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Lv.1 ゲームフレンド ≧ リア友

11 推しキャラと推し友と

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「やっば寝坊!」
 
 まだ電車の彼と連絡を取る手段がない以上、朝七時三分の電車に乗り遅れるわけにはいかない。目覚ましのスヌーズすら二回止められず、見事に遅刻寸前。親に頼み込んで無理やり車で駅に送ってもらう。
 
「もう一本あとの電車でもいいじゃん。学校間に合うでしょ」
「ダメだ絶対三分発のじゃないと」
「夜遅くまでゲームしてるから寝坊したんでしょうが」
「昨日はしょうがねえんだよ、ガチの悩み相談! いろいろあんだよ、僕にも人付き合いってやつが!」 
 
 母親は「ふーんそうなの」と訝しげにしながらも、駅まで送ってくれた。本日夜の食器洗い業務との交換条件つきで。
 
「おっはよーケイタ。悪い、今日は席が取れなくて」
「あ……いや、いい。僕も今朝は寝坊して……やばかった」
 
 ドア前でお互いへんな方向に飛び出た寝ぐせを指摘しあって、へらへら笑い合った。
 
「本当はもう一本後でも間に合うんだけどな。あっちのが乗る人多いから苦手で」
「わかる。俺もケイタがこっちに乗ってると思ったから、毎朝必死に走ってるよ」
「えっ……」
 
 嬉しいことを告げられ、思わず頬を赤らめる。いや、これは改札口から全力疾走した結果の心拍上昇が原因だ。決して「はああ可愛いなこいつは本当に!」などと声には出さない。出してはいけない。
 そうだ、ここで「じゃあライン交換しようぜ」と言えば自然に聞けるのでは。通学カバンを足元に置き、スマホを取り出して車掌席側の壁にもたれて立つと、「あっ」と太一がすっとんきょうな声をあげる。
 
「な、なに」
「つけて来てんじゃん、アクキー」
「あ……うん、せっかくもらったし」
「これでFCO仲間が増えるといいなっ」
「うっ、そ、そうだな」
 
 最初に見惚れたマスク越しの満面の笑みを今日も拝むことができた。
 なんと尊いことか。まばゆすぎて直視できない。
 この気持ち悪いほど彼に惹かれる感情は、推しキャラを愛でるゲーム内の自分に似ている気がしてきた。二次元女子のキャラと比べたら所詮現実の男なんて、とは思うけれど、隣に立ってゲームするだけでも今日も一日頑張れるパワーを補充できる気がするのだ。なんなら妄想で太一にモフモフのコスプレをさせておけば、完璧。
 もし三次元に推しを作るなら、テレビに映るアイドルよりもケモ耳しっぽ付き太一がいい。
  
(……ん?)
「ケイタ、駅着いたぞ。降りないのか」
 
 妄想に浸りすぎたか、ゲームの画面に夢中になりすぎたか。ふと気づけばもうゴールの駅にたどり着いていた。先に降りる彼を追いかけて圭太も慌てて降りる。だが小柄なその姿はあっという間に同じ制服軍団の中に紛れ、消えていった。
 
(しまった……またライン交換しそびれた……)



  
「よっ、サエおはよう」

 駅前の月極駐輪場に向かい、預けている自転車にかばんを投げ入れまたがった途端、後ろから滝沢に声をかけられた。

「一緒に行こうぜ」
「なんで」
「サエ、自転車乗るのへたくそじゃん。また溝に落っこちるかもだろ」
「うっさい、あれはお前のせいなんだからな!」
「助けてやったのに、心外だなあ」

 そう言いつつもヘラヘラ笑う滝沢が、今度は圭太の前を先導する。遅刻するわけにはいかないので圭太もその後ろを追った。

 なんだかんだ言いつつも、滝沢とは普通に話せる仲になった。
 というよりは、圭太が学校で一人ぼっちにならないよう、定期的に気遣われているようだ。

(委員長でもないくせに。物好きな奴だな)

 とりあえず今のうちに滝沢と仲良くしておけば、いざという時助けてもらえるかもしれない。
 こいつは近い将来、生徒会長の椅子に座ってリーダーシップをとるだろう。あるいはリーダーを陰で支える副会長といったところか。そういう資質が他のクラスメイトより明らか秀でている。
 ヒエラルキーの上位とは程よい距離感で付き合って、バックボーンを強固にしておく方がいい。ゲーム内でもよくある話。そういう打算的な感情で、圭太は滝沢と表面上の友人になることを選んだ。

 登下校中も、教室にいる時も、滝沢は見かけるたび誰かとにこやかに談笑している。だが特定の人間ばかりというわけでもない。どうにかしてこの距離感が縮まらないクラス全員と仲良くしたいのかもしれない。

 一時に比べればマシになったようだが、まだ流感クラスタの発生を恐れる教師陣は生徒を一か所に集めたがらない。マスクも学内では外せないし、結局今年は体育祭も文化祭も中止になった。本当なら二学期の今頃なんて、クラスの団結力も高まって盛り上がっている頃のはずなのに。

 あれも中止。これも中止。
 ごっそり消えてなくなった一学期の授業単位を取り返すかのように、ひたすら勉強ばかりの日々が続く。マスクを外してもいいと言われる日常は、いったいいつ戻るのだろう。
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