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Lv.2 濃厚接触ゲーム
12 マジのウソです。僕を信じて
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「俺……ケイタの恋は邪魔しない。偏見とかないから、大丈夫。それより二人がいつも仲良くしてくれて、マジで嬉しかったんだ。好きなゲームの話がいっぱいできて、居心地よくて。だからまだ一緒にいたいし。二人だけで内緒話にされんのは……ちょっと、きつい、かな。……はは、クラスも違うのに、わがままだよな。なんか女々しくてごめん」
「な……内緒になんてしてない!」
太一がそんな風に滝沢との仲を誤解しているとは思わなかった。それに、一緒に居て居心地がいいと思ってくれていたことが何よりうれしい。変な勘違いをされる前に、自分のちっぽけな願いをちゃんと伝えておけばよかった。今までなんで連絡のひとつも送れなかったんだろう。ヘタレな自分が情けなくて泣きそうだ。
ここでは滝沢の協力を仰ぐわけにいかない。一人でこの試練を乗り越えなければ。
太一のすぐ目の前に立ち、ゲーム中と同じくらいの至近距離で見つめ合う。今ならきっと、言えるはず。
「あの、なんて言うか……その……話はマジのウソで、変な噂、勝手に立てられて困っててるから」
「マジのウソ?」
意味のわからない言葉になってしまい、太一が眉をひそめて傾げる。ああもう、なんだこの変な日本語は。もっとマシなこと言えないのか。今すぐ口頭で即興で――となると、どもってばかりでカッコ悪い。
それでも必死に、ある限りの想いを言葉へと変えていく。
「滝沢とはほんとにただの友だちで。僕は太一とうまく話せなくて、代わりに色々聞いてもらったりして……その……ごめん」
ガバッ。
大げさなぐらい腰を折り曲げ、圭太は頭を下げた。太一はまだ事態が飲み込めず、困惑しているようだ。
「太一に直接聞く勇気が出なくて。なんでも滝沢任せにしてたせいで……へんな勘違いをさせてしまったみたいで……悪かった」
「……ええと。ケイタが好きなのは滝沢じゃないってこと……?」
「そ、そうだよ。変な話よりも僕の話を信じてくれよ。あんな噂流されてるとか、知らなかったし。マジで勘弁してほしいんだけどっ」
「じゃあどうして、滝沢とは仲良く話せるのに、俺とはうまく話せないの?」
その一言を放たれた途端、緊迫した空気が漂う。
非難するような目でこちらを見つめる太一の視線が怖くてどうしても顔を上げられない。こんな時はどうしたらいいんだっけ。そうだ、口だ。マスクでずっと隠されていた太一の口元。マスクラインに赤いニキビができていて少し辛そうなその部分をじっと見つめながら、圭太は勢いよろしく叫んだ。
「太一は……ぼ、僕の最推しだから!」
太一はぽかんと目を丸くして突っ立っていた。暫しの沈黙が走る。
(あ……あれ……?)
反応がこない?
圭太は咄嗟に自分の吐いた言葉を脳内に反復する。
(僕、今、なんて言った……?)
語彙力皆無を通り越して、表現力完全崩壊してないか!?
圭太の顔は燃え盛るキャンプファイヤーの如く、あっという間に真っ赤に染まった。熱を帯びた耳が熱い。
「推しって。なにそれ、俺、アイドルかよ」
ようやく言葉を理解したらしい太一が、けたけたと笑いながら「ケイタってやっぱ面白い奴だな」と声をあげた。それから「あ」と口元に指を当てる。
「やっべ。俺、コートにマスク忘れてたわ」
「い……今気づいたのかよ」
「まあいっか。ケイタとなら濃厚接触してもいいから、俺は」
「……そ、それとこれとは別問題じゃ」
「ケイタは嫌だった?」
上目遣いにこちらを見つめて首を傾げる太一は、明らかに自分が可愛く見えるあざといポーズを知っている。――気がした。可愛いの暴力だ。いやむしろ、彼の方が男前で強い。圭太が言いたかったことをいとも簡単に告げて、夢見た世界に自分を連れて行ってくれる。
ゲームでは「ケイタ」の方が強いけれど、リアルでは「肉食べいこ」に軍配が上がるのだ。
「部活終わったらマックいって、いろんな話しようよ。邪魔なフィルターはなしで、さ」
汗にまみれた圭太のマスクをとん、とんと指の腹で叩き、太一は楽しそうに笑った。
圭太はただただ、うんと言うしかできなかった。目尻にたまった涙を崩壊させまいと必死だったから。
「な……内緒になんてしてない!」
太一がそんな風に滝沢との仲を誤解しているとは思わなかった。それに、一緒に居て居心地がいいと思ってくれていたことが何よりうれしい。変な勘違いをされる前に、自分のちっぽけな願いをちゃんと伝えておけばよかった。今までなんで連絡のひとつも送れなかったんだろう。ヘタレな自分が情けなくて泣きそうだ。
ここでは滝沢の協力を仰ぐわけにいかない。一人でこの試練を乗り越えなければ。
太一のすぐ目の前に立ち、ゲーム中と同じくらいの至近距離で見つめ合う。今ならきっと、言えるはず。
「あの、なんて言うか……その……話はマジのウソで、変な噂、勝手に立てられて困っててるから」
「マジのウソ?」
意味のわからない言葉になってしまい、太一が眉をひそめて傾げる。ああもう、なんだこの変な日本語は。もっとマシなこと言えないのか。今すぐ口頭で即興で――となると、どもってばかりでカッコ悪い。
それでも必死に、ある限りの想いを言葉へと変えていく。
「滝沢とはほんとにただの友だちで。僕は太一とうまく話せなくて、代わりに色々聞いてもらったりして……その……ごめん」
ガバッ。
大げさなぐらい腰を折り曲げ、圭太は頭を下げた。太一はまだ事態が飲み込めず、困惑しているようだ。
「太一に直接聞く勇気が出なくて。なんでも滝沢任せにしてたせいで……へんな勘違いをさせてしまったみたいで……悪かった」
「……ええと。ケイタが好きなのは滝沢じゃないってこと……?」
「そ、そうだよ。変な話よりも僕の話を信じてくれよ。あんな噂流されてるとか、知らなかったし。マジで勘弁してほしいんだけどっ」
「じゃあどうして、滝沢とは仲良く話せるのに、俺とはうまく話せないの?」
その一言を放たれた途端、緊迫した空気が漂う。
非難するような目でこちらを見つめる太一の視線が怖くてどうしても顔を上げられない。こんな時はどうしたらいいんだっけ。そうだ、口だ。マスクでずっと隠されていた太一の口元。マスクラインに赤いニキビができていて少し辛そうなその部分をじっと見つめながら、圭太は勢いよろしく叫んだ。
「太一は……ぼ、僕の最推しだから!」
太一はぽかんと目を丸くして突っ立っていた。暫しの沈黙が走る。
(あ……あれ……?)
反応がこない?
圭太は咄嗟に自分の吐いた言葉を脳内に反復する。
(僕、今、なんて言った……?)
語彙力皆無を通り越して、表現力完全崩壊してないか!?
圭太の顔は燃え盛るキャンプファイヤーの如く、あっという間に真っ赤に染まった。熱を帯びた耳が熱い。
「推しって。なにそれ、俺、アイドルかよ」
ようやく言葉を理解したらしい太一が、けたけたと笑いながら「ケイタってやっぱ面白い奴だな」と声をあげた。それから「あ」と口元に指を当てる。
「やっべ。俺、コートにマスク忘れてたわ」
「い……今気づいたのかよ」
「まあいっか。ケイタとなら濃厚接触してもいいから、俺は」
「……そ、それとこれとは別問題じゃ」
「ケイタは嫌だった?」
上目遣いにこちらを見つめて首を傾げる太一は、明らかに自分が可愛く見えるあざといポーズを知っている。――気がした。可愛いの暴力だ。いやむしろ、彼の方が男前で強い。圭太が言いたかったことをいとも簡単に告げて、夢見た世界に自分を連れて行ってくれる。
ゲームでは「ケイタ」の方が強いけれど、リアルでは「肉食べいこ」に軍配が上がるのだ。
「部活終わったらマックいって、いろんな話しようよ。邪魔なフィルターはなしで、さ」
汗にまみれた圭太のマスクをとん、とんと指の腹で叩き、太一は楽しそうに笑った。
圭太はただただ、うんと言うしかできなかった。目尻にたまった涙を崩壊させまいと必死だったから。
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