あのエピローグのつづきから 〜勇者殺しの勇者は如何に勇者を殺すのか〜

shirose

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第一章 勇者殺しの勇者

第5.5話 はじめまして、フレンド

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 あれからいろいろあって───本当にいろいろあって、僕には三人の仲間が出来た。

「お腹減ったなー」

 一人目はカンナ。彼女は〈いかづち〉の勇者で電気を操ることが出来る。

「ねぇねぇ、エヴァ! あれ見て! でっかいカニ!」

 明るくてめちゃくちゃ元気。一緒にいて凄い楽しい。

「ほんとですね~」

 二人目はエヴァ。のほほんとしていて、一緒にいると和む。

「全身まるごと美味しそうです~」

 時々ズレたことを言うけど……。

「ちょっとカンナさん。転んだら危ないっすよ」

 三人目はスクード。しっかりもので背が高いから、お兄さんって感じだ。

「ってカニでかっ! ほんとっすね、カンナさん!」

 少し頼りないところもあるけど……。
 まぁ、みんないい仲間だ。ナナセとアイナはフェイって人に着いてって違うパーティになってしまった。なんだか少し寂しいけれど今のパーティに僕は十分満足してる。

「じゃあ、ここの屋台で食べようか」

「そっすね!」「やったあ」

 みんなで食べ歩きをした。串焼きとか、芋焼きとか、リンゴ焼いたやつとか。とにかく全部焼いたやつだった。
 その中にひとつ、気になったのがあって、

「……なんか、これ」

「おいしいねぇ。ふわふわでもこもこであまあまだ」

 カンナは喜んで食べていた。
 ワタアメと言うらしい。食べていると、なぜだか涙が出そうになった。みんなに涙を見せるのは恥ずかしいからぐっと我慢した。
 どうしてだろう。おかしいな。記憶がないはずなのに、ワタアメを食べていると彼のことを思い出す。彼のは温かった。肩? はは。肩って。なにそれ。自分で考えたのに、おかしくてつい笑ってしまった。

「どうしたんです? ミカエルさん」

 エヴァと目が合った。

「いや、みんなといるのが楽しくてさ」

「ほんとですか? 私もちょうどそう思ってたんです」

 エヴァは優しく笑った。
 僕のパーティはみんな優しくて、楽しい。
 でも、ひとつだけ懸念点があった。
 パーティは普通、五人だ。でも、僕のパーティは違った。全員で24人しか勇者はいなかったから、5人ずつで分けたら4人のパーティが出来てしまうのだ。
 変な話だ。合理的じゃない。さすがにこのシステムはおかしい。
 魔皇を倒せば記憶が戻せるらしい。記憶を戻したいかと言えば、素直に頷く自信はある。だけど、誰かが倒せば全員記憶が戻せる訳じゃなくて、魔皇を倒したパーティだけ記憶が戻せるようだ。それだと4人というディスアドバンテージがなぁ……。4人か……。う~ん、なんとも言えない。

「うにゃ?」

 肉串を手に持ったカンナが首を傾げた。

「ねぇねぇ見てーあの女の子勇者の紋章があるよー」

 みんなの視線がカンナの指を射す方へと向けられた。

「ほんとだ……」

 人混みに紛れるようにして、女の子が佇んでいた。凄い困った顔をしている。

「見たことない顔っすね」

「あの人も勇者さんなのかしら」エヴァが言った。

「ねぇねぇ」

 いつの間にか、カンナがその女の子の近くに寄っていた。

「あなたも勇者?」

「え?」

 女の子はとても綺麗な顔をしていた。それも、街中を歩いていたら誰もが振り返るような。

「………私が…見えるの?」

 女の子が言った。初め、変な子だな、と思ってしまった。でも、話しているうちにやっと事情が飲み込めた。
 どうやら目の前にいる女の子は『マシロ』と言うらしく、僕達と同じようにあの暗い部屋で目覚めて一緒にいたらしい。でも、誰一人自分の姿に気付く人がいなく、途方に暮れていたようだ。

「だったら僕のパーティに入ってよ」

「…いいの?」

「うん、ちょうどマシロのぶんを空けておいたんだ」

「ぷふっ」

 マシロは口を抑えた。

「くふふふっ」

 そして、楽しそうに笑った。その顔が可愛かったから、僕はもっと笑わせようと思った。
 その時だった。



 何か、背中に異物感を覚えた。



「……うぇ?」

 痛い。痛い。痛い。強烈に痛い。熱くて、痛くて、ああ。何かを刺された? ナイフか剣、みたいな。誰? だれが刺したの。いや、そんなこと。どうでもいい。
 なに、これ。いたいよ。

「きゃぁぁあああああああ!!」

 初めにエヴァが叫んだ。みんながざわめいてる。地面がつめたい。あれ。暗い。暗くて、遠くなる、とおくなる。

「……うぅ……ぁあ……」

 助けを呼ぶ声も出せない。僕の神技スキルじゃ、どうしようも出来ない。
 遠のく。意識が。冷たい。暗いよ。嫌だ。しぬ? 死ぬの? いやだよ。もっと、みんなと一緒に。あっけない。変だな。みんな、いるの。やばいな。何も、聞こえない。ねぇ、だれか。へんじ。してよ。あれ。だれも。いないの。ねぇ。ねぇ。














「ジャーン! ミカ! 見て見て! これ! ミカのゴーレムだよ! ニォル爺がつくったのをワタシが改良したの!」

 アキユが楽しそうに言ったものだから、僕は嬉しくて飛び跳ねた。

「ふふふ。ミカ、いよいよ実戦だね。大丈夫、ワタシたちならやれるって」

 アキユは不安な顔をした。だから僕はアキユの肩に乗って、彼女の頬に顔を当てた。

「………ミカは優しいね。凶魔ロゴスがみんなこうならいいのに」

 アキユは泣きそうな顔をした。どうして? 僕が何か悪いことをしたのだろうか。今度は僕はゴーレムに乗り込んで、動かしてみせた。

「うわぁお! 最高にカッコイイよ、ミカ!」

 アキユが嬉しそうに跳ねた。そうだ、僕はこの笑顔が見たくて────
















 なんだろうか。何かを思い出した。ような。声に出したら。わかる。かもしれない。

「……ろ……ごす…ぁ……きゆ……」

 は、はは。なんだ。ろう。わからない。ああ。いしきが。きえて────







軌跡イデア……」







 声が聞こえた。優しい声だった。痛みが嘘みたいに引いていく。立ち上がって、傷を確認する。痛くない。死んでない。

「どうして………」

 そこに立っていたのは、ノウトとリアだった。違うパーティだ。僕は二人の顔を交互に見た。言葉が上手く出てこなかった。なんて言えばいいのか分からなかった。そしてなぜか、ノウトの肩に自然と手が伸びていた。

「わぁぁぁあミカぁぁぁあああああ!!」

 カンナに抱きつかれた。その頭を僕は撫でた。

「良かったっすぅぅう! ほんとうに! ありがとうリアさん!」

 スクードが泣きそうな顔で言った。
 次第に人が集まってきて、リアを囲み始めた。なんでだろう。分からない。ノウトがリアの手を引いて、遠くに行ってしまう。なんて言えばいいんだろう。そうだ、こういう時は普通に伝えよう。それが一番だ。

「ありがとおおおおお!!」

 僕は叫んだ。僕らはただ生きていたいだけだった。
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