7 / 33
Lv.1 ゲームフレンド ≧ リア友
7 結局つながった、初のリア友
しおりを挟む
**
帰宅するなり、泥まみれになった圭太の制服スラックスを見た母親が悲鳴を上げる。
「いやあああなにこれ。雨に濡れた? 車に泥でもかけられたの? とにかく脱いで、すぐ脱いで!」
溝に落っこちた……というのは恥ずかしいので黙っておいた。驚きのあまり自転車のハンドルを切ってしまい、見事前のめり状態になったものの、両足だけの犠牲で済んだのはまだマシだろう。滝沢のせいで今日は散々だった。《肉食べいこ》と過ごした朝の癒し時間が全部台無しになるレベルだ。
溝から自転車を引き上げてくれた滝沢とは結局ラインの交換を余儀なくされたし、途中駅で別れるまでずっと一緒だった。滝沢の最寄り駅は圭太のひとつ手前の駅だった。まさか同市民だったとは、驚きだ。近いといえば近いエリアだが、普段子どもの足でうろつく場所でもないし、その駅の周辺には市民病院があることくらいしか知らない。
「俺はどっちかっていうとゲームはやるより見る方が好きでさ」
「ああ……配信?」
「そうそう。サエは配信やってねえの?」
「無言でプレイするから。そういうの苦手。……ああでも、FCOのゲーム実況ならおすすめのライバーがいる」
「まじか、教えて。チャンネル」
「ああ……ちょっと待て。ええと……」
滝沢の巧みな会話術につられて、電車内ではそんな話まで弾んだ。それどころかずっと話しかけてくるので、スマホの画面を見る間もなかった。おかげで無駄に疲れた気がする。
「今日の周回終わってねえし。ああ、こっちのゲームのログインボーナスもまだもらってなかった」
スマホの画面に並ぶ大量のゲームアイコンを次々にタップし、今日のノルマをこなしていく。ローディングが長かったアプリからは「今日もおつかれさま」「おかえりご主人様」とほほ笑む美少女キャラたちが話しかけてくる。それを全部聞き流しながら、デイリーミッションを進める作業の最中、見慣れない通知がぽんと入った。
左側には「滝沢」の文字が丸型にくりぬかれたハンコのようなアイコン。
「今日はありがとうな」
高校生活に入ってから、リアルの学友とラインを交換したのも、トークに履歴が入ったのも今日が初めて。しかもオンラインでゲーム対戦の相手とお決まりの挨拶チャットを交わした時のような、ごく普通のメッセージ。これは返事をしなければと思い、慌ててその画面を開く。
だがさっきまで会ってさんざん話したあとなのに。まめすぎないか?
なんと返せばいい?
秒で返信したりして、ドン引きされないか?
言葉が思いつかず、しばらく返答に詰まっていると、数分後に再び滝沢とのトーク画面が動いた。
「今日さっそくサナの配信あるっぽい、観る」
スタンプ「楽しみ♪」
(サナは万年ニートだから毎日配信してるっつーの)
ひとり心の中で突っ込みを入れて笑う。
それから無言で既読をつけるだけなのは何となく癪なので、「お疲れ様」のスタンプを送信した後、再びゲームの画面に戻った。
帰宅するなり、泥まみれになった圭太の制服スラックスを見た母親が悲鳴を上げる。
「いやあああなにこれ。雨に濡れた? 車に泥でもかけられたの? とにかく脱いで、すぐ脱いで!」
溝に落っこちた……というのは恥ずかしいので黙っておいた。驚きのあまり自転車のハンドルを切ってしまい、見事前のめり状態になったものの、両足だけの犠牲で済んだのはまだマシだろう。滝沢のせいで今日は散々だった。《肉食べいこ》と過ごした朝の癒し時間が全部台無しになるレベルだ。
溝から自転車を引き上げてくれた滝沢とは結局ラインの交換を余儀なくされたし、途中駅で別れるまでずっと一緒だった。滝沢の最寄り駅は圭太のひとつ手前の駅だった。まさか同市民だったとは、驚きだ。近いといえば近いエリアだが、普段子どもの足でうろつく場所でもないし、その駅の周辺には市民病院があることくらいしか知らない。
「俺はどっちかっていうとゲームはやるより見る方が好きでさ」
「ああ……配信?」
「そうそう。サエは配信やってねえの?」
「無言でプレイするから。そういうの苦手。……ああでも、FCOのゲーム実況ならおすすめのライバーがいる」
「まじか、教えて。チャンネル」
「ああ……ちょっと待て。ええと……」
滝沢の巧みな会話術につられて、電車内ではそんな話まで弾んだ。それどころかずっと話しかけてくるので、スマホの画面を見る間もなかった。おかげで無駄に疲れた気がする。
「今日の周回終わってねえし。ああ、こっちのゲームのログインボーナスもまだもらってなかった」
スマホの画面に並ぶ大量のゲームアイコンを次々にタップし、今日のノルマをこなしていく。ローディングが長かったアプリからは「今日もおつかれさま」「おかえりご主人様」とほほ笑む美少女キャラたちが話しかけてくる。それを全部聞き流しながら、デイリーミッションを進める作業の最中、見慣れない通知がぽんと入った。
左側には「滝沢」の文字が丸型にくりぬかれたハンコのようなアイコン。
「今日はありがとうな」
高校生活に入ってから、リアルの学友とラインを交換したのも、トークに履歴が入ったのも今日が初めて。しかもオンラインでゲーム対戦の相手とお決まりの挨拶チャットを交わした時のような、ごく普通のメッセージ。これは返事をしなければと思い、慌ててその画面を開く。
だがさっきまで会ってさんざん話したあとなのに。まめすぎないか?
なんと返せばいい?
秒で返信したりして、ドン引きされないか?
言葉が思いつかず、しばらく返答に詰まっていると、数分後に再び滝沢とのトーク画面が動いた。
「今日さっそくサナの配信あるっぽい、観る」
スタンプ「楽しみ♪」
(サナは万年ニートだから毎日配信してるっつーの)
ひとり心の中で突っ込みを入れて笑う。
それから無言で既読をつけるだけなのは何となく癪なので、「お疲れ様」のスタンプを送信した後、再びゲームの画面に戻った。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
片翼天使の序奏曲 ~その手の向こうに、君の声
さくら/黒桜
ライト文芸
楽器マニアで「演奏してみた」曲を作るのが好きな少年、相羽勝行。
転入早々、金髪にピアス姿の派手なピアノ少年に出くわす。友だちになりたくて近づくも「友だちなんていらねえ、欲しいのは金だ」と言われて勝行は……。
「じゃあ買うよ、いくら?」
ド貧乏の訳ありヤンキー少年と、転校生のお金持ち優等生。
真逆の二人が共通の趣味・音楽を通じて運命の出会いを果たす。
これはシリーズの主人公・光と勝行が初めて出会い、ロックバンド「WINGS」を結成するまでの物語。中学生編です。
※勝行視点が基本ですが、たまに光視点(光side)が入ります。
※シリーズ本編もあります。作品一覧からどうぞ
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる