上 下
1 / 28

1. 救いの手を

しおりを挟む


「何度言ったら分かるんだっ!!」

《バシッ》

「うっ、ご、ごめんなさい…」

「こんなのが長男だとこの家は何と恥ずかしいッ、字が書けないってそんなことがあるかっ!!」

《バンッバシバシッ》

   父は躊躇わずに俺を殴った。母はこちらを見ても助けもしない。弟ができて、俺が字が読めないと分かった途端、この家の誰もが弟の方に目を向けた。俺はこの家の雑用として、屋根裏で過ごし、まるで奴隷扱いになってしまった。そうなるものこの家は一様有名な侯爵だった。これはあくまでも過去の話。この国の王が正式に決まった頃、国の政経が大きく変わり、裏工作を追求され名はネフェルティー侯爵というのは廃名された。元、侯爵になった訳だ。詳しくは知らないが余程の事をしたんだろう。犯したのはこの父ラヌークだ。

   そして、俺が次のこの家の主になる、はずだった。俺が字が全く書けない事がわかる前は。俺自身それはよく分からなかった。読めるのに、人一倍暗記は得意だ。誰が言ったことでも読んだことでも一言一句間違わずに、一瞬にして覚えられる自身はあった。でも、ペンを握ればどうしても文字が書けない。その為に、この首都にある王族も通う学校に落ちたことが悪夢の始まりだった。徐々に、徐々に生活が酷くなっていく。

「何故だ?あれほど口では言えていたのに答えが書けず、ゼロだと!?侯爵家の長男であれば行くのは当たり前だッ!」
「うぐッ…ご、ごめんなさい」
「もういいッ、お前は家の掃除でもしていろ!せめて、ジェネラルの役にでも立てッ」
「わ、分かった」
「誰だタメ口でいいと言った?これからはお前は敬語で話せ。使用人にも誰でもだ、良いなッ?」
「は、はい…」

《ガチャン!!ガチャ》

「はぁ……」

   俺は冷たい床に倒れ込んだ。ホコリ被った明かりのない屋根裏部屋。ほんの何日前までは食事も、部屋も、ベットもきちんとあったのに、今じゃ何一つない。
   日が経つ事に更に酷くなり、たまに出てくるあまりのパンに水、草を少し引いて、上からボロボロの布をかける。よくよく考えてみれば俺は元から勉強だけを強いられてきた。各時間などないと言われていたけど、記憶は良くて俺のことなんて誰も見ていなかった。
   弟のジェネラルができていて、俺は少し嫉妬した。母はいつもジェネラルの隣で頭を撫でて、父は満面の笑みを見せていた。俺は影から見るのが当たり前だ。出てこれば、お前は勉強しなさい、と言うだけ。それでも食事や部屋はせめても豪華だった。だからせめて俺にも振り向いて貰おうと本を読みまくり、全て暗記した。先生の話も何時なんだって聞いていた。休みなんかなくたって、振り向いてもらえるなら…。でも、だからこそ字が書けないなんて言えなかった。俺でもどうして書けないか分かるはずもなかった。

「何で字が書けないんだよ……俺、どうすれば許してもらえるんだろう……」


その後は俺は必死にペンを握りしめ、一から字を練習した。先生はもう全て解雇され、俺はその分自由な時間が有り余る。それを全部文字に当てた。本を持ってきて、それを覚え、書くだけ、書くだけなのに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私が貴方の元を去ったわけ

なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」  国の英雄であるレイクス。  彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。  離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。  妻であった彼女が突然去っていった理由を……   レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。      ◇◇◇  プロローグ、エピローグを入れて全13話  完結まで執筆済みです。    久しぶりのショートショート。  懺悔をテーマに書いた作品です。  もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

処理中です...