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七冊目 恋の悩みもラジオにのせて
……⑤ ♡
しおりを挟む「あ、ぁあっ……ぅ……っ」
思わずあられもない声を上げてしまうほど、その鍛え抜かれたフェラテクニックには敵わない。ゆるゆると舐め上げ、じゅるり音を立てては吸い付き、さっきの鶏肉のように時折食む。
その喉奥の収縮はきっとまだ知らぬ女性のそれと同じで。
いや、それ以上に気持ちよくて、抗えない。
この喉を、この身体を全部己の分身だけで犯して埋め尽くしたい欲がなけなしの理性を浸食していく。
「……きもひいい?」
「はぅ……あっ」
「っ……はは……またでかくなった……すっげ……」
(可愛い顔してそんなこと聞いてくるな! ていうか実況すんな!)
先端にふうと熱い息を吹きかけられ、びくびくと何かがせり上がってくるのがわかる。
「こことか、触ったらキモチイイだろ?」
光は天を衝く裏筋を舐め上げながら、会陰筋を何度も撫で『スイッチ』を的確についてくる。慣れたその手つきは艶麗で、無駄がない。
初冬の冷えた部屋にいるはずなのに、気づけば汗で背中はぐっしょりだ。
「はあ……はあ……っ、も……むり……っ」
「我慢しなくていいって……」
今すぐこの武器を彼の最奥に押し込めて欲望を吐き出したい。勝手に浮き上がる腰に力を込めて制御していたら、再び愛おしそうな表情で勝行のそそり立つ欲を呑み込んでいくのが見えた。
頬にかかる髪を耳にかけながら咥える光の一挙一動が艶めかしくてエロティックだ。こんな姿、きっとどこのグラビア女優にも負けやしない。
本当は自分を気遣ってくれただけの、慈愛に満ちた奉仕活動だというのに。
(ダメだ、俺たちは義兄弟《きょうだい》だ。光を犯すなんて……っ)
『いい加減正直になれよ、カツユキ』
(……っ⁉)
突然、心の奥底から低い声が流れ込んできて勝行は目を瞠った。
と同時に、バキュームのごとく吸い上げる光の強い攻撃に、頭のネジが吹っ飛んだ。思わずフェラ中の顔を掴み、腰を激しく打ち付け喉に押し込んでしまう。
「あ、く、んんっ……ひか、光……ひかるっ」
「……ん、んーっ」
ごぼごぼと泡立つ音。白目を剥いたまま何度も喉を鳴らす響き。
渾身の限り吐き出した白濁液の量は半端なく、光の口からぽたぽたと零れ落ちてくる。
「はあっ……はあ……っ……」
肩で息をしながら達成の余韻に浸っていたら、また脳内から『意外とやるじゃん』とバカにしたような声が響いてきた。
(俺が本当は……優しい王子でもなんでもなく……傷つけて犯すことばかり考えているドSの悪魔だって知ったら……光は幻滅するだろうか……)
本当の自分が何者なのかわからない。セーブできない己を曝け出すことが怖い。心の奥から話しかけてくる黒い存在も。
同じ身体の中にとんでもない悪魔がいるのは知っている。そいつが自分と同じ名を名乗って、外で何かしているのも。ただその時、何をしているのかまでは見えないし知り得ない。わかるのは、この世で最も愛おしい存在を毎回傷つけては泣かせていることだけ。
(ああそっか……知ってる……知ってるよな……俺がとんでもなく酷い人間ってことぐらい……光はもう……。それでもここにいてくれる……いっつも俺のこと……気にかけて……心配して、くれて……)
止まらない射精時間の中でそんなことをぼんやり考えていたら、するりと何かが自分の意識を引き抜いて、闇の中に閉じ込めていくのがわかる。深い深い心の穴に、落ちていく。
『もういいよな?』
その後の記憶は、何一つ残っていなかった。
「…………光……」
しんしんと冷え込む深夜の蒼い闇の中。
窓を伝う雨の音が、ゆっくり勝行の耳に鳴り響いて目が覚めた。
下半身むき出しになった状態の自分が、呆然とベッドの上に座っている。思う存分欲望を放出した後なのか、あれほど猛々しく昂っていた中心はナリをひそめていた。
隣にはシーツの上に横たわり、浅い息をする光が泥のように深く深く眠っている。首には血がにじむほどのひどい噛み跡。服は全部ぐちゃぐちゃにはぎとられ、方々に赤い吸い跡が散る。何も纏わぬ白く細い大腿部から流れ落ちるのは白濁した分泌液。
それらはまるで、暴漢の愚行を散々受け入れて気を失ったかのような――。
それが唯一の、飛んで消えた記憶の手がかりだった。
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