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六冊目 ハロウィンナイト ~おれたちの推しインキュバスをオオカミから全力で守る会~
……③
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「聞いたわよ、今年のハロウィンライブの衣装。腕によりをかけて最高の物を用意したから、二人とも絶対着るのよ。あとで観に行くからね」
「――は、はい」
衣装を渡しながら物凄い低音ボイスで凄むこのオネエは、本当に自分たちを最も愛してくれているプロデューサーなのだろうか……?
疑いたくなる気持ちを抱えつつ、勝行と光は与えられた衣装袋を受け取り、ライブハウスに向かった。
「なあ、淫魔ってのは裸なのか?」
「は?」
ロッカー室で着替えの最中、突然光が不思議な質問を投げかけてきたので勝行は思わず振り返り――盛大に生唾を飲み込んだ。
布量が圧倒的に少ないその衣装は、エナメルのショートパンツが唯一の服と言っても過言ではない。上半身の服がないのだ。可愛らしい悪魔の羽がついている胸当てが、かろうじて乳首を隠してくれている程度。ボンテージというやつか。
「き……際どいのはダメって言ったのに……」
「なんかちょっと、これキツい」
もぞもぞと動きながら、ぴっちり締められたその黒い布を動かすたびに、秘部が見えそうになって勝行の心臓が止まりそうになる。
なんということだ。愛しい相方のこんなえっちな姿、他人の前に晒すだなんて……。勝行にしてみればとんでもない苦行だ。ライブをボイコットして今すぐ連れて帰りたい。しかもほんの少し後ろを振り向いただけで、首筋の赤い痕が幾つも見えている。それは――自分が毎晩寝ている間にこっそり付けている、秘密のキスマーク。
(これは……ヤバイ……あ、鼻血でる)
思わず自分の鼻の下に手をやりながら、勝行は慌てて自分の脱いだシャツを押し付けた。
「あのっ。さ、寒いだろうそれ。風邪ひくし、俺の上着着ておきな」
「ああ、あんがと」
特に疑うこともなく素直に受け取り、光は勝行のワイシャツを羽織った。それでも見える細いうなじは色気があっ
て怖いぐらいに美しい。かぶりつきたくなる衝動を抑えながら、勝行は背を向けてぽつりぼやいた。
「仕事……嫌だな」
光は不思議そうに首を傾げて振り返る。
「えー……珍しい……どうした。なんか嫌なことあったのか」
「あ、いや……まあ……コスプレがちょっと……」
「ああこれ? どうせ歌ってたら服なんか気にならねえよ。いつもライブで着てるスーツとかも、じゃらじゃら飾りだらけで漫画みたいな派手なやつばっかじゃん。今更だろ。それより早くライブしようぜ」
ピアノが弾きたくてしょうがないらしい光は、子ども体質が抜けず未だムダ毛のない細い腕を空に突き上げ、空中で鍵盤を弾き鳴らす仕草を見せた。背中についた悪魔の羽ごと、楽し気に揺れるその姿を見て、勝行はそれもそうだな、と苦笑した。
光の姿を見られたくないだなんて――たとえどんな衣装を着ていても思う汚い独占欲だ。そんな負の感情、歌って叫んで、どうにか吐き出してしまえばいい。自分の服はどうせ耳と尻尾がついている程度だろうし。
俺も着替えるよ。そう言ってロッカールームを開けた勝行が、悲鳴のような声をあげたのは、それからものの三分もしないうちのことだった。
「なんで狼なのにスカートなんだ!!」
おかしい、これは絶対おかしい!
スラックスがないことに絶望しか感じられない。それどころか、ニーハイソックスとガーターベルトが入っていて、どうやって使うんだこれは、と愕然とした。
「どうした勝行……」
その叫び声に驚いてロッカーをのぞき見した光は、さっきの勝行同様「うっ」と呻いて口元を手で押さえた。
「かっ……かわ……」
「可愛いって言ったらお仕置きだからな」
先手を打って凄んでみると、案の定言いかけていた光はうぐっと眉間に皺を寄せた。だがこれはどう考えても乙女趣向をこじらせ気味な奴の性癖ドストライク――。
カチューシャにはボリューム満点の狼耳。黒とオレンジの編み上げワンピース。後ろリボンには立派なモフモフの尻尾がついている。これが、WINGSプロデューサー謹製・狼男(の娘?)コスチュームだった。狼というより、ほぼケモ耳ロリィタである。
「あの……しゃ……写真を」
「撮影禁止!」
「うええ、そんなああ」
ことごとくダメ出しをくらい、半べそ顔の光は情けない声をあげながら勝行に抱きついてきた。
「ちょっ、何すんだよ!」
「もうむり……むり、可愛い! かーわーいーいー」
「それ言うなって言っただろうが! はなせっ」
衣装を中途半端に纏った勝行を何度も見ては顔を胸に摺り寄せ、怒られようが頭を殴られようがおかまいなしに、幸せすぎる、と抱きしめる腕に力を込める。
「聞いたわよ、今年のハロウィンライブの衣装。腕によりをかけて最高の物を用意したから、二人とも絶対着るのよ。あとで観に行くからね」
「――は、はい」
衣装を渡しながら物凄い低音ボイスで凄むこのオネエは、本当に自分たちを最も愛してくれているプロデューサーなのだろうか……?
疑いたくなる気持ちを抱えつつ、勝行と光は与えられた衣装袋を受け取り、ライブハウスに向かった。
「なあ、淫魔ってのは裸なのか?」
「は?」
ロッカー室で着替えの最中、突然光が不思議な質問を投げかけてきたので勝行は思わず振り返り――盛大に生唾を飲み込んだ。
布量が圧倒的に少ないその衣装は、エナメルのショートパンツが唯一の服と言っても過言ではない。上半身の服がないのだ。可愛らしい悪魔の羽がついている胸当てが、かろうじて乳首を隠してくれている程度。ボンテージというやつか。
「き……際どいのはダメって言ったのに……」
「なんかちょっと、これキツい」
もぞもぞと動きながら、ぴっちり締められたその黒い布を動かすたびに、秘部が見えそうになって勝行の心臓が止まりそうになる。
なんということだ。愛しい相方のこんなえっちな姿、他人の前に晒すだなんて……。勝行にしてみればとんでもない苦行だ。ライブをボイコットして今すぐ連れて帰りたい。しかもほんの少し後ろを振り向いただけで、首筋の赤い痕が幾つも見えている。それは――自分が毎晩寝ている間にこっそり付けている、秘密のキスマーク。
(これは……ヤバイ……あ、鼻血でる)
思わず自分の鼻の下に手をやりながら、勝行は慌てて自分の脱いだシャツを押し付けた。
「あのっ。さ、寒いだろうそれ。風邪ひくし、俺の上着着ておきな」
「ああ、あんがと」
特に疑うこともなく素直に受け取り、光は勝行のワイシャツを羽織った。それでも見える細いうなじは色気があっ
て怖いぐらいに美しい。かぶりつきたくなる衝動を抑えながら、勝行は背を向けてぽつりぼやいた。
「仕事……嫌だな」
光は不思議そうに首を傾げて振り返る。
「えー……珍しい……どうした。なんか嫌なことあったのか」
「あ、いや……まあ……コスプレがちょっと……」
「ああこれ? どうせ歌ってたら服なんか気にならねえよ。いつもライブで着てるスーツとかも、じゃらじゃら飾りだらけで漫画みたいな派手なやつばっかじゃん。今更だろ。それより早くライブしようぜ」
ピアノが弾きたくてしょうがないらしい光は、子ども体質が抜けず未だムダ毛のない細い腕を空に突き上げ、空中で鍵盤を弾き鳴らす仕草を見せた。背中についた悪魔の羽ごと、楽し気に揺れるその姿を見て、勝行はそれもそうだな、と苦笑した。
光の姿を見られたくないだなんて――たとえどんな衣装を着ていても思う汚い独占欲だ。そんな負の感情、歌って叫んで、どうにか吐き出してしまえばいい。自分の服はどうせ耳と尻尾がついている程度だろうし。
俺も着替えるよ。そう言ってロッカールームを開けた勝行が、悲鳴のような声をあげたのは、それからものの三分もしないうちのことだった。
「なんで狼なのにスカートなんだ!!」
おかしい、これは絶対おかしい!
スラックスがないことに絶望しか感じられない。それどころか、ニーハイソックスとガーターベルトが入っていて、どうやって使うんだこれは、と愕然とした。
「どうした勝行……」
その叫び声に驚いてロッカーをのぞき見した光は、さっきの勝行同様「うっ」と呻いて口元を手で押さえた。
「かっ……かわ……」
「可愛いって言ったらお仕置きだからな」
先手を打って凄んでみると、案の定言いかけていた光はうぐっと眉間に皺を寄せた。だがこれはどう考えても乙女趣向をこじらせ気味な奴の性癖ドストライク――。
カチューシャにはボリューム満点の狼耳。黒とオレンジの編み上げワンピース。後ろリボンには立派なモフモフの尻尾がついている。これが、WINGSプロデューサー謹製・狼男(の娘?)コスチュームだった。狼というより、ほぼケモ耳ロリィタである。
「あの……しゃ……写真を」
「撮影禁止!」
「うええ、そんなああ」
ことごとくダメ出しをくらい、半べそ顔の光は情けない声をあげながら勝行に抱きついてきた。
「ちょっ、何すんだよ!」
「もうむり……むり、可愛い! かーわーいーいー」
「それ言うなって言っただろうが! はなせっ」
衣装を中途半端に纏った勝行を何度も見ては顔を胸に摺り寄せ、怒られようが頭を殴られようがおかまいなしに、幸せすぎる、と抱きしめる腕に力を込める。
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