君を想う、あの日の桜の下で

Allen

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2.対峙

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『対峙』
 
 「うん、それでアーサーがレイナと喧嘩してアーサー泣きそうになってたんだよ」
 「フフ、あのアーサーくんが?」
 「妹思いの兄だな、アーサーくんは」
 「本当だよー俺も妹ほしいなー」

 俺は三人で話をし始めた。アーサーは去年俺達の城にやってきた唯一の親友。お父様が俺の為に呼んだ友達。お母様は桜に腰掛け、俺はお父様の手を握り、一緒に立って話していた。

 そしてしばらく時間がたった。辺りも暗くなってきて、雨も降りそうになっている。馬車で来ていないから早く帰らなければいけないかな…?

 「ディオス、もうそろそろ帰るか」
 「あー、うん」
 「そうですね、帰りましょうか」

 そう言い、お母様は立ち上がる。その光景を見てか、ナイとソル、ルシフェルさんがゆっくりこっちに歩き始めた。今日は本当に楽しかった!天気は悪かったけどお母様もお父様と三人で久しぶりにゆっくりと話すことができた。また、ここに来て一緒に話せたら─
 
 《危ないっ!!!陛下っ!》
 《ディオス様っ!!!》
 《マレアっ!!!》
 
 「「「???」」」
 
 急にナイとソル、ルシフェルさんの叫び声が轟いた。何故?危ないってどう言うことだ?誰か説明─

 「「あっ!!」」
 「えっ?」

 お父様とお母様がパッと後ろを向き驚く声を漏らした。俺も合わせて後ろを向く。ってあ!
 そこにはこちらに向かって矢を引く人物がいた。全身黒色の影のよう…もしかしてエレボスの─
 「ディオス!マレアっ!」
 「ディオスっ!」
 「わぁぁっ!」

 急にお父様に手を引かれ、お母様に抱き抱えられた。痛い、腕がじんじんする。ひどいよお父様、急にこんなことって、えっ?

 《グサッ》

 「ぐっ」
 「「陛下っ!」」
 「貴方っ!!!」
 「えっ?お父様?」

 はっとして俺はお父様を見た。生温かいものが飛び散る。お父様の左腕に何か刺さってそこから赤い液体がドクドクと出てくる。とても、とても痛そうな顔。えっ?これって…まさか!!

 「貴方ぁっ!」
 「陛下!!大丈夫ですか!?」
 「急げ!あの者を捕らえろっ!」

 ナイとソルが慌てて叫ぶ。俺はこの状況についていけない。待って、待ってよ!

 「くそっ、囲まれてる!陛下、我らが応戦します!その隙にお逃げ下さい!」
 「わっ、私は大丈夫だ。ディオス、マレア大丈夫か?ゴホッ」
 「だっ、大丈夫よ」
 「うん、お父様?」

 お父様が立ち上がり、お母様に強く手を引かれ俺はお父様の元へ行く。隣にお父様が左腕を押さえている。と、とても酷い傷…まさか、まさか!!俺が、俺が!
 
 《全軍、出撃せよ。ルージスを殺せ…》
 
 妙に低い声と共に辺りから狼のような妙な獣や黒ずくめの人が次々に現れた。

 「くっ、敵襲だ!我らもかかれ!!」
 「おおー!」

 ナイが叫び、兵士達が一斉に剣を抜く。しかし、敵の数は増える一方、俺達の仲間がバタバタ倒れ、辺りがどす黒い血でで染まっていく。血飛沫が飛び散り、赤黒く染まった真剣があちこちに落ちている。

 「うっ…」 
 一瞬にして光景が変わった。人があちこちに倒れ、血の絨毯を作り上げ、更には血の匂いが辺りに漂う。空は黒い雲に覆われ、急な雨が俺達を撃ち鳴らす。こんな…まさかこんなことが起こるなんて…俺は恐怖で足がすくみ動けない。と、その時、

 「陛下っ!ま、魔王エっ、エレボスです!」
 「何っ!?」

 ソルが傷だらけになりながらも俺達の元にいた。前を見ると妙な奴がいる。

 あ…あいつがエレボス!?

 見ただけでも分かる。大きな黒いマントで覆われ、武器など一切持たず、不気味な笑みを浮かべている。黒色に誰かを殺したのか、返り血がびっしりとついている。きっ、気持ち悪い…それに怖い。俺はあいつに殺されるのか?嫌だ、嫌だ。

 「我はエレボス。ルージス・フェルレオだな?貴様の父に礼をしなければなっ、この何とも無様な光景、フハァァァ!ずっとこの時を待っていたッ!!」
 「貴様っ!陛下を侮辱するつもりか!」

 ナイが怒鳴り声を上げる。しかし、奴は笑ったままだ。

 「フン、ハァっ!これはマレア様!それにお子さんのディオスくんまで。何、家族揃ってお出かけか?ディオスくん、楽しそうだな」
 「うっ…」
 「黙れ、エレボス!息子には手を出すな!」

 エレボスの視線をお父様が遮り、後ろに隠れる。雨に撃たれ、大怪我をしていてもお父様は俺を守ってくれている。俺にも…俺も…

 「ハッ、お前は我に何ができる?お前はこの場を逃げれたとしても、もうすぐ死ぬ。まだ元気だが自分ではもう分かっているだろう。哀れな男だ」
 「えっ、貴方、どう言うこと?」
 「…」

 お母様は驚いた顔でお父様を見た。お父様は黙って下を見る。

 「陛下!もしや!」
 「まさか、あの矢には!?」

 ナイとソルが声を上げて言う。どう言うこと?俺には全く分からない。

 「ほっといてもいずれお前は死ぬ。まぁ、お前の記憶がある間にお前もマレアも殺してやるがな」

 えっ、お父様が死ぬ?お母様を殺す?そんな訳無い!!そんなの絶対ダメだ!

 「そっ、そんなのあり得ないっ!!」
 「ディオス!?」
 「おっ、おい!ディオス!?下がっていなさい!」

 俺はお母様の手を振り払い反射的にお父様の前に立ち、両手を広げた。目の前にはあのエレボスがいる。けど、お父様が死ぬなんて何が何でも絶対駄目だ。

 「おお?どうした、ディオス王子?」
 「お父様とお母様を殺すなんて許さないっ!」
 「「ディオス!」」
 「フハァァァ、これは面白い!!傑作だ!王と王妃の息子は立派だな、しかし、お前に何ができる?その短剣で戦うか?見てみろ、お前達の兵はあと十もいない。こっちは大勢いる。さーて、どうするかな?」

 エレボスは嘲笑い、静かに呟いた。

 「さぁ、皆確実にルージスとマレアを殺せ…そしてあのディオスもだ」
 エレボスがいい放った瞬間、黒い煙が立ち込めたかと思うと兵士の中に入り込んだ。そして、呻き声をあげたかと思うと剣先をこちらに向けた。

 「えっ?なっ、何で?どうして!」

 突如、見方のはずの兵士がこちらに向かって襲ってくる。さっきまで俺達と一緒にいたのに、いつも俺達を助けてくれたのに何故…?俺はただ訳が分からず、俺に振りかかる剣先をギリギリお父様が助けて、お母様がしっかり手を握った。そして、お父様が俺とお母様を見て言う。

 「ディオス!いいか、よく聞け。お前はマレアと一緒に城に戻れ!」
 「えっ?嫌だよ!お父様も一緒に─」
 「駄目だっ!!…すまない、ディオス。先に帰ってくれ。マレア、ディオスをよろしく頼む」
 「貴方…分かりました」
 「そんな…!お父様はどうするんだよ!ねぇ!お父様ッ!」

 お母様は俺の手をしっかりと掴み、お父様から引き離した。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!!お父様がどんどんと離れていく。嫌だよ、やっと久しぶりに一緒にいたのに、別れるなんて嫌だ!!

 「ディオス!」
 「お母様!放して!」
 「ダメよっ!言うことを聞いて!!」
 「放してお願いっ!!」

 俺はお母様に必死に抵抗した。お母様は今風邪を引いて力が出ないっていってた。なら、今の俺の力でも!

 「マレア!早く!敵が迫ってきてるって─あっ!」

 後ろからルシフェルさんの声が聞こえた。そんなのどうでもいい!俺は、俺は!

 「ディオス様!危ない!」
 「マレア様!」
 「ディオスっ!」
 「えっ?」
 
 お母様が今までに一番大きく俺の名前を言ったかと思うといきなりお母様の体が俺に覆い被さった。一体何が─
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