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Lv.1 ゲームフレンド ≧ リア友
14 フレンド解除? それとも――
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今朝も七時三分の電車を待ちながら、FCOへログインした。ログイン中のフレンドが一覧表示される。それをスクロールし、更新し、ため息をつく。どんなに確認しても《肉食べいこ》の名前は出てこなかった。
吐いた息が冷たい外気に触れて白く浮き上がる。思わず身震いした。セーターだけではやってられない。ブレザーの前ボタンを閉じて、ふうとため息をついた。
(そういえばもうすぐ冬休みだ……)
一学期はすごく長く感じられたのに、二学期はあっという間に過ぎ去った気がする。
期末考査の期間に入り、どの部活もやっていないというのに、放課後どんなに駅を見渡しても姿を見かけない。一年二組だという滝沢の情報を信じて教室のそばまで行ってみたけれど、気後れして中を見ることすらできなかった。
(――きらわれ、た?)
だがなんの心当たりもない。最初に電車で見かけなかったときは、ついに寝坊して乗り損ねたのかと思った。
その翌日は車両を乗り間違えたかと思った。
けれど三日目には疑惑の心が芽生え。
四日目になってようやく確信した。
理由はどうあれ、避けられているのは間違いない。そして彼は電車の中だけでなく、FCOにもいない。フレンドリストに映る《肉食べいこ》のゲームキャラは、三日以上ログインされておらず、レベルも滞在マップも動いていない。
画面ごしにその名前を見ただけであの無邪気な笑顔が脳裏に浮かぶ。
ツンと鼻が痛くなった。我ながら女々しいなと苦笑する。
(連絡先知らないからどのみち会えないし。あいつとの時間はもう、終わったんだ)
わかっていた。友情なんてものは期間限定。
自分の感情だけで永遠につなぎ留めることはできないのだ。
たった一度気持ちがすれ違うだけでひび割れ、不良物件への途を辿り、最後は取捨選択されるもの。もう遊ばないゲームと同じ感覚で。
高速で変わりゆく車窓の景色を一人眺めながら、昨日まで好きだった人のフレンドコードをリストからそっと消去した。 親指ひとつで、一秒もかけずに。
早く忘れてしまおう。大丈夫。僕にはまだひとりぼっちじゃない。
FCOの世界にはサナがいる。現実世界だったら滝沢も、クラスメイトも――。
…… ……
「なあサエ知ってるか。二組から濃厚接触者が出たって」
「……え?」
「何人か休んでるらしくて、噂になってる。お前、安藤と仲良かったし気を付けた方がいいぜ」
「なんだそれ……初耳だ」
期末考査最終日の朝。滝沢から神妙な顔で話を持ち出され、圭太は困惑した。
太一があの車両に乗らなくなってから一週間は経つ。いつまでも未練がましく同じ車両に乗っていたけれど、ひとりが辛くて今日は隣の車両に乗ってしまった。
そこで滝沢と出会い、圭太は初めて気が付いた。指ひとつで消したあの子との思い出は――今までずっと二人仲良く過ごしていた時間は、奴も知っていてまだ覚えているということを。
「えっ一週間も会ってないの? まじかあ……。あいつサエより小さいから、見えなくても気にしてなかったわ。またべったりくっついてるんだと思ってたよ」
なぜ今日は違う車両に乗っているのか、滝沢もようやく把握したらしい。
「こないだも放課後一緒に帰ってたじゃん。コンビニで会ったの、覚えてるぞ」
「ん……でも僕もあれ以来、かな。毎朝必ず出会うのに」
「ということは、だ。安藤は一週間前から学校来てない可能性もあるな」
「えっ?」
滝沢の考察に驚いた圭太は、すっとんきょうな声をあげてしまった。その発想に至らなかった自分にも驚きだが、そう言われてみればそうかもしれない。いや、むしろそうであってほしい。
嫌われたわけではなく、ただ体調が悪くて休んでいるだけなのであれば、まだ望みはあるのでは。過度な期待をしてもしそうじゃなかった時は盛大に傷つくだろうけれど、今はまだ信じていたかった。
「そ、そうかもしれない。僕ら、いつも最後尾のドア付近で待ち合わせしてて。あいつが先に乗って席とっててくれるんだ」
「へえ、じゃあラインで連絡とり合ったりしねえの?」
「いや……それが……その……FCOのフレンド枠でしかつながってなくて……」
「はあ? 何それ。マジモンのゲームフレンドってことかよ。ツイッターとかインスタも知らねえの?」
「知らない。そういうの、僕あんまりやらないから。でもゲームも全然ログインしてないし……もしかしたら体調悪くて寝込んでるのかな」
「おい……マジかよ。それってまさか……」
そこまで言ってから最悪の事態に思考が傾き、圭太は思わずハッと滝沢を振り返った。同じことを思ったようで、滝沢も眉をひそめて考え込んでいるようだった。
「あいつが新型ウイルスの感染者になった可能性が……?」
「あるいは、安藤が濃厚接触者って可能性も」
「そ、そんな……まさかあいつ、入院とかしてないだろうな?」
心配のあまり声が大きくなったその言葉は、車内でざわつく声にかき消されていく。
周辺には同じ制服を着ている同級生たちがたくさんいることを、圭太はすっかり忘れていた。
今朝も七時三分の電車を待ちながら、FCOへログインした。ログイン中のフレンドが一覧表示される。それをスクロールし、更新し、ため息をつく。どんなに確認しても《肉食べいこ》の名前は出てこなかった。
吐いた息が冷たい外気に触れて白く浮き上がる。思わず身震いした。セーターだけではやってられない。ブレザーの前ボタンを閉じて、ふうとため息をついた。
(そういえばもうすぐ冬休みだ……)
一学期はすごく長く感じられたのに、二学期はあっという間に過ぎ去った気がする。
期末考査の期間に入り、どの部活もやっていないというのに、放課後どんなに駅を見渡しても姿を見かけない。一年二組だという滝沢の情報を信じて教室のそばまで行ってみたけれど、気後れして中を見ることすらできなかった。
(――きらわれ、た?)
だがなんの心当たりもない。最初に電車で見かけなかったときは、ついに寝坊して乗り損ねたのかと思った。
その翌日は車両を乗り間違えたかと思った。
けれど三日目には疑惑の心が芽生え。
四日目になってようやく確信した。
理由はどうあれ、避けられているのは間違いない。そして彼は電車の中だけでなく、FCOにもいない。フレンドリストに映る《肉食べいこ》のゲームキャラは、三日以上ログインされておらず、レベルも滞在マップも動いていない。
画面ごしにその名前を見ただけであの無邪気な笑顔が脳裏に浮かぶ。
ツンと鼻が痛くなった。我ながら女々しいなと苦笑する。
(連絡先知らないからどのみち会えないし。あいつとの時間はもう、終わったんだ)
わかっていた。友情なんてものは期間限定。
自分の感情だけで永遠につなぎ留めることはできないのだ。
たった一度気持ちがすれ違うだけでひび割れ、不良物件への途を辿り、最後は取捨選択されるもの。もう遊ばないゲームと同じ感覚で。
高速で変わりゆく車窓の景色を一人眺めながら、昨日まで好きだった人のフレンドコードをリストからそっと消去した。 親指ひとつで、一秒もかけずに。
早く忘れてしまおう。大丈夫。僕にはまだひとりぼっちじゃない。
FCOの世界にはサナがいる。現実世界だったら滝沢も、クラスメイトも――。
…… ……
「なあサエ知ってるか。二組から濃厚接触者が出たって」
「……え?」
「何人か休んでるらしくて、噂になってる。お前、安藤と仲良かったし気を付けた方がいいぜ」
「なんだそれ……初耳だ」
期末考査最終日の朝。滝沢から神妙な顔で話を持ち出され、圭太は困惑した。
太一があの車両に乗らなくなってから一週間は経つ。いつまでも未練がましく同じ車両に乗っていたけれど、ひとりが辛くて今日は隣の車両に乗ってしまった。
そこで滝沢と出会い、圭太は初めて気が付いた。指ひとつで消したあの子との思い出は――今までずっと二人仲良く過ごしていた時間は、奴も知っていてまだ覚えているということを。
「えっ一週間も会ってないの? まじかあ……。あいつサエより小さいから、見えなくても気にしてなかったわ。またべったりくっついてるんだと思ってたよ」
なぜ今日は違う車両に乗っているのか、滝沢もようやく把握したらしい。
「こないだも放課後一緒に帰ってたじゃん。コンビニで会ったの、覚えてるぞ」
「ん……でも僕もあれ以来、かな。毎朝必ず出会うのに」
「ということは、だ。安藤は一週間前から学校来てない可能性もあるな」
「えっ?」
滝沢の考察に驚いた圭太は、すっとんきょうな声をあげてしまった。その発想に至らなかった自分にも驚きだが、そう言われてみればそうかもしれない。いや、むしろそうであってほしい。
嫌われたわけではなく、ただ体調が悪くて休んでいるだけなのであれば、まだ望みはあるのでは。過度な期待をしてもしそうじゃなかった時は盛大に傷つくだろうけれど、今はまだ信じていたかった。
「そ、そうかもしれない。僕ら、いつも最後尾のドア付近で待ち合わせしてて。あいつが先に乗って席とっててくれるんだ」
「へえ、じゃあラインで連絡とり合ったりしねえの?」
「いや……それが……その……FCOのフレンド枠でしかつながってなくて……」
「はあ? 何それ。マジモンのゲームフレンドってことかよ。ツイッターとかインスタも知らねえの?」
「知らない。そういうの、僕あんまりやらないから。でもゲームも全然ログインしてないし……もしかしたら体調悪くて寝込んでるのかな」
「おい……マジかよ。それってまさか……」
そこまで言ってから最悪の事態に思考が傾き、圭太は思わずハッと滝沢を振り返った。同じことを思ったようで、滝沢も眉をひそめて考え込んでいるようだった。
「あいつが新型ウイルスの感染者になった可能性が……?」
「あるいは、安藤が濃厚接触者って可能性も」
「そ、そんな……まさかあいつ、入院とかしてないだろうな?」
心配のあまり声が大きくなったその言葉は、車内でざわつく声にかき消されていく。
周辺には同じ制服を着ている同級生たちがたくさんいることを、圭太はすっかり忘れていた。
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