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二冊目 腐女子泣かせのアイドル ~WINGSのライブ潜入レポ
……⑥
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「ライブ中にキスするなって言ったのに……あと勝手な即興新曲作るなって言ったのに……何べん言えばお前はちゃんと言うこと聞くのかな?」
怖い顔をした勝行に耳をめいっぱいつねられ、お小言を散々聞かされた光は、涙目になりながら「いででで……べ、別にいいじゃん」と文句を告げた。その口は思いっきり尖っていて、反省する気はさらさらないらしい。
ライブハウス内に唯一ある楽屋では、誰か他のバンドマンたちがスタンバイを始めていた。だからこうして廊下の隅の行き止まりで長い説教を受けているわけだが、傍から見れば勝行に壁ドンされて泣かされている光、の構図に見えなくもない。
そんなことには全く気付いていない勝行は、その両方の頬をぐいと抓って「このクチが言うか」とさらに追い打ちをかける。
「い、ひひゃい、ひひゃい」
「今日のお休みのキスはおあずけ」
「いてててて……え、えーっ、なんで!?」
「約束守らなかった罰は当然受けるべきだろ」
「そんなん、横暴だろ。だいたい、プロデューサーはもっとやれって言ったし! 俺らの客だって、いつもキスしてって言うし! やったら喜ぶし。だからこれ仕事じゃん。ファンサービスってやつだろ?」
慌てて光が反論する内容は、勝行にしてみれば寝耳に水だ。
「はあ? なにそれ、あの腐れオネエ……何考えてやがる」
「……お前、だいぶ言うようになったな」
仮にもプロデューサーは一応自分たちの上司なのだが。
優等生御曹司の口からとは思えない鬼畜暴言に呆れつつも、光は汗だくになったシャツを襟元でつまんだ。
「うー、あっつい……。なあ勝行……俺、ライブしたらさあ……」
「なんだよ」
「いつもここらへんが熱くなって……心臓いたくて……めっちゃキスしたくなる」
「……は?」
「変なの……みんな、こんなん、なんねーの?」
肩で息をしながら胸を掴み、へらっと苦笑する光は、どこか息苦しそうに見えた。怒りに身を任せていた勝行もさすがに一旦気を取り直して、大丈夫か、と心配げにそのおでこを撫でた。汗だくでしっとり濡れた肌に優しく触れた途端、「んんっ」と鼻から甘い声を零して惚けた表情を見せる光があまりに色っぽくて、思わずぞくりと悪寒が走る。
ライブが終わった後、興奮冷めやらぬ身体で熱くなって、思わず股間が勃ってしまったことなら勝行にも経験がある。光も勃起したのかもしかして、と思ったのだが、本人が手で抑えている場所は心臓の真上だし、呼吸も不規則だ。
「な……勝行ぃ……ほっぺいたい……」
「お、お前が悪いからだろ」
「心臓いたい……」
「やっぱり……それ心疾患発作じゃないのか!? 薬はどうした」
苦し気な表情の光に焦った勝行は、慌てて狭心症の発作を抑える薬を探そうと身をよじった。が、光にネクタイをぐいと引っ張られ、バランスを崩しそうになって思わず壁に手をついた。
「なっ、何す……」
「キスしたらきっと治る」
「は? 馬鹿こんなところで、ちょっと待っ」
「待てねえ……も、はやく……っ」
「んっ」
言うが早いか、無理やり勝行のネクタイを引っ張ったまま、光は勝行の唇を強引に奪った。びっくりすぐるらい熱の籠ったそれは、勝行のくぐもった声を全部奪い取ろうとする勢いで吸い付いてくる。甘ったるいけれど深くて激しいディープキス。
「んっ……む……ふぁ……あぁ……」
気持ちよさげに人の体温を柔らかい肉弁からひたすら貪る光は、やがてとんでもなく可愛い声を零して喘ぎ始める。こんな声を聴かせるわけにはいかないと、勝行は慌ててその唇を塞ぎ、壁についていた手を光の腰に回した。そこはもう、今にも崩れ落ちそうだ。
「はぁ……っ、も、……こんなの……ほんとに効果あんのかよ……?」
「……っんん……うん……いい……もっとぉ……」
「くそっ……この、エロバカ……! 無自覚に誘いすぎ……っ。立てなくなっても、知らないからな……っ」
「はうっ……ん、んんっ……」
騒めくフロアの喧噪が漏れ聴こえてくる、薄い壁に凭れたまま。
誰も通らない通用廊下の隅で、二人は勝行の背中に劣情を全部隠して、ひたすら互いの舌を貪り合った。
「ライブ中にキスするなって言ったのに……あと勝手な即興新曲作るなって言ったのに……何べん言えばお前はちゃんと言うこと聞くのかな?」
怖い顔をした勝行に耳をめいっぱいつねられ、お小言を散々聞かされた光は、涙目になりながら「いででで……べ、別にいいじゃん」と文句を告げた。その口は思いっきり尖っていて、反省する気はさらさらないらしい。
ライブハウス内に唯一ある楽屋では、誰か他のバンドマンたちがスタンバイを始めていた。だからこうして廊下の隅の行き止まりで長い説教を受けているわけだが、傍から見れば勝行に壁ドンされて泣かされている光、の構図に見えなくもない。
そんなことには全く気付いていない勝行は、その両方の頬をぐいと抓って「このクチが言うか」とさらに追い打ちをかける。
「い、ひひゃい、ひひゃい」
「今日のお休みのキスはおあずけ」
「いてててて……え、えーっ、なんで!?」
「約束守らなかった罰は当然受けるべきだろ」
「そんなん、横暴だろ。だいたい、プロデューサーはもっとやれって言ったし! 俺らの客だって、いつもキスしてって言うし! やったら喜ぶし。だからこれ仕事じゃん。ファンサービスってやつだろ?」
慌てて光が反論する内容は、勝行にしてみれば寝耳に水だ。
「はあ? なにそれ、あの腐れオネエ……何考えてやがる」
「……お前、だいぶ言うようになったな」
仮にもプロデューサーは一応自分たちの上司なのだが。
優等生御曹司の口からとは思えない鬼畜暴言に呆れつつも、光は汗だくになったシャツを襟元でつまんだ。
「うー、あっつい……。なあ勝行……俺、ライブしたらさあ……」
「なんだよ」
「いつもここらへんが熱くなって……心臓いたくて……めっちゃキスしたくなる」
「……は?」
「変なの……みんな、こんなん、なんねーの?」
肩で息をしながら胸を掴み、へらっと苦笑する光は、どこか息苦しそうに見えた。怒りに身を任せていた勝行もさすがに一旦気を取り直して、大丈夫か、と心配げにそのおでこを撫でた。汗だくでしっとり濡れた肌に優しく触れた途端、「んんっ」と鼻から甘い声を零して惚けた表情を見せる光があまりに色っぽくて、思わずぞくりと悪寒が走る。
ライブが終わった後、興奮冷めやらぬ身体で熱くなって、思わず股間が勃ってしまったことなら勝行にも経験がある。光も勃起したのかもしかして、と思ったのだが、本人が手で抑えている場所は心臓の真上だし、呼吸も不規則だ。
「な……勝行ぃ……ほっぺいたい……」
「お、お前が悪いからだろ」
「心臓いたい……」
「やっぱり……それ心疾患発作じゃないのか!? 薬はどうした」
苦し気な表情の光に焦った勝行は、慌てて狭心症の発作を抑える薬を探そうと身をよじった。が、光にネクタイをぐいと引っ張られ、バランスを崩しそうになって思わず壁に手をついた。
「なっ、何す……」
「キスしたらきっと治る」
「は? 馬鹿こんなところで、ちょっと待っ」
「待てねえ……も、はやく……っ」
「んっ」
言うが早いか、無理やり勝行のネクタイを引っ張ったまま、光は勝行の唇を強引に奪った。びっくりすぐるらい熱の籠ったそれは、勝行のくぐもった声を全部奪い取ろうとする勢いで吸い付いてくる。甘ったるいけれど深くて激しいディープキス。
「んっ……む……ふぁ……あぁ……」
気持ちよさげに人の体温を柔らかい肉弁からひたすら貪る光は、やがてとんでもなく可愛い声を零して喘ぎ始める。こんな声を聴かせるわけにはいかないと、勝行は慌ててその唇を塞ぎ、壁についていた手を光の腰に回した。そこはもう、今にも崩れ落ちそうだ。
「はぁ……っ、も、……こんなの……ほんとに効果あんのかよ……?」
「……っんん……うん……いい……もっとぉ……」
「くそっ……この、エロバカ……! 無自覚に誘いすぎ……っ。立てなくなっても、知らないからな……っ」
「はうっ……ん、んんっ……」
騒めくフロアの喧噪が漏れ聴こえてくる、薄い壁に凭れたまま。
誰も通らない通用廊下の隅で、二人は勝行の背中に劣情を全部隠して、ひたすら互いの舌を貪り合った。
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