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    「遅かったな」
 「すみません、父上」
 「謝るのならもう少し早く来なさい、ルシオ。あなたもリベルテを見習いなさい」
 「はい、母上」
 「まだ子供だから仕方ないんですよー!ルシオ」
 「…」
 
 あのリベルテの嫌味な口調の後に、さっさと座れという言葉が付いているのがはっきりと分かる。ただただ面倒な朝食、唯一の救いはとてつもなく美味いという事だけ。後は俺に対する嫌味な発言が飛び交う場所。これからは黙ってひたすら食べる一択。会話が俺に降りかかることはないだろうけど、来たら適当に謝っとけば大抵はそのまま。時々、俺がルシオになっていなければ、本当のルシオはどのように感じて、どのように耐えていたのか。複雑な気持ちだ。
 
 「ところでルシオ、魔法はどこまで使えるようになったのですか?」
 「え、あ、すみません、まだ出来ていません」
 「まだ出来ないだと?基本的な魔法くらい普通誰だって出来るぞ。リベルテは6歳になるまでにはもう使えたのにな。お前には呆れてものも言えない」
 「すみません」
 「しょうがないですよ!回復魔法とは言え、あの伝説の聖女は傷跡一つなく治せたんですよ~。ルシオもまだ子供ですから、そういう夢に憧れているんでしょう、ねぇー?」
 
 リベルテは手振りを合わせて淡々と嘲笑うように言う。確かに回復魔法ではこの国ではあまり必要とされていない、というかいざ自分を守れないし、回復魔法=擦り傷の血を止めたりだとか、ちょっと痛みを和らげたりとかしか出来ないと思ってる。だから、回復魔法を使う人は見下される、というか得意ですと言ってもあまり意味が無い。それに、欠点は回復魔法を使うには自分の持っている魔力を多く使ってしまう。それなら水魔法で、しっかり傷口を洗ったり、高度な草魔法で薬草を塗ったりの方が良いらしい。

 まぁ、俺にとっちゃ初歩的な回復魔法、回復魔法が出来れば一瞬で擦り傷も治るからいいんだけど?それに、言ってないだけで、俺は毒を分解させる魔法まで自力で達成済み。森に出向いて、毒草を少しだけ食べて自分に魔法をかけて練習あるのみ。お陰様で回復魔法の参考本はこの国にはあまり無いものの、随分使えるようになってきた。結果は彼らには絶対言わないが。言っても面倒事に巻き込まれるだけだろうし、公爵なんて言う身分には興味はない。
 
 「まぁルシオ、リベルテの邪魔だけはするなよ。リベルテは勉強も頑張りなさい」
 「もちろんです!」
 
 その後は俺は完璧いないような会話が続く。俺は静かに朝食を食べ、そしてついに解散になると自由になれた気分。

 将来はこんな家なんかを出て街にでも、自分の家を買って住む。いわゆる憧れの一人暮らし生活!回復魔法を使う人が少ない国なんだから、魔法で病気を治せればお金が入ってくる。自分で働いて貯めたらこのファンタジーの世界を見て回りたいというのが俺の、ルシオの願望だ。

 この世界の魔法のことについてももっと知りたいし、犬耳の持つ人達だっているかもしれない。それに、変わった動物だっているかも。この国でも伝説だと言われている不死鳥だったり、ペガサスだったり、そして龍(ドラゴン)。マイラに龍と会いたいなんて言ったときは呆れたような戸惑ったような顔を初めて見た。あの時は魔法すらあるんだったら、いるんじゃないかなと期待していた俺が恥ずかしかった。

 という事で、俺はまず回復魔法を強くする為、義務の家庭教師の授業をぼーっと聞いた後、今日も一人で家の近くにある森に隠れて行き、回復魔法を使えるように練習し始めた。 
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