48 / 106
四冊目 りんごあめと白雪王子 ~絶対恋愛関係にならない二人の最後の夏休み
りんごあめ、ひとつ……⑤
しおりを挟む
**
――油断した……!
そういえばファーストアルバムのプロモーション動画、もうオンエア解禁してるって保さんが言ってたんだった。あれ、俺たち思いっきりドアップで写ってたからなあ。顔出し動画の反響ってすごいな。
「はぁっ……、まっ……」
――光なんかただでさえ目立つ容姿なのに、あの動画見られてるんじゃな……。
それにしてもまさかこんな田舎で言われるとは。
「……かつ、ゆき、……まてって……」
「っ」
苦しそうな光の声が、遠いところから聴こえてくる。
はっと振り返った勝行は、全力疾走の脱走についてこられなくなった光が、息を切らしながら足をふらつかせている姿を目にして慌てて逆走した。
「ご、ごめんっ、大丈夫か、光」
考え事をしながら夢中で逃げていたせいで、うっかり光に喘息発作につながるような激しい運動をさせてしまった。
(だめだ、うっかりしすぎだろ……っ、冷静にならないと)
勝行は自分を脳内で叱咤しながら、すっかり足の止まった光の傍に駆け寄った。ぜいぜいと息を荒げながらも必死に呼吸を整えていた光は、戻ってきた勝行に少し凭れかかり、掠れた声でかろうじて返事する。
「ごめん、こんなところで騒がれるとか思わなくて。ここで止まろう、深呼吸して……」
「……はあ……はあ……」
「ごめんね……」
背中を何度もさすったり、タオルハンカチを取り出して汗をぬぐってやりながら、勝行は申し訳なさそうに何度も謝った。
「もう一度戻る?」
「……んなことしたら、お前……また女子に捕まるだろ」
「確かに……」
「はぁ……ん、よし……大丈夫。な、たこ焼き食って帰ろうぜ」
どうにか落ち着いたらしい光は、まだ額から時折ぽたぽたと汗をかきながら、それでも笑顔で勝行に提案した。自分の腕でそれを拭いつつ、手にずっと持っていたたこ焼きを袋から取り出すと、迷わず開ける。
「祭りはもういいのか?」
「ああ、もう腹減ったよ。……んんーっ、うまっ」
爪楊枝を折るのではと思うほどの勢いでばくりと一飲みした光が、嬉しそうな表情を綻ばせているのを見て、勝行もつられて笑ってしまった。
「ふふふ……じゃあ、あそこの自販機で飲み物買って帰るか」
「ん」
祭り会場に背を向けると、二人はたこやきを食べながらゆっくりと歩きだした。
走っている間にいい頃合いまで冷めたたこ焼きは、光の口の中へとあっという間に消えていく。食べたかったのにいろんなところで散々邪魔された大好物だ。ようやくたどり着いたごちそうを口にできて、光はいたく満足しているようだ。ものすごい勢いで消えていくたこ焼きを見ながら、勝行は光の頬についた海苔を指で拭いてやった。
「たこ焼き、多めに買っておいてよかった」
「そうか? これじゃ足んねーぞ」
「飴も食べたのに?」
食べるだろうと思って三舟分買ってきたのだが、これではどうやら自分の取り分もなさそうだ。
「あ、あそこにコンビニがある」
「おにぎり買おうぜ」
「ああ、いいね。鮭があるかどうかはわからないけど」
「えーっ。なかったら……梅かな」
「お茶もそっちで買うか」
「そうだな。おい勝行、たこ焼きなくなるぞ。食わねえの?」
「うそだろ……早いって」
あっという間に食べ終わったたこ焼きは、途中の一玉だけ、勝行の胃の中に納まった。
――油断した……!
そういえばファーストアルバムのプロモーション動画、もうオンエア解禁してるって保さんが言ってたんだった。あれ、俺たち思いっきりドアップで写ってたからなあ。顔出し動画の反響ってすごいな。
「はぁっ……、まっ……」
――光なんかただでさえ目立つ容姿なのに、あの動画見られてるんじゃな……。
それにしてもまさかこんな田舎で言われるとは。
「……かつ、ゆき、……まてって……」
「っ」
苦しそうな光の声が、遠いところから聴こえてくる。
はっと振り返った勝行は、全力疾走の脱走についてこられなくなった光が、息を切らしながら足をふらつかせている姿を目にして慌てて逆走した。
「ご、ごめんっ、大丈夫か、光」
考え事をしながら夢中で逃げていたせいで、うっかり光に喘息発作につながるような激しい運動をさせてしまった。
(だめだ、うっかりしすぎだろ……っ、冷静にならないと)
勝行は自分を脳内で叱咤しながら、すっかり足の止まった光の傍に駆け寄った。ぜいぜいと息を荒げながらも必死に呼吸を整えていた光は、戻ってきた勝行に少し凭れかかり、掠れた声でかろうじて返事する。
「ごめん、こんなところで騒がれるとか思わなくて。ここで止まろう、深呼吸して……」
「……はあ……はあ……」
「ごめんね……」
背中を何度もさすったり、タオルハンカチを取り出して汗をぬぐってやりながら、勝行は申し訳なさそうに何度も謝った。
「もう一度戻る?」
「……んなことしたら、お前……また女子に捕まるだろ」
「確かに……」
「はぁ……ん、よし……大丈夫。な、たこ焼き食って帰ろうぜ」
どうにか落ち着いたらしい光は、まだ額から時折ぽたぽたと汗をかきながら、それでも笑顔で勝行に提案した。自分の腕でそれを拭いつつ、手にずっと持っていたたこ焼きを袋から取り出すと、迷わず開ける。
「祭りはもういいのか?」
「ああ、もう腹減ったよ。……んんーっ、うまっ」
爪楊枝を折るのではと思うほどの勢いでばくりと一飲みした光が、嬉しそうな表情を綻ばせているのを見て、勝行もつられて笑ってしまった。
「ふふふ……じゃあ、あそこの自販機で飲み物買って帰るか」
「ん」
祭り会場に背を向けると、二人はたこやきを食べながらゆっくりと歩きだした。
走っている間にいい頃合いまで冷めたたこ焼きは、光の口の中へとあっという間に消えていく。食べたかったのにいろんなところで散々邪魔された大好物だ。ようやくたどり着いたごちそうを口にできて、光はいたく満足しているようだ。ものすごい勢いで消えていくたこ焼きを見ながら、勝行は光の頬についた海苔を指で拭いてやった。
「たこ焼き、多めに買っておいてよかった」
「そうか? これじゃ足んねーぞ」
「飴も食べたのに?」
食べるだろうと思って三舟分買ってきたのだが、これではどうやら自分の取り分もなさそうだ。
「あ、あそこにコンビニがある」
「おにぎり買おうぜ」
「ああ、いいね。鮭があるかどうかはわからないけど」
「えーっ。なかったら……梅かな」
「お茶もそっちで買うか」
「そうだな。おい勝行、たこ焼きなくなるぞ。食わねえの?」
「うそだろ……早いって」
あっという間に食べ終わったたこ焼きは、途中の一玉だけ、勝行の胃の中に納まった。
0
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話
バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】
世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。
これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。
無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。
不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる