両翼少年協奏曲~WINGS Concerto~【腐女子のためのうすい本】

さくら怜音/黒桜

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七冊目 恋の悩みもラジオにのせて

……②

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番組企画書
番組名:らじこむういんぐす
放送時間:毎月第一、第三水曜の23時~23時30分 十二月スタート
放送形態:事前収録
番組内容:女子高生から主婦の間で大人気の美少年アイドルバンド「WINGS」があなたのお耳を癒します。女性向けサービスとしてのファンサービスはもちろん、音楽や教養クイズ、ゲームを通じてリスナーに仲良しぶりや笑いを提供。二人の素顔に迫ります。リスナーリクエスト中心。罰ゲームあり。


音楽要素などひとかけらも――いや、とってつけたように書かれた企画書には、はっきり「アイドル」と記載されていた。おまけに女性向けサービス。クイズやゲーム。つまり、バラエティ番組になるというわけだ。勝行の理想とした、音楽論を熱く語るラジオではないことは痛いほどよくわかる。

「罰ゲームって何すんの……こええな」
「そうねえ。せんぶり茶でも飲む?」
「それ何?」
「この世で最も苦いお茶」
「うえええ……最悪。俺、苦いの嫌い」

勝行の悲鳴のような嘆きに苦笑を零しながら事務所に入ってきたプロデューサー・置鮎保は、台本を見ながら光と普通に会話している。二人とも、勝行がとことん落ち込んでいるのは見て見ぬふりをしてくれているようだ。バツの悪そうな顔をして戻ってきた高倉も、ホットの缶コーヒーを差し入れしてくれた。

(今日は喜んだり落ち込んだり……感情がジェットコースター状態だ)

どんなに理不尽な内容の仕事でも、これらを足掛かりにして知名度を上げ、音楽性の高いミュージシャンだと認めてもらうより他にない。同じく今まで「顔で売りたくない」と顔出しをごねる光を説得してきた側の人間である以上、ここで我儘を言うことも、断ることもできるわけがない。八方塞がりの中、勝行はだんだん胃が痛くなってきた。

(だめだ……精神的に疲れてる……)

「光はこれ、平気なの?」
「平気っていうか、なんか全然想像がつかねえっていうか……でも俺、トークは全然できねえから、勝行がなんか話題を振ってくれるとか、お題があれば。時間稼ぐぐらいはできるかも」
「おお、頼もしいな光クン」
「いつもと逆ね」
「まあ、別にウケ狙わなくてもいいんだろ? 俺、ツッコミは得意だけどボケは無理だかんな」
「そんな関西人魂は出さなくてもいいわよ」

(……そうだ。光は関西出身だし意外とこういうのは向いているのかも)

漫才師のようなボケツッコミで、ボケ担当になった自分も妄想してみた。だがまったくイメージがわかない。うまくできる気もしない。
さらに落ち込んで一人俯いていると、保が隣に座りながらポンと肩を叩いた。

「勝行。あんた結構あがり症で、トーク苦手でしょう。バンドの顔になるセンターボーカルのくせに、スイッチ入るまでが固い」
「……あ、はい。すみません……」

身も蓋もない事実を言われて、さらに心が折れそうになる。が、保はそれを払拭するような勢いで勝行の首に腕を回し、頭をぐりぐり撫でて笑った。

「だからこの案件、とってきたのよ。ラジオトークで少しでも本番や即興に強くなる練習をするの。大丈夫、お前は堅物のネジが取れたら最高の王子様になれる」
「……練習、ですか」
「そうよ。受験が終わるまであともう少し。表立った活動を再開する前に、まずはラジオで修行しなさい」

保の話によると、この番組枠に合わせてファンクラブもできるらしい。いずれはラジオのリスナー特典として、ファン限定ライブや公開収録を企画すると。よく読めば、ラジオ自体はそのファンクラブコンテンツの付属の一つだった。

(そういうことか……当たり前だよな。デビューしていきなり活動休止してる無名のバンドにそんな美味しい話、あるわけない)

「ここは日頃から応援してくれてるファンと交流するためのファンサだと思って。あ、もちろん、毎回女の子を口説き落とすようなセリフも考えておいてね」
「ファン感謝企画ってとこですね……てか俺、どんだけチャラ王子設定なんですか」
「あー。心配しなくても、巨乳のお姉さんを同席させておいたら素で口説き出すから、こいつ」
「ちょっ……するわけないだろ失礼な」
「でも下ネタトークもアリの方向で。台本にも書いてるけど、深夜帯だし。『王子様だけどロックと巨乳好きの普通の男の子』っていうギャップがきっとウケるわよ」
「でも勝行、ドーテーだからそういうの無理じゃね?」
「うるさいな!」

光と保の手酷い会話にいちいちツッコミを入れるたび、その場がどっと笑い声に包まれる。勝行の顔にもようやく力のない笑顔が浮かんでいた。



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