという間に真っ赤に染まった。熱を帯びた耳が熱い。
「推しって。なにそれ、俺、アイドルかよ」
ようやく言葉を理解したらしい太一が、けたけたと笑いながら「ケイタってやっぱ面白い奴だな」と声をあげた。それから「あ」と口元に指を当てる。
「やっべ。俺、コートにマスク忘れてたわ」
「い……今気づいたのかよ」
「まあいっか。ケイタとなら濃厚接触してもいいから、俺は」
「……そ、それとこれとは別問題じゃ」
「ケイタは嫌だった?」
上目遣いにこちらを見つめて首を傾げる太一は、明らかに自分が可愛く見えるあざといポーズを知っている。――気がした。可愛いの暴力だ。いやむしろ、彼の方が男前で強い。圭太が言いたかったことをいとも簡単に告げて、夢見た世界に自分を連れて行ってくれる。
ゲームでは「ケイタ」の方が強いけれど、リアルでは「肉食べいこ」に軍配が上がるのだ。
「部活終わったらマックいって、いろんな話しようよ。邪魔なフィルターはなしで、さ」
汗にまみれた圭太のマスクをとん、とんと指の腹で叩き、太一は楽しそうに笑った。
圭太はただただ、うんと言うしかできなかった。目尻にたまった涙を崩壊させまいと必死だったから。
「な……内緒になんてしてない!」
太一がそんな風に滝沢との仲を誤解しているとは思わなかった。それに、一緒に居て居心地がいいと思ってくれていたことが何よりうれしい。変な勘違いをされる前に、自分のちっぽけな願いをちゃんと伝えておけばよかった。今までなんで連絡のひとつも送れなかったんだろう。ヘタレな自分が情けなくて泣きそうだ。
ここでは滝沢の協力を仰ぐわけにいかない。一人でこの試練を乗り越えなければ。
太一のすぐ目の前に立ち、ゲーム中と同じくらいの至近距離で見つめ合う。今ならきっと、言えるはず。
「あの、なんて言うか……その……話はマジのウソで、変な噂、勝手に立てられて困っててるから」
「マジのウソ?」
意味のわからない言葉になってしまい、太一が眉をひそめて傾げる。ああもう、なんだこの変な日本語は。もっとマシなこと言えないのか。今すぐ口頭で即興で――となると、どもってばかりでカッコ悪い。
それでも必死に、ある限りの想いを言葉へと変えていく。
「滝沢とはほんとにただの友だちで。僕は太一とうまく話せなくて、代わりに色々聞いてもらったりして……その……ごめん」
ガバッ。
大げさなぐらい腰を折り曲げ、圭太は頭を下げた。太一はまだ事態が飲み込めず、困惑しているようだ。
「太一に直接聞く勇気が出なくて。なんでも滝沢任せにしてたせいで……へんな勘違いをさせてしまったみたいで……悪かった」
「……ええと。ケイタが好きなのは滝沢じゃないってこと……?」
「そ、そうだよ。変な話よりも僕の話を信じてくれよ。あんな噂流されてるとか、知らなかったし。マジで勘弁してほしいんだけどっ」
「じゃあどうして、滝沢とは仲良く話せるのに、俺とはうまく話せないの?」
その一言を放たれた途端、緊迫した空気が漂う。
非難するような目でこちらを見つめる太一の視線が怖くてどうしても顔を上げられない。こんな時はどうしたらいいんだっけ。そうだ、口だ。マスクでずっと隠されていた太一の口元。マスクラインに赤いニキビができていて少し辛そうなその部分をじっと見つめながら、圭太は勢いよろしく叫んだ。
「太一は……ぼ、僕の最推しだから!」
太一はぽかんと目を丸くして突っ立っていた。暫しの沈黙が走る。
(あ……あれ……?)
反応がこない?
圭太は咄嗟に自分の吐いた言葉を脳内に反復する。
(僕、今、なんて言った……?)
語彙力皆無を通り越して、表現力完全崩壊してないか!?
圭太の顔は燃え盛るキャンプファイヤーの如く、あっという間に真っ赤に染まった。熱を帯びた耳が熱い。
「推しって。なにそれ、俺、アイドルかよ」
ようやく言葉を理解したらしい太一が、けたけたと笑いながら「ケイタってやっぱ面白い奴だな」と声をあげた。それから「あ」と口元に指を当てる。
「やっべ。俺、コートにマスク忘れてたわ」
「い……今気づいたのかよ」
「まあいっか。ケイタとなら濃厚接触してもいいから、俺は」
「……そ、それとこれとは別問題じゃ」
「ケイタは嫌だった?」
上目遣いにこちらを見つめて首を傾げる太一は、明らかに自分が可愛く見えるあざといポーズを知っている。――気がした。可愛いの暴力だ。いやむしろ、彼の方が男前で強い。圭太が言いたかったことをいとも簡単に告げて、夢見た世界に自分を連れて行ってくれる。
ゲームでは「ケイタ」の方が強いけれど、リアルでは「肉食べいこ」に軍配が上がるのだ。
「部活終わったらマックいって、いろんな話しようよ。邪魔なフィルターはなしで、さ」
汗にまみれた圭太のマスクをとん、とんと指の腹で叩き、太一は楽しそうに笑った。
圭太はただただ、うんと言うしかできなかった。目尻にたまった涙を崩壊させまいと必死だったから。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作


古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる