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Lv.2 濃厚接触ゲーム

4 等価交換でいこう

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 教室に戻ってきた滝沢から、ちょいちょいと呼び出された。「なんでお前が!?」と言わんばかりの歩夢の視線がギリギリ突き刺さる。
 圭太は面倒くさそうな素振りを見せつつ、急いで滝沢指定の階段下に向かった。人気のない廊下のつきあたりに凭れ、滝沢はスマホを弄って待っていた。
 
「太一情報いっぱいもらってきてやったぜ」
「だからってこんな場所に呼び出さなくても……」
「俺との会話、また知らない奴らに聞かれて変な噂立てられたら困るだろうし。念のためだよ」
 
 ありがたい気遣いだが、これでは何やら密会をしているようだ。戻った後の歩夢の視線が怖い。まあ……嫌いな人間にまで気を遣って生きるのは正直面倒なので気にしないことにする。
 
「太一の家は結構遠くて、圭太が乗る駅より五つ前から乗ってるらしい」
「親父が大工で、家業継ぐんだって。だから電気科」
「でもほんとは配線いじるよりゲーム作りたいって言ってた。なんだかんだであいつもゲームオタクだよな」
「好きな食い物は多分、駄菓子だ。チョコレートと飴、女子みたいにいっぱい持ってたぞ。あいつ、血糖値がすぐ下がるらしくて、常時甘いもん持ち歩いてるんだってさ。あ、ちなみに部活はテニスだった」
 
 個人情報からよくあるプロフィールまで、次から次へと情報が投下されていく。圭太はそれを必死に脳内へインプットする。
 
「そ、そんな情報さ。あいつに無断で勝手に僕に流してないか?」
「いいや。ちゃんと圭太と共有するって言ってあるから。太一も喜んでたよ。お前ともっと仲良くなりたいから、お前のこと聞いてきてって逆に頼まれた」
「ぼっ……僕のことを? なんか言ったのか? まさか泣いたとか言ってないだろうな!」
 
 焦った圭太は思わず滝沢の襟首を掴んだ。既視感ありすぎるこの構図。ハッとして顔を見上げると、やはり同じことを思ったであろう滝沢が「もっかい頭突きくらわすぞ」と不敵に笑っていた。
 
「まあ、俺なんかにそういう弱み握られてたらそう思うよな」

 厭味全開なニヤニヤ顔が気に食わない。だが借りと恩が多すぎてこれ以上逆らえなかった。慌ててシャツから手を離す。

「俺は許可なしに個人情報暴露したりしねえよ。チャラ男でもポリシーってもんは持ってんだ」
「そ、そうだよな……悪い。疑って。さっき歩夢が教室でお前のこと色々ペラってたから、てっきり……」
「ふうん? なんの話」
「……お前がなんで就職希望なのかとか、バイトしてる……とか。そんな感じのこと」
 
 崩れたネクタイを直しながら、圭太はおずおずと気になったことを告げてみた。しかしまるで告げ口のようだと後悔したが、滝沢は「なんだそれくらい」と気にしていない様子だった。やはり滝沢は出来た男だ。取り巻き連中の方がクズすぎて、もったいないとすら思ってしまう。
 
「そういや俺もちょっとは圭太のこと、勝手に話したわ」
「えっ……な、なにを」
「うちのクラスで二組のディスり大会が始まった時、真っ先にそういうのやめろって怒ったのは圭太だってこと」
 
 違うじゃないか、本当は滝沢の方が先に警告メッセージ送ってたくせに!
 そう反論しかけたが、滝沢は「本気で怒れるってすごいと思うぜ」と笑う。

 あの時滝沢と電話しながらクラスのメンバーに対し、「貴様らクズの極み」という毒メッセージを送ったのは確かだ。拍手喝采どころか持ち上げて「三枝魔王・降臨」などとはやし立てた滝沢は、「魔王がキレないグルチャしないと、宿題教えてもらえなくなるぞ」と追い打ちをかけたのだった。
 
「おかげで太一は特になんも言われたりしてないってさ。よかったな、魔王」
「そのあだ名やめろよ」
「太一にもウケてたけど?」
「せめてあいつにはもうちょっとマシな情報送って」
「じゃあ具体的には何がいいんだ。家どのへんかとか、部活とか、好きな食い物はマストだから教えてやれよ」
「そ……そうなのか?」
「じゃないと等価交換にならないだろ」
 
 結局滝沢の口車に乗せられて、気づけば圭太もぺらぺらと自分のことを話してしまっていた。先日の通話でも思ったが、滝沢は話を引き出すのが絶妙にうまい。そういうスキルでも持ち合わせているのだろうか。思ったことはそのまま声に出てしまったようだ。
 
「ああ俺? 人としょうもない話をするのが得意なんだわ。世渡りは上手い方だと思うぜ」
「それ、自分で言うか?」
 
 笑いが堪えきれず、思わずふはっと噴いた。すると滝沢は「おお、サエが笑った!」と嬉しそうに抱きしめてきた。

「ちょ、何するんだよ」
「だって教室じゃちっとも笑わねえもん、お前を笑かすのが俺の密かな目標だったわけ」
「なんだそれ。目標しょっぼ」

 驚きのあまりその腕を振りほどきたくなったが、滝沢の事情や人となりを半端に知ってしまった以上、無下にもできず苦笑するしかなかった。
 
「お前には借りばっか作ってるな。お礼に放課後なんか驕るよ。自販機で」
「おっしゃああ、ラッキー! ああでも放課後はバイトがあるからさ、今くれよ、今」
「は? がめついな」
「ちょうど喉乾いてたんだよ。買いに行こうぜ」
 
 嬉しがる滝沢は強引に圭太の手を引いて走り出す。なんだか少し太一のノリに似ていた。
 クラス一の人気者を餌付けしたとあらば、少しは周りに一目置かれるかも。あわよくば太一にも「あの滝沢を飼い慣らす男」として褒められるかもしれない。
 それは決して悪い気はしなかった。
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