11 / 33
Lv.1 ゲームフレンド ≧ リア友
11 推しキャラと推し友と
しおりを挟む
**
「やっば寝坊!」
まだ電車の彼と連絡を取る手段がない以上、朝七時三分の電車に乗り遅れるわけにはいかない。目覚ましのスヌーズすら二回止められず、見事に遅刻寸前。親に頼み込んで無理やり車で駅に送ってもらう。
「もう一本あとの電車でもいいじゃん。学校間に合うでしょ」
「ダメだ絶対三分発のじゃないと」
「夜遅くまでゲームしてるから寝坊したんでしょうが」
「昨日はしょうがねえんだよ、ガチの悩み相談! いろいろあんだよ、僕にも人付き合いってやつが!」
母親は「ふーんそうなの」と訝しげにしながらも、駅まで送ってくれた。本日夜の食器洗い業務との交換条件つきで。
「おっはよーケイタ。悪い、今日は席が取れなくて」
「あ……いや、いい。僕も今朝は寝坊して……やばかった」
ドア前でお互いへんな方向に飛び出た寝ぐせを指摘しあって、へらへら笑い合った。
「本当はもう一本後でも間に合うんだけどな。あっちのが乗る人多いから苦手で」
「わかる。俺もケイタがこっちに乗ってると思ったから、毎朝必死に走ってるよ」
「えっ……」
嬉しいことを告げられ、思わず頬を赤らめる。いや、これは改札口から全力疾走した結果の心拍上昇が原因だ。決して「はああ可愛いなこいつは本当に!」などと声には出さない。出してはいけない。
そうだ、ここで「じゃあライン交換しようぜ」と言えば自然に聞けるのでは。通学カバンを足元に置き、スマホを取り出して車掌席側の壁にもたれて立つと、「あっ」と太一がすっとんきょうな声をあげる。
「な、なに」
「つけて来てんじゃん、アクキー」
「あ……うん、せっかくもらったし」
「これでFCO仲間が増えるといいなっ」
「うっ、そ、そうだな」
最初に見惚れたマスク越しの満面の笑みを今日も拝むことができた。
なんと尊いことか。まばゆすぎて直視できない。
この気持ち悪いほど彼に惹かれる感情は、推しキャラを愛でるゲーム内の自分に似ている気がしてきた。二次元女子のキャラと比べたら所詮現実の男なんて、とは思うけれど、隣に立ってゲームするだけでも今日も一日頑張れるパワーを補充できる気がするのだ。なんなら妄想で太一にモフモフのコスプレをさせておけば、完璧。
もし三次元に推しを作るなら、テレビに映るアイドルよりもケモ耳しっぽ付き太一がいい。
(……ん?)
「ケイタ、駅着いたぞ。降りないのか」
妄想に浸りすぎたか、ゲームの画面に夢中になりすぎたか。ふと気づけばもうゴールの駅にたどり着いていた。先に降りる彼を追いかけて圭太も慌てて降りる。だが小柄なその姿はあっという間に同じ制服軍団の中に紛れ、消えていった。
(しまった……またライン交換しそびれた……)
「よっ、サエおはよう」
駅前の月極駐輪場に向かい、預けている自転車にかばんを投げ入れまたがった途端、後ろから滝沢に声をかけられた。
「一緒に行こうぜ」
「なんで」
「サエ、自転車乗るのへたくそじゃん。また溝に落っこちるかもだろ」
「うっさい、あれはお前のせいなんだからな!」
「助けてやったのに、心外だなあ」
そう言いつつもヘラヘラ笑う滝沢が、今度は圭太の前を先導する。遅刻するわけにはいかないので圭太もその後ろを追った。
なんだかんだ言いつつも、滝沢とは普通に話せる仲になった。
というよりは、圭太が学校で一人ぼっちにならないよう、定期的に気遣われているようだ。
(委員長でもないくせに。物好きな奴だな)
とりあえず今のうちに滝沢と仲良くしておけば、いざという時助けてもらえるかもしれない。
こいつは近い将来、生徒会長の椅子に座ってリーダーシップをとるだろう。あるいはリーダーを陰で支える副会長といったところか。そういう資質が他のクラスメイトより明らか秀でている。
ヒエラルキーの上位とは程よい距離感で付き合って、バックボーンを強固にしておく方がいい。ゲーム内でもよくある話。そういう打算的な感情で、圭太は滝沢と表面上の友人になることを選んだ。
登下校中も、教室にいる時も、滝沢は見かけるたび誰かとにこやかに談笑している。だが特定の人間ばかりというわけでもない。どうにかしてこの距離感が縮まらないクラス全員と仲良くしたいのかもしれない。
一時に比べればマシになったようだが、まだ流感クラスタの発生を恐れる教師陣は生徒を一か所に集めたがらない。マスクも学内では外せないし、結局今年は体育祭も文化祭も中止になった。本当なら二学期の今頃なんて、クラスの団結力も高まって盛り上がっている頃のはずなのに。
あれも中止。これも中止。
ごっそり消えてなくなった一学期の授業単位を取り返すかのように、ひたすら勉強ばかりの日々が続く。マスクを外してもいいと言われる日常は、いったいいつ戻るのだろう。
「やっば寝坊!」
まだ電車の彼と連絡を取る手段がない以上、朝七時三分の電車に乗り遅れるわけにはいかない。目覚ましのスヌーズすら二回止められず、見事に遅刻寸前。親に頼み込んで無理やり車で駅に送ってもらう。
「もう一本あとの電車でもいいじゃん。学校間に合うでしょ」
「ダメだ絶対三分発のじゃないと」
「夜遅くまでゲームしてるから寝坊したんでしょうが」
「昨日はしょうがねえんだよ、ガチの悩み相談! いろいろあんだよ、僕にも人付き合いってやつが!」
母親は「ふーんそうなの」と訝しげにしながらも、駅まで送ってくれた。本日夜の食器洗い業務との交換条件つきで。
「おっはよーケイタ。悪い、今日は席が取れなくて」
「あ……いや、いい。僕も今朝は寝坊して……やばかった」
ドア前でお互いへんな方向に飛び出た寝ぐせを指摘しあって、へらへら笑い合った。
「本当はもう一本後でも間に合うんだけどな。あっちのが乗る人多いから苦手で」
「わかる。俺もケイタがこっちに乗ってると思ったから、毎朝必死に走ってるよ」
「えっ……」
嬉しいことを告げられ、思わず頬を赤らめる。いや、これは改札口から全力疾走した結果の心拍上昇が原因だ。決して「はああ可愛いなこいつは本当に!」などと声には出さない。出してはいけない。
そうだ、ここで「じゃあライン交換しようぜ」と言えば自然に聞けるのでは。通学カバンを足元に置き、スマホを取り出して車掌席側の壁にもたれて立つと、「あっ」と太一がすっとんきょうな声をあげる。
「な、なに」
「つけて来てんじゃん、アクキー」
「あ……うん、せっかくもらったし」
「これでFCO仲間が増えるといいなっ」
「うっ、そ、そうだな」
最初に見惚れたマスク越しの満面の笑みを今日も拝むことができた。
なんと尊いことか。まばゆすぎて直視できない。
この気持ち悪いほど彼に惹かれる感情は、推しキャラを愛でるゲーム内の自分に似ている気がしてきた。二次元女子のキャラと比べたら所詮現実の男なんて、とは思うけれど、隣に立ってゲームするだけでも今日も一日頑張れるパワーを補充できる気がするのだ。なんなら妄想で太一にモフモフのコスプレをさせておけば、完璧。
もし三次元に推しを作るなら、テレビに映るアイドルよりもケモ耳しっぽ付き太一がいい。
(……ん?)
「ケイタ、駅着いたぞ。降りないのか」
妄想に浸りすぎたか、ゲームの画面に夢中になりすぎたか。ふと気づけばもうゴールの駅にたどり着いていた。先に降りる彼を追いかけて圭太も慌てて降りる。だが小柄なその姿はあっという間に同じ制服軍団の中に紛れ、消えていった。
(しまった……またライン交換しそびれた……)
「よっ、サエおはよう」
駅前の月極駐輪場に向かい、預けている自転車にかばんを投げ入れまたがった途端、後ろから滝沢に声をかけられた。
「一緒に行こうぜ」
「なんで」
「サエ、自転車乗るのへたくそじゃん。また溝に落っこちるかもだろ」
「うっさい、あれはお前のせいなんだからな!」
「助けてやったのに、心外だなあ」
そう言いつつもヘラヘラ笑う滝沢が、今度は圭太の前を先導する。遅刻するわけにはいかないので圭太もその後ろを追った。
なんだかんだ言いつつも、滝沢とは普通に話せる仲になった。
というよりは、圭太が学校で一人ぼっちにならないよう、定期的に気遣われているようだ。
(委員長でもないくせに。物好きな奴だな)
とりあえず今のうちに滝沢と仲良くしておけば、いざという時助けてもらえるかもしれない。
こいつは近い将来、生徒会長の椅子に座ってリーダーシップをとるだろう。あるいはリーダーを陰で支える副会長といったところか。そういう資質が他のクラスメイトより明らか秀でている。
ヒエラルキーの上位とは程よい距離感で付き合って、バックボーンを強固にしておく方がいい。ゲーム内でもよくある話。そういう打算的な感情で、圭太は滝沢と表面上の友人になることを選んだ。
登下校中も、教室にいる時も、滝沢は見かけるたび誰かとにこやかに談笑している。だが特定の人間ばかりというわけでもない。どうにかしてこの距離感が縮まらないクラス全員と仲良くしたいのかもしれない。
一時に比べればマシになったようだが、まだ流感クラスタの発生を恐れる教師陣は生徒を一か所に集めたがらない。マスクも学内では外せないし、結局今年は体育祭も文化祭も中止になった。本当なら二学期の今頃なんて、クラスの団結力も高まって盛り上がっている頃のはずなのに。
あれも中止。これも中止。
ごっそり消えてなくなった一学期の授業単位を取り返すかのように、ひたすら勉強ばかりの日々が続く。マスクを外してもいいと言われる日常は、いったいいつ戻るのだろう。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】雨上がり、後悔を抱く
私雨
ライト文芸
夏休みの最終週、海外から日本へ帰国した田仲雄己(たなか ゆうき)。彼は雨之島(あまのじま)という離島に住んでいる。
雄己を真っ先に出迎えてくれたのは彼の幼馴染、山口夏海(やまぐち なつみ)だった。彼女が確実におかしくなっていることに、誰も気づいていない。
雨之島では、とある迷信が昔から吹聴されている。それは、雨に濡れたら狂ってしまうということ。
『信じる』彼と『信じない』彼女――
果たして、誰が正しいのだろうか……?
これは、『しなかったこと』を後悔する人たちの切ない物語。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
片翼天使の序奏曲 ~その手の向こうに、君の声
さくら/黒桜
ライト文芸
楽器マニアで「演奏してみた」曲を作るのが好きな少年、相羽勝行。
転入早々、金髪にピアス姿の派手なピアノ少年に出くわす。友だちになりたくて近づくも「友だちなんていらねえ、欲しいのは金だ」と言われて勝行は……。
「じゃあ買うよ、いくら?」
ド貧乏の訳ありヤンキー少年と、転校生のお金持ち優等生。
真逆の二人が共通の趣味・音楽を通じて運命の出会いを果たす。
これはシリーズの主人公・光と勝行が初めて出会い、ロックバンド「WINGS」を結成するまでの物語。中学生編です。
※勝行視点が基本ですが、たまに光視点(光side)が入ります。
※シリーズ本編もあります。作品一覧からどうぞ
Bo★ccia!!―アィラビュー×コザィラビュー*
gaction9969
ライト文芸
ゴッドオブスポーツ=ボッチャ!!
ボッチャとはッ!! 白き的球を狙いて自らの手球を投擲し、相手よりも近づけた方が勝利を得るというッ!! 年齢人種性別、そして障害者/健常者の区別なく、この地球の重力を背負いし人間すべてに平等たる、完全なる球技なのであるッ!!
そしてこの物語はッ!! 人智を超えた究極競技「デフィニティボッチャ」に青春を捧げた、五人の青年のッ!! 愛と希望のヒューマンドラマであるッ!!
ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした
黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。
日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。
ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。
人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。
そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。
太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。
青春インターネットラブコメ! ここに開幕!
※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる