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Lv.1 ゲームフレンド ≧ リア友
9 あの子は優しい
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人間関係を良好に保つということは、えてして面倒である。
こればかりはリアルに限らず、オンライン上でも変わらない。それどころか、顔の見えない他人とのやりとりはいつどんな地雷を踏むかわからない、一触即発のデスゲームだ。
「おいケイタぁ、お前コラボあがれって!」
<なんでだよ>
「いやあ、たまにはケイタと雑談したいじゃん?」
<マイクもってない>
「はああ? スマホでいいじゃんよ!」
<話すネタもない>
「こんにゃろう。じゃあ高難易度ミッションのバディ組んでボス戦いこうぜ。で、ゲスト枠にあがれ」
<今? >
「そう、今。お前オンラインだろ。掲示板とこいるだろ。見えてるぞぅ、逃がさねえぞぉ」
相変わらずリスナーに誰もいないサナの雑談配信。作業BGMのつもりでつないだら、喧嘩ごしに配信コラボを吹っ掛けられて思わずため息をつく。
なんのお題もない雑談だなんて苦手中の苦手なのだが、ゲームしながらの通話ならまだマシだ。圭太はやむなく誘いに応じることにした。
<じゃあ配信じゃなくてディスコード通話で。二人だけでやろうぜ>
「うぇ? あ、あー……二人だけ、で?」
<向こうで待ってる。おつ>
一方的にそう告げて、配信終了を待たずにログアウトした。どうせ他に誰もいなかったのできっとすぐ配信を切って追いかけてくるだろう。
サナとはゲーム内のレベルが近いので、お誘いがあれば時折一緒に協力プレイを楽しむ関係でもある。だが会ったことは一度もない。貴重なFCOオンラインフレンドのひとりであり、それ以上でもそれ以下でもない。
案の定三分と待たずにサナから着信が入る。スマホにイヤホンマイクを差し、ベッドに寝転がりながら応答する。
「……うす」
「久しぶりに聞いたー! ケイタの声! 相変わらずイケボだね」
「そういわれてもなあ……」
「このちょっと脱力系のチルい話し方がさ、ASMRで囁かれるみたいでたまんねーってなるのよ」
「ふうん、わからん」
「うふふん。まあこの声、私だけが独占できるっていうのもうれしいんだけどな! 配信で自慢したいっていう気持ちもあるんだよなー伝われ!」
「わからん」
ぶっきらぼうに返しても、サナはちっとも引かない。なんなら自分以上に口が悪いことを知っているので、圭太もあまり体裁を繕わない。さくさくとマルチミッションの準備を進めている間、サナはずっと何かを話し続けていた。たまに相槌を打つだけで許されるこの緩い通話が一番気楽だ。配信ともなればリスナーに気を使わなければいけなくなるし、昨日滝沢にサナを紹介したばかりだ。知り合いが聞きにくるかもしれない配信に、まさかの本名アバター+声で参加するなんて危険すぎる。確実に身バレする。
サナはそういう細かいことを全然気にしないので、説明しなくても話を合わせてくれる。よく言えば素直、悪く言えば雑。
「あんた一応名前通ってるライバーなんだから。特定のリスナーと仲良くしてるのバレるような配信すんなよ」
「えっ、あーそっか。そうやってサナのこと心配してくれるん、ケイタだけよ。優しいなあ」
「優しくないよ、僕はファンに刺されたくないから」
「うぬぅっ……」
サナの配信用アバターは、FCOのメインキャラに寄せた天然ケモ耳ロリ系美少女だ。しかも声もそこそこ可愛い。口の悪さと見た目が全然あってない上にゲーム内容がマイナーすぎてリスナーがつかないようだが、SNSではそれなりにフォロワー数も多いし、ファンはいると思う。
「優しいってのは、ガチャの大当たりを見返りなしで譲ってくれるような奴のことを言うんだよ」
「そんな風に貢がれたことないわー!」
「僕は今日、貢いでもらった。サナが使ってるキャラのアクキー」
「ええっいいな、うらやましすぎる! もしや最近出たメイド衣装のやつか」
「そう。マジかわいいよなこれ。つかサナもこの衣装持ってたよな、こないだ限定ガチャに金つぎ込んで買ってた」
「ああ、このメイドシリーズ気に入ってんだよ! 着替える。ほらっ」
サービス精神旺盛なサナが、配信でもないのに圭太のために課金装備にお着替えしてくれた。バディを組んだ剣士ケイタの隣には、アクキーと同じ衣装の同じキャラが、あざとい招き猫ポーズをとっている。
「あ、そうそうそれ。可愛い。サナ、今日ずっとそれでいて」
「えっ、あ、ああ、うん。いいよケイタのためなら」
改めて太一にもらったアクリルキーホルダーを眺め、にんまりと笑う。今日機嫌いいな、とサナに呆れられるくらいには、このプレゼントが嬉しかったのだ。
二人でゲームをプレイする間、圭太はそれをずっと指と指の間に挟んでぶら下げていた。
人間関係を良好に保つということは、えてして面倒である。
こればかりはリアルに限らず、オンライン上でも変わらない。それどころか、顔の見えない他人とのやりとりはいつどんな地雷を踏むかわからない、一触即発のデスゲームだ。
「おいケイタぁ、お前コラボあがれって!」
<なんでだよ>
「いやあ、たまにはケイタと雑談したいじゃん?」
<マイクもってない>
「はああ? スマホでいいじゃんよ!」
<話すネタもない>
「こんにゃろう。じゃあ高難易度ミッションのバディ組んでボス戦いこうぜ。で、ゲスト枠にあがれ」
<今? >
「そう、今。お前オンラインだろ。掲示板とこいるだろ。見えてるぞぅ、逃がさねえぞぉ」
相変わらずリスナーに誰もいないサナの雑談配信。作業BGMのつもりでつないだら、喧嘩ごしに配信コラボを吹っ掛けられて思わずため息をつく。
なんのお題もない雑談だなんて苦手中の苦手なのだが、ゲームしながらの通話ならまだマシだ。圭太はやむなく誘いに応じることにした。
<じゃあ配信じゃなくてディスコード通話で。二人だけでやろうぜ>
「うぇ? あ、あー……二人だけ、で?」
<向こうで待ってる。おつ>
一方的にそう告げて、配信終了を待たずにログアウトした。どうせ他に誰もいなかったのできっとすぐ配信を切って追いかけてくるだろう。
サナとはゲーム内のレベルが近いので、お誘いがあれば時折一緒に協力プレイを楽しむ関係でもある。だが会ったことは一度もない。貴重なFCOオンラインフレンドのひとりであり、それ以上でもそれ以下でもない。
案の定三分と待たずにサナから着信が入る。スマホにイヤホンマイクを差し、ベッドに寝転がりながら応答する。
「……うす」
「久しぶりに聞いたー! ケイタの声! 相変わらずイケボだね」
「そういわれてもなあ……」
「このちょっと脱力系のチルい話し方がさ、ASMRで囁かれるみたいでたまんねーってなるのよ」
「ふうん、わからん」
「うふふん。まあこの声、私だけが独占できるっていうのもうれしいんだけどな! 配信で自慢したいっていう気持ちもあるんだよなー伝われ!」
「わからん」
ぶっきらぼうに返しても、サナはちっとも引かない。なんなら自分以上に口が悪いことを知っているので、圭太もあまり体裁を繕わない。さくさくとマルチミッションの準備を進めている間、サナはずっと何かを話し続けていた。たまに相槌を打つだけで許されるこの緩い通話が一番気楽だ。配信ともなればリスナーに気を使わなければいけなくなるし、昨日滝沢にサナを紹介したばかりだ。知り合いが聞きにくるかもしれない配信に、まさかの本名アバター+声で参加するなんて危険すぎる。確実に身バレする。
サナはそういう細かいことを全然気にしないので、説明しなくても話を合わせてくれる。よく言えば素直、悪く言えば雑。
「あんた一応名前通ってるライバーなんだから。特定のリスナーと仲良くしてるのバレるような配信すんなよ」
「えっ、あーそっか。そうやってサナのこと心配してくれるん、ケイタだけよ。優しいなあ」
「優しくないよ、僕はファンに刺されたくないから」
「うぬぅっ……」
サナの配信用アバターは、FCOのメインキャラに寄せた天然ケモ耳ロリ系美少女だ。しかも声もそこそこ可愛い。口の悪さと見た目が全然あってない上にゲーム内容がマイナーすぎてリスナーがつかないようだが、SNSではそれなりにフォロワー数も多いし、ファンはいると思う。
「優しいってのは、ガチャの大当たりを見返りなしで譲ってくれるような奴のことを言うんだよ」
「そんな風に貢がれたことないわー!」
「僕は今日、貢いでもらった。サナが使ってるキャラのアクキー」
「ええっいいな、うらやましすぎる! もしや最近出たメイド衣装のやつか」
「そう。マジかわいいよなこれ。つかサナもこの衣装持ってたよな、こないだ限定ガチャに金つぎ込んで買ってた」
「ああ、このメイドシリーズ気に入ってんだよ! 着替える。ほらっ」
サービス精神旺盛なサナが、配信でもないのに圭太のために課金装備にお着替えしてくれた。バディを組んだ剣士ケイタの隣には、アクキーと同じ衣装の同じキャラが、あざとい招き猫ポーズをとっている。
「あ、そうそうそれ。可愛い。サナ、今日ずっとそれでいて」
「えっ、あ、ああ、うん。いいよケイタのためなら」
改めて太一にもらったアクリルキーホルダーを眺め、にんまりと笑う。今日機嫌いいな、とサナに呆れられるくらいには、このプレゼントが嬉しかったのだ。
二人でゲームをプレイする間、圭太はそれをずっと指と指の間に挟んでぶら下げていた。
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