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Lv.1 ゲームフレンド ≧ リア友
3 リアルにつなげる勇気
しおりを挟む(馬鹿だな僕は。どうせ自粛中の暇つぶしにゲームするような奴なのに……)
いわゆる陰キャに分類される圭太だが、なぜか昔から陽キャの級友によく絡まれる。というよりは、都合のいい数合わせにされると言うべきか。
向こうは仲良くすれば誰でもいいようだし、それ以上の他意はない。そんな関係だと心の奥でわかっていても、自ら友人を作るのが苦手な圭太は少し嬉しくて、過度に期待して、本気の友情を夢見てしまう。
感情の重さが桁違いなのだ。
(出会った時からうすうす感づいてたけど、こいつもそうっぽいなあ……そのうち飽きちゃったりしないかな……)
「うへえ。ケイタの二刀流剣士、マジ強っ。なんでこんな火力高いの。ほぼワンパン」
「まあ、初期から手塩にかけて育ててきたから。僕の分身みたいなもんだな」
「マルチミッションどこ行ってもケイタのタコ殴りで終わるんだけど。最強すぎだろーかっこよ!」
彼がここですごい、すごいと賞賛するのはリアルの三枝圭太ではない。ゲームの中にいるアバターキャラクター・ケイタだ。
少しだけ嫉妬してしまうけれど、このキャラのおかげで彼と仲良くなれたのだ。感謝せねば。それにこのキャラさえいれば――。
「初級中級クラスのミッションならコイツの物理攻撃でワンパンできるし。また明日も付き合うよ」
「えーいいのか? そっちのミッション進まないし、ケイタにうまみないのに」
「ドロップアイテムは平等に入るから、気にしない」
「いい人すぎだろケイタ。推せるわ」
「おっ……おお?」
(推しに推せるって言われたんだが!? もはやうまみしかないわ!)
目を細め、屈託なく笑う彼は、遠慮なく圭太の腕にしがみついて喜ぶ。それだけで圭太の幸せ指数はうなぎのぼりだ。
彼はこの先もずっとゲーム友だちとして仲良くしてくれるだろうか。正直FCOがなかったら、新型ウイルス騒ぎで自粛生活にならなければ。彼とこうして知り合うことも会話することもなかったわけで。悪役ウイルスに感謝の念さえ抱いてしまう。
だが彼がこのゲームに飽きてしまったら?
この車両に乗らなくなったら。
――この関係は消えてなくなる。かもしれない。
本当はもっと一緒に居たいし、ゲーム以外の事も話してみたい。一緒に弁当を食べたり、寄り道して買い食いしたり……彼とならそんな時間もきっと楽しいだろう。できればこの先も、ずっと一緒にいたい。
勇気を出して今日こそこの気持ちを伝えたい。
「っ……あの」
『本日もぉ、JR東日本をご利用くださりぃ、ありがとうございます。間もなくぅ……』
勇気を出しかけた途端、鼻声の車内アナウンスがすべてを掻き消した。
最寄り駅に着いた。楽しい時間の終了の合図。三十分なんてあっという間だ。彼は圭太のなけなしの勇気など一ミリを知らないまま、「また明日も席とっとくな」と通学カバンを持って立ち上がる。
乗客の流れに沿って駅のホームに降りると、同じ制服の高校生たちがあちこちから姿を現した。さっきまで二人きりだった世界が一瞬にして雑踏にかき消されていく。
「おはよう」
「うっすー」
「タイチ、お前寝癖やばっ」
「だろ?」
友だちが多い彼は雑踏内の黒い塊から次々に呼ばれて、笑いながらどんどん遠ざかる。その隣を占領する勇気が持てない圭太は、わざと少し離れて距離を取った。
(あいつ、タイチっていうんだ……)
ずっと彼の本名を知りたくて、遠回しに当たり障りのない会話で探ってきた。せっかく本名に関する話までこぎつけることができたのに、会話下手なせいで結局聞きそびれてしまった。
他人との会話を盗み聞きして知った本名。けれど圭太が知る彼の名は《肉食べいこ》だ。だから明日会っても「おはよう、タイチ」とはまだ言えない。
「《肉食べいこ》ってあほか。名前で呼ぶ方の身にもなれよ。恥ずいっつうの」
マスク越しに小声で文句を零してから、圭太は速足で彼らを追い越し一人で登校した。
明日こそ……明日こそは、名前を聞けますように。
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