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Lv.1 ゲームフレンド ≧ リア友

7 結局つながった、初のリア友

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 帰宅するなり、泥まみれになった圭太の制服スラックスを見た母親が悲鳴を上げる。
 
「いやあああなにこれ。雨に濡れた? 車に泥でもかけられたの? とにかく脱いで、すぐ脱いで!」
 
 溝に落っこちた……というのは恥ずかしいので黙っておいた。驚きのあまり自転車のハンドルを切ってしまい、見事前のめり状態になったものの、両足だけの犠牲で済んだのはまだマシだろう。滝沢のせいで今日は散々だった。《肉食べいこ》と過ごした朝の癒し時間が全部台無しになるレベルだ。
 
 溝から自転車を引き上げてくれた滝沢とは結局ラインの交換を余儀なくされたし、途中駅で別れるまでずっと一緒だった。滝沢の最寄り駅は圭太のひとつ手前の駅だった。まさか同市民だったとは、驚きだ。近いといえば近いエリアだが、普段子どもの足でうろつく場所でもないし、その駅の周辺には市民病院があることくらいしか知らない。
 
「俺はどっちかっていうとゲームはやるより見る方が好きでさ」
「ああ……配信?」
「そうそう。サエは配信やってねえの?」
「無言でプレイするから。そういうの苦手。……ああでも、FCOのゲーム実況ならおすすめのライバーがいる」
「まじか、教えて。チャンネル」
「ああ……ちょっと待て。ええと……」
 
 滝沢の巧みな会話術につられて、電車内ではそんな話まで弾んだ。それどころかずっと話しかけてくるので、スマホの画面を見る間もなかった。おかげで無駄に疲れた気がする。
 
「今日の周回終わってねえし。ああ、こっちのゲームのログインボーナスもまだもらってなかった」
 
 スマホの画面に並ぶ大量のゲームアイコンを次々にタップし、今日のノルマをこなしていく。ローディングが長かったアプリからは「今日もおつかれさま」「おかえりご主人様」とほほ笑む美少女キャラたちが話しかけてくる。それを全部聞き流しながら、デイリーミッションを進める作業の最中、見慣れない通知がぽんと入った。
 左側には「滝沢」の文字が丸型にくりぬかれたハンコのようなアイコン。
 
「今日はありがとうな」
 
 高校生活に入ってから、リアルの学友とラインを交換したのも、トークに履歴が入ったのも今日が初めて。しかもオンラインでゲーム対戦の相手とお決まりの挨拶チャットを交わした時のような、ごく普通のメッセージ。これは返事をしなければと思い、慌ててその画面を開く。
 だがさっきまで会ってさんざん話したあとなのに。まめすぎないか?
 なんと返せばいい?
 秒で返信したりして、ドン引きされないか?
 
 言葉が思いつかず、しばらく返答に詰まっていると、数分後に再び滝沢とのトーク画面が動いた。
 
「今日さっそくサナの配信あるっぽい、観る」
 スタンプ「楽しみ♪」

(サナは万年ニートだから毎日配信してるっつーの)
 
 ひとり心の中で突っ込みを入れて笑う。
 それから無言で既読をつけるだけなのは何となく癪なので、「お疲れ様」のスタンプを送信した後、再びゲームの画面に戻った。

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