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一章 過去の過ち
四話
しおりを挟むなんやかんやあって数週間たった。彼らと出会うまでは、地獄の日々が始まると思っていた日常が一変した。友達は愚か話し相手すらできないだろうと思っていたリンは、たった2日でお昼を一緒にとれる人ができるとは思わなかった。
こんなに幸せになってもいいのかと考える時もあるがそれよりも3人といる時間が楽しくてついつい忘れてしまう。
「そういえばずっと思ってたんだけど、リンって本当にユーストって子を殴ったの?」
「ちょっと!」
「い、いいんです。、、、、間違いないことですから。俺は確かにゆ、彼にひどいことをしました」
「なんで?」
「?なんで、、、?、、、よく、わかりません。ただ、彼をみたときに欲しいと思ったんだと思います。幼い頃の俺は欲しいものは全て手に入れて当然だと思っていましたから」
幼い頃はどれだけわがままを言っても、最初は渋っても両親は最終的にはリンのわがままをなんでも叶えてくれた。そんな生活をしていくうちにまるで世界は自分の思いのままだなんてたいそうなことを思うようになって、どんどん性格が歪んでいった。今ならどれだけその思想が危険なものかよくわかる。
「それって一目惚れしたんじゃないの?」
「、、、へ?ひ、一目惚れ、、、ですか?」
「、、、、確かに。一眼見て欲しいと持ったならそれがリンにとっての初恋だったのかもしれないね」
「初等部で一目惚れって、、、リンって結構恋愛脳なんだねぇ」
責められるのかと思っていたのと反して楽しそうに話す彼らにあいた口が塞がらない。
「軽蔑、、、しないのですか?」
「え?何を?」
「それは、、、」
「確かに人を殴るのはいけないことだけどさ、もう結構前の話だしリンだってもう十分反省してるんでしょ?それに平民からしたら子供同士の喧嘩なんてほぼ毎日みたいなものよ?男子とかなんてくだらないことで喧嘩もするし、確かに大怪我とかまではないかもしれないけど、私なんて、私のことからかってきた男どもは全員のしてきたし、やりすぎたと思ったら謝って次の日くらいには仲直りしてるわ」
「反省なんてそんなこと、、、俺がしたことは永遠に胸に刻み込んで忘れないようにしなければいけないことで、、、、仲直りなんて、恐れ多いです。ユースト様に近づくなんて、、、」
「ストーーープ!、、、、重い、重いよ!!本人だって許してるんでしょ?だったらもういいじゃん気にしたら負けだよ?」
「そんなに気にするんならやっぱり会いにいって謝ればいいんじゃないの?」
「それは、、、できないです」
フレイの助言もそうだが彼の両親からも会うことを許されていない以上彼に会うこと、話すことだってできない。口約束であっても違えることは許されない。それにこれ以上彼らを怒らせたらまた公爵様に迷惑がかかってしまう。
「俺は彼に会うことはできません。これは公爵夫人と彼の母親との約束です。俺が違えることは許されません。公爵様にご迷惑をかけることは万死に値します」
「だから重いって、、、私って貴族っていうのはよくわからないけど。自分の両親のこと母さんとか父さんて呼んだらいけないの?」
「いえ、そういうわけではありませんが、、、俺はいずれ公爵家を出ることになると思います。なので、今のうちに慣れた方がいいと言われたので」
リンがそういうと驚いたように3人が同時にこちらを見る。
「え?出るってどうゆうこと?」
リューリが食い気味に聞いてくるので何か変んなことを言ってしまったのか心配になる。
「公爵家はいずれ私の義兄にあたる方が継ぐことになります。兄に何かあったとしても妹がいますし、公爵家に私は必要ありません。公爵様もそう思っていることでしょう。公爵家の名誉のために俺は家を出されます。その前に自ら出家して少しでも誠意を見せます。今まで生きていたことを活かせば最低限生きていけると思いますし、罪人の俺には公爵家に必要ではありませんから」
淡々という俺に3人はなんともいえない顔で見ていた。その目には悲しみが含まれていた。
「公爵様は本当にそれを望んでるの?」
そう問われて思い浮かべるのは最後にあった時に父がいった言葉だ。
『うまなければよかったんだ』
確かにそう言った。それからは遠くから見掛ける程度で声を聞いたのもそれが最後だ。もう俺の存在すら忘れているかもしれない。
「はい、それが公爵様のご意志です。この学園を卒業したのち、俺は出家をします。これが一つの償いでもあります」
まるでそれが自分のすべてだというような彼に3人は顔を見合わせる。
食事を終えてリンはこの後別の授業があって3人と別れた。その後3人は授業をサボり話し合っていた。
「貴族の出家って初めて聞いたんだけど!てかリンみたいに顔が整った子なんてすぐに奴隷商に捕まっちゃうよ!!」
「確かに、でも本人のなかではそれが決まってるみたいだし、、、どうしよう?」
「出家なんてしたら、この国にいられなくなるんじゃ、、、。また違った意味で有名になっちゃうし、、、」
「ど、どうしよう!!」
せっかく仲良くなった友達の未来が危うくなっている事実にどうすればいいのかと3人は頭を抱えることになる。その日にはいい案が浮かばずまた話し合うことにし、その日は解散となった。
ユーストside
僕には幼い頃から婚約者がいる。周りが認めるほどのバカップルだ。でもそうなったのには理由がある。まだぼくが初等部にいた頃に大怪我をして、そのせいで婚約者-フレイははもともと心配性だったのが余計に心配性になった。
怪我が治った時に見たのがフレイの初めての泣き顔だった。泣いたところを見たことなかったから余計に驚いたけどそれほど心配していたのだとわかり少し嬉しくなった。僕の両親やフレイの両親が来て僕のことをとても心配してくれて治癒で直してもらったから傷一つない痛くもないと言っているのにいえばいうほど心配される。
そうこうしているうちに僕が怪我をした原因であるリン・アルフォードくんがやってきた。少し怖くて震えていたらみんなが彼を視界から入らないようにしてくれた。色々話し合っていたが僕の頭には入っていなかった。
彼が帰る瞬間に目があった。その目を見た時何故か恨めないと思った。彼が僕を殴っている時にしていた表情が悲しく歪んだ顔が余計に、彼に対する思いを変えていく。
そんな日々から6年が経った。長いようで短かった。今年から彼が高等部に通う。アルフォード家が代々、魔法を得意としているから僕と同じ魔法科だと思ったけど、予想に反して彼は剣術科を選んでいた。驚いたけどだったら直接会いに行こうと思って行こうとすると何かとフレイに邪魔をされる。
「ユースト、どこにいくんだい?」
「ん?えっとねリンくんのとこに行こうかと思って、、、フレイ?」
「、、、、ユースト、あんな野蛮なやつのところへ行ってはだめだ。彼が何をしたのか忘れたのか?」
「忘れてはいないけど、、、でもこのまま彼とギスギスしているのも嫌なんだ、、、」
そういうとフレイは黙って、すぐに口を開いた。
「なら俺が彼に会いに行ってくるよ。会えそうな日がないか聞いてくる」
「!ありがとうユースト!!」
「どういたしまして」
そう言って微笑むフレイと別れて早く会えるのを楽しみしていた。していたのだがそのことを聞こうとすると何故か話を逸らすし、まだ会えてないで終わってしまう。
全然会えなくて気づいたら1週間経っていてふと窓を見た時に昔見た赤髪が目に入った。昔見た時の彼とはだいぶ違った。周りに友達が3人いて、とても楽しそうだった。
学園中に彼の悪い噂が広まっていることは知っている。昔は訂正していたけど今はもうしていない。言い返せば言い返すほど僕の株が上がって彼の噂がどんどんひどくなっていくからだ。
今の彼はとても幸せそうで僕が話しかけたらまた変な噂が立つかもしれない。そう思うと彼に会おうとはもういえなかった。
心にはまだモヤモヤがあったがそれでもたんたんと日だけが過ぎていく。僕がここんとこボーっとしているためフレイにも周りにも迷惑をかけてしまって少し申し訳ない。
そんなこんなで彼と合わないと決めて一ヶ月が経とうとした時に状況が変わった。
フレイと一緒に昼食を食べていたらリンくんと仲良くしていた3人が僕のもとへ訪れたのだ。
「何のようだ」
僕が何か言う前にフレイが威嚇するように彼らを睨みつけた。どうやら彼らがリンくんと仲良くしているのを知っていたらしい。
「あなたには用はないわ、ユーストさんに用があるの」
「僕?」
「えぇ、用というよりお願いに近くなってしまうかもしれないけど、、、。あなたがリンを恨んでいることは知っているわ。リンがやったことは許されたことじゃないもの。許してあげて欲しいっていうつもりもないわ。だけど少しだけでいいからリンと話をしてみてくれないかな」
彼女に言っていることがすぐには頭に入ってこなかった。僕がリンくんを恨むそんなことない恨んだことなんて一度も。リンくんと話すことを諦めていたからこそ彼女の誘いが心のもやを晴らしていく。
僕が返事をしようとして止めたのはフレイだった。
「だめだ」
「ふ、フレイ」
「だめだよ、ユースト、、、。君たちがどうしてあんな奴と一緒にいるのかは知らないが俺はユーストとあいつを合わせるわけにはいかない。何が目的だ」
「、、、リンが言ったのよ。卒業したら出家をするって」
「「、、、、、、、は?」」
予想外のことに僕もフレイも驚いて口を開けて素っ頓狂な声を出してしまった。
「出家、、、出家?家を出る?いやでも流石にそれは、、、出家?」
「家を出るまたは縁を切る意味で間違いないですよ。リンはあなたに対する償いの一つと言っていました」
「償い、、、そんなこと、、、だからって出家って、、、。やっぱりリンくんとちゃんと話さないと」
「ユースト、、、」
「フレイが心配しているのもわかるよ。でも話さないとだめだと思うんだ」
「、、、わかった。でも俺も一緒に行くからね」
「!うん!!」
ため息をついて諦めたように微笑んだ。嬉しくって抱きつくと3人がいることを思い出してすぐに離れた。
「えっとじゃそうやってリンくんに伝えてもらっていい?」
「はい、、、それともう一つだけ」
「?」
「リンなんですけど、家族に、その、、、虐待を受けているってことはないですか?」
フェルがそういうとユーストはもちろん何故かリューリたちやヘルンも驚いた顔をしている。
「ちょっとそれどういうことよ!聞いてないんだけど!!」
「い、いや、リンって何故か俺たちと一緒に着替えたがらないなと思って前、リンが着替えてるときに驚かせようと思って隠れて見てたら、、、リンの身体中に殴られた痕とか切り傷とかやけど痕とかがあって、、、」
目立たぬように肌が見える場所には一切無かったが背中や足などには何度も鞭で打ったのかひどい傷があった。
「そんな、、、」
「アルフォード公爵がそんなことをするとは思えないが、、、」
「どうしてそう思うのよ!確かにリンがしたことは許されることじゃないけど虐待なんて、、、」
「この件は俺が調べておく、それとユースト、あいつと会うのならご両親と一緒にしなさい」
「え?どうして?」
「どうしてもだ。あの方達に知らせずにあった場合に責められるのはあいつ自身だ。いいな」
「う、うん」
少々納得いかなさそうな顔をするもしぶしぶと頷くユーストに苦笑し3人の方に視線を移す。
「会う時間が取れたらこちらから言おう。それまではあいつに気取られるなよ。逃げられたら敵わん」
「逃げるなんてあるわけ、、、、あるかもしれないけど、、、わかったわ。待ってる」
その日はそれで解散となった。
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