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五冊目 恋愛相談には危険がいっぱい!? ~えっちな先生いかがですか
……①
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駅からは少し離れた新宿のとあるビル一階には、防音完備の音楽スタジオがいくつも設置されている。
有志のバンドマンや音楽関係者による共同経営で運用されているここは、高校生ロックバンド【WINGS】の練習場兼収録現場でもある。
**
「えっ保さんが休み?」
いつも誰よりも現場入りが早い仕事の鬼、置鮎保がスタジオに居ないと知った時、勝行は異常なほどに驚いていた。光もそこまでビックリすることじゃねえだろと思いつつも、よく考えてみたら彼のいない仕事日なんてなかったことに気づく。
「ふーん。腹でも壊した?」
「遊び人の変な男に捕まって、ヤバイことに巻き込まれてるんじゃ……」
「お前らのプロデューサーに対する認識って何なの?」
苦笑しながら光と勝行の推察を聞く受付スタッフは、保から預かったというクリアファイルとデータUSBを渡して「がんばれよ」と声掛けた。いつもは保護者ありで利用している音楽スタジオを、初めて高校生だけで借りることになる。クリアファイルの中には、スタジオの予約受付表と保のサインが記された書類も入っていた。
「ここは保さんの所有するスタジオだけど、一応レンタルスペースだから、今日は利用客として時間枠だけ守ってくれな」
「……わかりました。でも今日は新曲の出来具合をチェックしてもらう日だったんだけど……どうしようか」
「あいつ、途中で来ないの?」
「さあどうだろう。なんでも緊急で病院に行くって言ってたけど」
「病院!?」
スタッフの不穏な単語に思わず二人の声がハモった。
「あの斬っても死ななそうな変態鬼畜野郎が病院?」
「やっぱり何かあったんだ……」
「ほんとに腹壊したのかな」
「それはわからないけど、すみませんどちらの病院かご存知ないですか?」
「えっ、あ、いやあ……聞いてないけど……誰か知ってるかあ?」
物凄い剣幕で勝行に迫られたスタッフは、困った様子で周りの関係者に声をかける。その間、勝行はスマホで部下に連絡を入れ、保の行き先を調べろと間髪入れずに指示を送る。ギターも鞄も手に持ったまま、ちっともカウンターから動かない勝行を見ながら、光は冷ややかに突っ込んだ。
「そんなの調べてどうするんだ?」
「いや……どうってことはないけど……気になるじゃないか」
置鮎保といえばWINGSの専属プロデューサーでもあるが、それ以前に勝行を音楽の世界へと導いた恩義ある先輩だ。勝行が他の人間以上に彼を尊敬し、憧れていることは光が一番よく知っている。正直、嫉妬で腹が立つくらいには。
だがこれではスタジオ練習も録音もまともにできそうにない気がする。溜息をついた光は勝行の手を強引に取った。
「なに?」
「ここでウダウダしてたって変わらねーだろ、いくぞ」
「ど、どこへ」
「それを今お前が調べてるんだろうが。タモツんとこ、乗り込むぞ」
渡された資料とUSBメモリをカウンターに置き去りにしたまま、光は勝行を連れてスタジオを飛び出した。
有志のバンドマンや音楽関係者による共同経営で運用されているここは、高校生ロックバンド【WINGS】の練習場兼収録現場でもある。
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「えっ保さんが休み?」
いつも誰よりも現場入りが早い仕事の鬼、置鮎保がスタジオに居ないと知った時、勝行は異常なほどに驚いていた。光もそこまでビックリすることじゃねえだろと思いつつも、よく考えてみたら彼のいない仕事日なんてなかったことに気づく。
「ふーん。腹でも壊した?」
「遊び人の変な男に捕まって、ヤバイことに巻き込まれてるんじゃ……」
「お前らのプロデューサーに対する認識って何なの?」
苦笑しながら光と勝行の推察を聞く受付スタッフは、保から預かったというクリアファイルとデータUSBを渡して「がんばれよ」と声掛けた。いつもは保護者ありで利用している音楽スタジオを、初めて高校生だけで借りることになる。クリアファイルの中には、スタジオの予約受付表と保のサインが記された書類も入っていた。
「ここは保さんの所有するスタジオだけど、一応レンタルスペースだから、今日は利用客として時間枠だけ守ってくれな」
「……わかりました。でも今日は新曲の出来具合をチェックしてもらう日だったんだけど……どうしようか」
「あいつ、途中で来ないの?」
「さあどうだろう。なんでも緊急で病院に行くって言ってたけど」
「病院!?」
スタッフの不穏な単語に思わず二人の声がハモった。
「あの斬っても死ななそうな変態鬼畜野郎が病院?」
「やっぱり何かあったんだ……」
「ほんとに腹壊したのかな」
「それはわからないけど、すみませんどちらの病院かご存知ないですか?」
「えっ、あ、いやあ……聞いてないけど……誰か知ってるかあ?」
物凄い剣幕で勝行に迫られたスタッフは、困った様子で周りの関係者に声をかける。その間、勝行はスマホで部下に連絡を入れ、保の行き先を調べろと間髪入れずに指示を送る。ギターも鞄も手に持ったまま、ちっともカウンターから動かない勝行を見ながら、光は冷ややかに突っ込んだ。
「そんなの調べてどうするんだ?」
「いや……どうってことはないけど……気になるじゃないか」
置鮎保といえばWINGSの専属プロデューサーでもあるが、それ以前に勝行を音楽の世界へと導いた恩義ある先輩だ。勝行が他の人間以上に彼を尊敬し、憧れていることは光が一番よく知っている。正直、嫉妬で腹が立つくらいには。
だがこれではスタジオ練習も録音もまともにできそうにない気がする。溜息をついた光は勝行の手を強引に取った。
「なに?」
「ここでウダウダしてたって変わらねーだろ、いくぞ」
「ど、どこへ」
「それを今お前が調べてるんだろうが。タモツんとこ、乗り込むぞ」
渡された資料とUSBメモリをカウンターに置き去りにしたまま、光は勝行を連れてスタジオを飛び出した。
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