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Lv.2 濃厚接触ゲーム
9 部員は欲しくない、ことはない
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写真部の部室は辺鄙な電気科棟にある。太一の所属する電気科の専用校舎だ。フィルムカメラに調湿ケース、暗室まで整っていて随分本格的な部室なのだが、何もかもが時代に取り残された遺跡のように埃を被っている。当然ながら、ただのゲーマーな圭太がこれの価値を知る由もない。
「へー、ここが写真部! 暗幕だらけですげえ」
部員でもないのになぜか部室までついてきたのは滝沢だ。帰り際、部室の鍵を借りに行った職員室でばったり出くわし、「お前って何部なの?」と執拗に迫られ今に至る。バイト開始まで時間があるらしく、興味本位で覗きに来たらしい。暗がりに手探りで壁を伝い、照明スイッチを点けると、やっと教室の全貌が見えてくる。
「なんか俺、サエはゲーム部だと思ってた」
「そんな部活あるわけないだろ」
「はははっ、あったら大繁盛だろうな」
滝沢はカラカラと笑いながら部室内の物珍しいアイテムを次々手に取り、すげえなこれと子どものようにはしゃいでいる。
「あんま勝手に触るなよ」
「なんかさあ、一眼レフってかっこよくね? サエ、これ使えんの?」
「え? まあ……一応。そこの古そうなやつは無理だけど、デジカメの方なら」
「すげえなあ。こういうの使えるって知ったら、新入部員もいっぱい来そうなもんなのに。メカマニアとか、装甲好きにはたまらんアイテムだろ」
「確かに昔は部員多かったみたいだけど。メカニック系が好きな奴は科学技術研究部にいくだろうし、写真とるって言ったら心霊好きのホラゲオタクか……あとは鉄オタぐらいかな。僕のイメージ的には」
「なーる。まあ、後輩来ても気が合わなかったら嫌だーとか言って、全然部員募集してないんだろ」
特に何も言っていないのに部の現状を見抜かれていて、圭太は返す言葉に詰まった。それから唇を尖らせ、ふんと鼻息を鳴らしながらリュックを机の上に置いた。
「どうせ部員増えても増えなくても、来年廃部って決まってるから、別に」
「えー、もったいないなあ」
「この廃墟みたいな部屋見りゃわかるだろ。道具管理できる先生がもういないんだってさ。活動も学校行事の写真撮るくらいしかやることないし。肝心の学校行事もあるのかないのか、この状況じゃわかんねえし」
「いやでも、今年はやるだろ、文化祭と体育祭くらい!」
「あったとしても、最近じゃ個人の肖像権がどうのこうのってうるさいから」
「んーそうか……でもサエは部長なんだろ。撮影許可の権限とかないの」
「先輩からの引継ぎもなかったし、そういうのは知らない」
結局去年は在籍していたはずの先輩には会えず、感染症禍で学校行事も全部消えたため、写真部の公式活動は何もなかった。時折部室で一人、ゲームをしながらスマホで推しのアクリルフィギュアやグッズの写真を撮るだけの活動だ。新学期早々「お前が部長だから」と言われて書かされた部活紹介の紙には、面白みもない「部員募集」「活動曜日は応相談」とまるで求人広告のような文言しか書けなかったし、当然新入生は一人も来なかった。
一人は気楽だし、廃部になっても困らない。ただ、もう少し高校生らしい活動をしてみたくないかと問われれば「NO」とは言えないし、学校行事が復活すれば一人で撮影業務は厳しい。悩ましいところだ。
それにしても、部室探検に夢中な滝沢はいつまで経っても部屋から出ようとしない。だんだん不安になってきた圭太は壁時計を何度もチラ見する。
「お前、時間大丈夫なのか。バイト遅れるぞ」
「ああうん。そろそろ行く。しっかし、ここいいなあ。秘密基地っぽい」
初めて自分がこの部屋に来た時と同じ感想を語る彼に、思わず苦笑してしまった。まあ、滝沢であれば気心も知れているし、バイトで多忙だろうから滅多に来ないだろう。圭太は少し考えたのち、「お前が写真部に入れば?」と提案してみた。
「……え?」
滝沢が驚いた顔を見せて振り返る。その反応が予想外で、圭太の心臓はドクンと跳ねた。
いくらなんでも慣れ慣れしすぎたか。無理なことを言って困らせたか。握りしめた手のひらに汗が溜まる。
「いや、その。お前、バイトあるから部活入ってないって歩夢が言ってた、から……無理にとは言わん。バイトない時とか、一人になりたい時はこの部屋、けっこう便利だし。別に……活動もそんなにやらないし」
「ああ、そういうことね。サエから誘ってもらえるとか思わなかったから超びっくりした」
「……部長としては、一応部員募集してるわけで……」
「はっ、さっきと言ってること違くねえ?」
不思議な友人だ。向こうからは人の話もろくに聞かず、強引に近寄ってくるくせに、こちらから近寄ると急に見えない壁ができる。距離の取り方がわからない。
そうだなあ、それもいいなあと独り言のように呟きながら、滝沢は室内を一周して再び部室の出入り口に戻ってきた。
「ちょっと考えとくわ」
振り向きざま綺麗な顔で微笑み、「じゃあお先に」と手を挙げると、滝沢は一人先に帰っていった。
写真部の部室は辺鄙な電気科棟にある。太一の所属する電気科の専用校舎だ。フィルムカメラに調湿ケース、暗室まで整っていて随分本格的な部室なのだが、何もかもが時代に取り残された遺跡のように埃を被っている。当然ながら、ただのゲーマーな圭太がこれの価値を知る由もない。
「へー、ここが写真部! 暗幕だらけですげえ」
部員でもないのになぜか部室までついてきたのは滝沢だ。帰り際、部室の鍵を借りに行った職員室でばったり出くわし、「お前って何部なの?」と執拗に迫られ今に至る。バイト開始まで時間があるらしく、興味本位で覗きに来たらしい。暗がりに手探りで壁を伝い、照明スイッチを点けると、やっと教室の全貌が見えてくる。
「なんか俺、サエはゲーム部だと思ってた」
「そんな部活あるわけないだろ」
「はははっ、あったら大繁盛だろうな」
滝沢はカラカラと笑いながら部室内の物珍しいアイテムを次々手に取り、すげえなこれと子どものようにはしゃいでいる。
「あんま勝手に触るなよ」
「なんかさあ、一眼レフってかっこよくね? サエ、これ使えんの?」
「え? まあ……一応。そこの古そうなやつは無理だけど、デジカメの方なら」
「すげえなあ。こういうの使えるって知ったら、新入部員もいっぱい来そうなもんなのに。メカマニアとか、装甲好きにはたまらんアイテムだろ」
「確かに昔は部員多かったみたいだけど。メカニック系が好きな奴は科学技術研究部にいくだろうし、写真とるって言ったら心霊好きのホラゲオタクか……あとは鉄オタぐらいかな。僕のイメージ的には」
「なーる。まあ、後輩来ても気が合わなかったら嫌だーとか言って、全然部員募集してないんだろ」
特に何も言っていないのに部の現状を見抜かれていて、圭太は返す言葉に詰まった。それから唇を尖らせ、ふんと鼻息を鳴らしながらリュックを机の上に置いた。
「どうせ部員増えても増えなくても、来年廃部って決まってるから、別に」
「えー、もったいないなあ」
「この廃墟みたいな部屋見りゃわかるだろ。道具管理できる先生がもういないんだってさ。活動も学校行事の写真撮るくらいしかやることないし。肝心の学校行事もあるのかないのか、この状況じゃわかんねえし」
「いやでも、今年はやるだろ、文化祭と体育祭くらい!」
「あったとしても、最近じゃ個人の肖像権がどうのこうのってうるさいから」
「んーそうか……でもサエは部長なんだろ。撮影許可の権限とかないの」
「先輩からの引継ぎもなかったし、そういうのは知らない」
結局去年は在籍していたはずの先輩には会えず、感染症禍で学校行事も全部消えたため、写真部の公式活動は何もなかった。時折部室で一人、ゲームをしながらスマホで推しのアクリルフィギュアやグッズの写真を撮るだけの活動だ。新学期早々「お前が部長だから」と言われて書かされた部活紹介の紙には、面白みもない「部員募集」「活動曜日は応相談」とまるで求人広告のような文言しか書けなかったし、当然新入生は一人も来なかった。
一人は気楽だし、廃部になっても困らない。ただ、もう少し高校生らしい活動をしてみたくないかと問われれば「NO」とは言えないし、学校行事が復活すれば一人で撮影業務は厳しい。悩ましいところだ。
それにしても、部室探検に夢中な滝沢はいつまで経っても部屋から出ようとしない。だんだん不安になってきた圭太は壁時計を何度もチラ見する。
「お前、時間大丈夫なのか。バイト遅れるぞ」
「ああうん。そろそろ行く。しっかし、ここいいなあ。秘密基地っぽい」
初めて自分がこの部屋に来た時と同じ感想を語る彼に、思わず苦笑してしまった。まあ、滝沢であれば気心も知れているし、バイトで多忙だろうから滅多に来ないだろう。圭太は少し考えたのち、「お前が写真部に入れば?」と提案してみた。
「……え?」
滝沢が驚いた顔を見せて振り返る。その反応が予想外で、圭太の心臓はドクンと跳ねた。
いくらなんでも慣れ慣れしすぎたか。無理なことを言って困らせたか。握りしめた手のひらに汗が溜まる。
「いや、その。お前、バイトあるから部活入ってないって歩夢が言ってた、から……無理にとは言わん。バイトない時とか、一人になりたい時はこの部屋、けっこう便利だし。別に……活動もそんなにやらないし」
「ああ、そういうことね。サエから誘ってもらえるとか思わなかったから超びっくりした」
「……部長としては、一応部員募集してるわけで……」
「はっ、さっきと言ってること違くねえ?」
不思議な友人だ。向こうからは人の話もろくに聞かず、強引に近寄ってくるくせに、こちらから近寄ると急に見えない壁ができる。距離の取り方がわからない。
そうだなあ、それもいいなあと独り言のように呟きながら、滝沢は室内を一周して再び部室の出入り口に戻ってきた。
「ちょっと考えとくわ」
振り向きざま綺麗な顔で微笑み、「じゃあお先に」と手を挙げると、滝沢は一人先に帰っていった。
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