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第二章 蹉跌の涙と君の体温

第37.5話 おやすみ、ワールド

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 寒いなぁ、なんて思いながら歩いていた。
 この街、ロークラントはとにかく寒い。下手をしたらすぐに風邪を引いてしまいそうだ。

「エヴァ、寒くないかい?」

 彼女はこくりと頷いた。エヴァはあれ以来喋らなくなってしまった。

 僕達はカンナとマシロを一斉に失った。
 ノウトに殺されたのだ。
 目覚めたら街が壊されていて。
 そこには黒い翼を生やしたノウトが血塗れで立っていた。

 でも、──……でも、僕はノウトが殺したという事実よりもマシロとカンナが失った事実が大きすぎて、もうなにもかもやるせない。この気持ちはどうしたらいいのだろう。人は殺してはいけないんだ。僕のともだちがそう言っていた。
 以前も誰かを失って、こんな気持ちになった気がする。『気がする』だけだ。もう、どうでもいい。

「今日、お昼何食べようか」

「そっすねー……」

 スクードはいつもの元気がない。スクードは恐らく、マシロのことが好きだったのだろう。それも恋愛的な意味で。
 カンナの遺体も、マシロの遺体も。あの場に置いてきてしまった。心が痛い。死んだら、もう会えないのだ。

「あそこのお店とか、どうっすか?」

「ほほう。いいかもね。エヴァ、行こうか」

 みんなして歩いていた。この二人がいれば、僕はまだ歩ける。歩いていられる。前に進める。




 ───でも、運命の神はいつだって残酷で、僕の幸せをすぐに奪っていくんだ。




「……つい」

「…………ミカ?」スクードがこっちを見た。

 熱い。

「熱い……熱い熱いよ……」

 身体の奥が燃えるように熱い。何が起きたのか分からなかった。でも、これでいい。やっと苦しみから解放される。カンナとマシロのいなくなった世界に僕はもう、耐え切れない。

「あああAAA゛あぁあぁアアあぁあ」

 死にたいはずなのに、それに抗うように僕は叫んだ。喉が、頭が、身体が、心が。焼き尽くされていく。結局、僕の能力はなんの役にも立たなかった。笑えるよ。誰一人守れなかった。きえる。きえる。遠くに光が見える。おぼれる。こわれる。ついえる。きえ────























「ミカエル」

『ん?』

 ノウトが僕の名前を呼んだ。

「……お前、結構食いしん坊だよな」

『そうかな?』

「そうかな、じゃないわよ!」フィーユは怒ってる。僕はまたなにかやらかしたみたいだ。

「食料庫の食べ物ほとんどなくなってるじゃない! 勘弁してよ、もー」

「まぁまぁ、俺達が使っていいところだけだからまだマシだろ」

「あなたねぇ。これからわたしたちメイド組は一週間何を食べればいいって言うのよ」

「大丈夫よ、フィーユ。私が調達してあげるから」シャーファがフィーユの頭を撫でた。

「フィーユ、俺が一週間レストランに連れて行ってあげるぜ?」ルーツァがキメ顔で言った。

『じゃあ僕も──』

「ミカエルは俺と一緒な」

 ノウトが僕を抱きかかえて、肩に乗せた。

『落ち着くなぁ、やっぱり』

「そうかそうか」

 ノウトはなんだか嬉しそうだ。

『それじゃ、早速いこうか。ノウト』

「え?」

『ご飯食べにさ』

「………持ってくれよ、俺の財布」

 ノウトが呟くとみんなして笑った。
 こんな日々が続けばいいのにと僕は心の底からただ願った。



















「のう、と………」

 そうだ。キミは悪くない。そうだ。キミは僕の最高の勇者だった。かっこよくて、頼もしくて。キミと一緒にご飯を食べてる時だけは、自分が凶魔ロゴスであることを忘れられた。ああ、僕はやっと人間になれたのに。ああ。消えてしまうのか。死んでしまうのか。かなしい。でも、これで。いいのかもしれない。ごめん、フィーユ。いまさら遅いかもしれないけど。僕がいなければ。キミたちは今も生きていたかもしれない。エヴァに殺されなかったかもしれない。そもそも、僕がゴーレムに乗らなければ。アキユ。会いたいよ。今も生きてるのかな。分からない。最期に。アキユに。会いたかったな。
 スクード、エヴァ。ごめんね。一緒に生きるって約束したのに。
 フィーユ、シャーファ、ルーツァ。みんな。今そっちに行くよ。








 おやすみなさい、ノウト。







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