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第二章 蹉跌の涙と君の体温

第36話 運命なんてありふれた言葉では

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 光に視界を覆われて、まばたきをした次の瞬間には違う場所へとたどり着いていた。ほのかな照明に照らされた部屋だ。

「……もうついたの?」

 アイナがゆっくりと瞼を開けて、周りを見るように言った。メフィが「うむ」と小さく頷いて、

「ようこそ。帝都グリムティアへ、じゃな」と冗談めかしく言った。そして目を細めて、

「───おぬしら、仲がいいのう……」

 そう呟いた。メフィの向いた視線の先にはノウトとリアががっしりと手を繋いだ光景が広がっていた。別に広がってはいないんだけど、ナナセにとってはその光景がとても衝撃的だった。

「リア、怖いのか?」

「う、うん。……ちょっとだけ」

「しょうがないな……」

「いいの?」

「え、ああ、怖いっていうんなら仕方ないだろ」

「やった」

 微笑み合う二人。
 え? なにこの二人。デキてんの? 付き合っちゃってるの? こっちが恥ずかしくなるくらいいちゃついてるじゃんか。今アイナの方向は見れない。見たらなんかいきなり手を掴んでしまいそうになりそうだ。

「……まぁ、好きにせい」

 メフィが小さくぼやいた。
 ナナセも同様に周りを見回した。部屋を照らしている照明は炎ではないようだ。壁に埋め込めれた20センチ大の白い石が発光して、光源となっている。床に描かれた紋様がナナセ達が立っていた場所以外にも描かれており、他の場所にもここからことができることを示唆していた。
 それにしても───

「アイナの瞬間移動と違って全然違うとこに行けるんだなぁ」

「視界にうつる場所にしか行けなくてごめんなさいね」

 アイナが不機嫌そうにナナセを睨みつけて言った。すると、メフィが目の色を変えてアイナとナナセに詰め寄った。

「お、おぬし、瞬間移動ができるのか!?」

「え、うん。そうだよ」

「アイナは〈空間〉の勇者なんだ」

 ナナセが言うと「ちょっと、私のセリフ取らないでよ」と怒ったので「いつかのお返しな」とナナセが得意げにいった。その様子を見てメフィが口を開く。

「〈空間〉の勇者じゃと!?」

 さっきよりも大きな声で驚いた。

「つまり瞬間転移の〈神機〉と調和した勇者ということか……ということはさっきの異常反応もそれ故の反響といったところか」

 メフィが考え込むように腕を組んで、聞こえるか聞こえないかのぎりぎりの声量で呟いた。

「神機と調和したってどういうことだ?」

 ノウトがメフィを見て言った。ノウトは神機、というものの存在を知っているようだったがナナセからしてみればさっぱりだった。

「ふむ。これはまだ確信を得てはいなく、推測の域を出ていないような独自の研究結果なのじゃが、どうやら世に存在する〈神機〉はそれぞれの勇者と対応したものになっているようなのじゃ」

「なるほど……。うん、それ合ってるかもな」

 ノウトはナナセを横目に見ながらメフィの意見を肯定した。

「メフィ、俺はその〈神機〉とやらで過去に戻ってるんだよな」

「うむ。魔皇とノウトは一度過去に遡っておるのは事実じゃ」

「ってことはその神機とナナセは明らかに同列の何かだよな」

 ノウトが顎を触りながら言うと、メフィの視線がナナセに注がれた。

「ふぇっ!? も、もしや、ぬしの方は〈時〉の勇者……ということか?」

「う、うん。そうだけど」

 ナナセが言うと、メフィは泡を食って驚いてみせた。

「マジでか……! なんとこれは……!! 神機の中でも最高位に位置づけられるものと調和する勇者がここに二人もいるとは……。これはもはや、……奇跡じゃな」

 メフィが口調を崩壊させつつも何やら感動に浸っている。その様子を見てナナセが水を差すように口を開いた。

「喜んでるところ悪いけど俺ら急がなくちゃいけないからさ、その、人間領に戻る方法ってのを教えて欲しいかも、なんて」

「おおう、そうじゃったな。すまぬ」

 はっと、我に返るメフィ。

「懸念点は多々あったが〈空間〉の勇者がおるならば問題を解消するのは容易いじゃろう。こっちじゃ」

 メフィはすたすたと前を歩いていって、ほの暗い部屋から出た。
 そして、次に感じたのは妙な鼻にくる匂いだった。甘いような酸っぱいような、不思議な匂いだ。ずっと嗅いでいたくなる。部屋を両断するように本棚が立ち並んでおり、片隅には大きな卓がある。その上でガラスの容器に入った蛍光色の液体。それがこの匂いの正体だろう。
 気付くとメフィとノウト、それにノウトの手を握っているリアはすたすたとだいぶ先を歩いていた。ナナセとアイナは周りを見渡すのをやめて、彼らのあとを小走りで追いかけた。メフィが部屋の出口らしき扉に手をかけて、開いた。光がその向こうから差し込んでいて、ナナセは片手で光を遮るように目を覆いながらその扉を通る。
 廊下だ。大きな窓が陽の光をとりこんでいる。窓には芸術的なステンドグラスが控えめに散りばめられていて、そこを通った光が青やら紫となって反対の壁面を彩っていた。

「ノウト様、………ご無事で何よりです」

 声のする方を見ると、やたらと背の高い男がそこに立っていた。そして、その側頭部には一本の角が生えていた。魔人には全員この角が生えているのだろう。

「アガレス、ただいま」

「ノウト様、ご記憶が失くなられたのでは……」

「いろいろあってさ。おいおい話すよ」

「色々、ですか。分かりました。ひとまず、おかえりなさいませ」

 アガレスが笑顔で応対する。どうみてもいいひとそうだ。

「所長もご無事で。予定よりも遅かったので、すこぉしだけ心配してました」

「少しじゃなくかなり心配しとけい」

 メフィは頬を緩めて言った。

「それで、こちらの勇者の方々はノウト様の御仲間ということでしょうか」

「ああ。大事な仲間だ。別に帝都に勇者がいちゃ駄目なわけじゃないだろ?」

「もちろんですよ。大歓迎です。ようこそお越しくださいました。私は魔帝国マギア魔術研究所副所長のアガレス・ジアーヴァと申す者です」

 アガレスと名乗った男はそう言ってから上体を八十度くらい曲げた。

「え、えと、ご丁寧にありがとうございます。俺は〈時〉の勇者、ナナセ・トキムネです」

 それに続くように「私は〈空間〉の勇者クガ・アイナです」といつもなら絶対に聞くことの出来ない丁寧な口調でアイナが言った。そして、リアが口を開いて、

「最後に、わたしが〈生〉の勇者リアです。よろしくお願いします」

 と物腰柔らかな声でぺこりと腰を曲げた。

「うむ。ではアガレス、他の勇者を封魔結界前のポイントに残しておるから、転移魔法陣のチューンナップを頼む」

「なるほど。承知致しました」とアガレスは頷いて、では私はこれで、とナナセ達が出てきた扉の中へと入っていった。

「ではわしらは先を急ぐとするかの」

 メフィはアガレスが去った後を目で追いながらそう言って、そして歩き出した。ナナセ達はその小さい背中についていく。長い廊下を歩き、階段を降りようとしたその時だった。

「センパイ!!」

 いきなり曲がり角から少女が飛び出してきて、ノウトに抱きついた。

「ずっと会いたかったんですよ~センパイ~!!」

 肌が真っ白な少女がノウトに向かって言った。その少女には魔人特有の角が生えていなかった。だが、その代わりに耳が人間のそれより長く先がとんがっていた。どうみても魔人の特徴には当てはまらない。

「ス、スピネ……!? おまっ、いきなりかよ!!」

「エッ!? センパイもしかしてスピネのこと覚えててくれたんですか~~?」

「あー、違うけど、まぁ、そういうことでいいか。俺ら急いでるからごめんな」

 そう言ってノウトはスピネを引っ剥がした。

「いやん冷たいですセンパイ」

 スピネは甘ったるい声で言った。ナナセとアイナはというと口をぽかーんと開けてその様子を見ているしかなかった。視線を送るとメフィは呆れるように肩を竦めた。
 すると、どこから現れたのか、メイド服を来た少女がすっとスピネの隣に立っていた。

「ノウトきゅん、お帰りになられたのですね。ご無事で何よりです」

「シファナ、ただいま」

 ノウトはシファナと呼ばれた少女に微笑んだ。その少女の頭には角は生えていなかったし、耳もとんがっていなかった。でも明らかに異常なものが存在している。それは、猫の耳だ。頭の上には猫の耳がついていて、おしりの方には尻尾が生えている。飾りとかではないのだろう。耳がぴょこぴょこと動いていたり、尻尾が左右に自律して動いているように見える。
 いやでも、そんなことよりも、もっとおかしなことがある。

「ノウトきゅん……?」

 ナナセが呟いた。いや、だって、え? どういうこと? 呼び方やばくない? ふつうではなくない? とんでもない呼称じゃない?
 ナナセが呟くと次にアイナが口を開いた。

「あんた、そんな趣味があったのね……」

 それを聞いたノウトは慌てるようにナナセ達に振り返った。

「ち、違うから! これには海より高く山より深い事情があってだな……」

 ノウトは頭が混乱しているのかよく分からない弁明をした。

「ノウトきゅんセ~ンパイ」スピネがおどけてみせる。

「スピネお前許さん……」ノウトが低い声でスピネを睨みつけた。

「何かおかしなところがありましたか、ノウトきゅん」

「それだから!!」

 ノウトが勢いよくツッコむとシファナは耳をぱたりと伏せて首を傾げた。何がおかしいのか理解していないようだ。すると、長らく口をふさいでいたリアがゆっくりと口を開いて、

「かわいい……」

 と小さく呟いてシファナの頭を撫で始めた。

「かわいいよぉ……」

 リアは放心したようにシファナを愛でる。

「いかがいたしましたか? お客さま」

 シファナはなぜリアが撫でているのか分からずにぼーっとリアを眺めている。

「おぬしら自由すぎるのじゃ」

 メフィは嘆息気味にぼやいた。

「リア、あとで無限に撫でさせてやるから、今は急ぐぞ」

「はっ、う、うん。ごめんね、シファナちゃん」

 リアは我に返ってシファナから手を離した。どうやらリアは可愛いと見なしたものに心を奪われてしまってどこかへトリップしてしまうようだ。

「わたし、リアだよ。よろしくね、リアだからね」

「リア様ですか。はい。どうぞよろしくお願いします」

 シファナは丁寧にそう言ってぺこりとお辞儀をした。

「い、いや、あのね。わたしも、その……」

 リアは口篭らせながら、何か言葉を紡ごうとしたが、それは声にならなかった。「ほら、いくぞ」とノウトがリアの手を取って先へと歩き出した。リアはどこか口惜しそうな顔をしながらノウトの手を握り直して、歩いて行った。メフィが呆れた様子でノウトを追いかけていく。
 ナナセはアイナと顔を合わせて吹き出すように笑ってから、彼らの後を追った。

「なんだか、身を構えていたのがばかみたいじゃんね」とアイナは階段を降りながら話し始めた。

「ほんとだよ。想像以上にフレンドリーというかなんというか」ナナセはさっきのやりとりを思い出しながら、口元を緩めた。

「ね。けっこう誤解してたのかも、私たち」

 人間領で聞いた魔人の印象とはだいぶ違う。傍若無人でやばいやつらばっかだと思ったけど、会った彼らはそれとはあきらかに違う。
 メフィのあとを追って、階段をぐるぐると降り続ける。どこまで降りるんだろう。今、どのくらいの高さなのだろう。途中から開口部が無くなって外の様子が見られなくなった。もう、地下とかそんなレベルかもしれない。
 こんなところに封魔結界を越える何かがあるのか?
 なんて思っていたらいつの間にか階段を降り切っていた。壁にははじめの方に見た光る石の照明が埋め込まれていて、それが先を照らしている。

「一方通行の転移魔法陣でなおかつ、封魔結界を越えるものじゃからな。魔法陣の術式がえらく複雑になってしまってのう。それでこんな地下で大きく場所をとって置いてあるのじゃ」

 メフィの説明でなんとなくここにあるという理由が分かった。

「一方通行の転移魔法陣なんて出来るのか?」

「うむ。ノウト、これはおぬしと開発した代物じゃぞ」

「それも俺が……?」

「うむ。まあ、ほとんどはわしが手を施したものじゃがな」

 メフィはそう言って笑ってみせた。

「ノウト、お前すごいな」ナナセがノウトを褒賞する。

「……記憶がなくなる前の俺だから、なんか素直に喜べないんだよなー」

「ノウトはノウトじゃ。記憶のあるなしで人に違いがあるなんて証明は出来ないぞ」

 メフィの言ったその言葉が頭の中にゆっくりと浸っていく。何気なくのみこんだその言葉が、胃の中で急速に重みを増してきた。
 記憶。そうだ、アザレアが記憶は魂だとかなんとか言ってたのを思い出した。
 確か彼女はナナセが何かを思い出したとか何とか───。


「………っ」


 脳内にノイズが走り、何かが一瞬過ぎていく────


 逢、……奈……?
 そう、逢奈だ。
 ああ、そうだ。俺は彼女に謝りたくって。
 あの時護れなかったのを謝りたかったんだ。だから、今護ろうって。これから護っていこうって。

 あれ……? なんだ、これ。だめだ。うすれていく。あれ、あの時、っていつだ? 謝るって、なにを……?  

 ─────彼女って誰だ?
 

 ダメだ、もう、何も思い出せない。手は届いたのに。雲を掴むように、霧を掴むように、は消えてしまう。どうして。本当の自分を掴みかけたのに。もう、何が何だか、わからない。


「ナナセ」

……」

「どしたの? ほら行くよ」

「お、おう。今、行く」

 今はそれについて考えても仕方ない。というかそれってなんだよ。もう、何もわからない。さっきまで自分が何を考えていたのかさえも。くそ。どうしてこんな気持ちにならなくちゃいけないんだ。
 ナナセは心の中で愚痴りながらアイナのその背中を追った。
 メフィたちは暗い空間のだいぶ先を歩いていた。小走りでそれに追いつくように駆けてゆき、突然止まった彼らの背中にぶつかりそうになる。

「こっちじゃ」

 メフィはそこを右折して、ある部屋の中に入っていった。ナナセ達はゆっくりと、足並みを揃えてそこへ入っていく。
 80平方メートルくらいの、そこそこ大きな部屋だった。天井は背伸びをしたら頭が天井についてしまうくらい低い。
 床には大きな転移魔法陣が描かれていて、微かな光を放って部屋の中を照らしていた。

「転移魔法陣自体は大きいが、これらは酷く燃費の悪いものでな。再改良したところで人ひとり送るのが精一杯なのじゃ」

「えっ、……それって、かなりやばいんじゃないの!?」

 ナナセがメフィの告白を聞いて、狼狽えながら言った。

「うむ。わしも初めはそう思っておったのじゃが、わしの理論が正しければ」

 メフィは部屋の隅へと歩いていき、手招きをした。

「〈空間〉の勇者、アイナと言ったか。おぬし、ここにきてみい」

「う、うん。わかった」

 アイナは突然のことに驚きながらもメフィの元へと向かった。

「ここに転移魔法陣の起動用魔法具、端末ロッドがあるのじゃが、……うむ、触れてみろ」

 アイナは黙って頷いて、メフィの指さした端末ロッドに手を伸ばした。1メートル程の長さのそれの先端に指先が触れたところで、それは起こった。床に描かれた転移魔法陣が突然、眩く光り輝いた。その刹那の閃光に目を瞑り、次に目を開けるとメフィが嬉々とした表情で口を開いた。

「や、やったのじゃ!! 確かな魔力の増幅を肌で感じた!! これはすごいのぉ!!」

 メフィは支離滅裂な感じになりつつも喜びを声に、表情に出した。

「えっと、つまり、みんなで行けるようになったってこと?」

「そういうことじゃ。これで行けぬはずがなかろう」

 そう言われてもナナセには変化がさっぱりだった。ただ光っただけに見えたけど。

「ま、とりあえずナイス。アイナ」

「う、うん。私もよく分かんないけど、役に立てたみたいでよかった」

 そう言ってアイナは微笑んでみせた。なんかその表情がぐっときた。ぐっ、てなんだろう。ナナセもそれは分からないけど、とにかくぐっときたのだ。

「よし、じゃあ善は急げだ。メフィはもういけるか?」

「うむ。問題ないのじゃ」

 メフィは床に座り込んで転移魔法陣を指でなぞり、何かを確かめるように言葉を紡いだ。

「ほれ、おぬしら。転移魔法陣の真ん中に立つのじゃ」

 そして、顔を上げて部屋のど真ん中を手で指した。ナナセやアイナ、ノウト、それにリアはそれに従うように円の中心に移動した。

「もっとじゃ、もっと真ん中に近寄れぃ。置いてかれても知らぬぞ」

「ま、まじか」

 ナナセ達は置いてかれる恐怖に駆り立てられてさらに真ん中に動いた。

「ああもうもっとじゃ!! 身体をくっつけろ!!」

 メフィは地団駄を踏むように声を張り上げた。ナナセ達は顔を見合わせて、やるしかない、みたいな、覚悟を決めた顔をした。そして、最終的にはリアがノウトに抱きついて、ナナセとアイナが背中をくっつけあうような格好になって、ようやくメフィのオーケーサインが出た。

「では、作動させようと思うのじゃが、ひとつ言い忘れていた事がある」

 なにか、嫌な予感がした。その予感が杞憂であることを心の中で希う。

「この転移魔法陣はおぬしらがはじめてであろうあの場所に繋がっておる。もともとの用途は別にあったからのぅ」

「ってことは宗主国アトルがスタート地点か」ノウトが呟いた。

「ま、おぬしらのなかには〈空間〉の勇者がおることじゃし、問題ないじゃろう」

 メフィは能天気にそう言った。
 ナナセからしてみれば、そこそこ不安ではあった。アイナは一度ロークラントまで辿り着いてるから、行けることには行けるはずだが、万が一ということがある。変なところに飛んで迷子にでもなったらその時点で終わりだ。そうなれば、もう一度アイナを死なせることになってしまう。それは絶対に嫌だ。何があってもアイナを苦しませることなんてもうしたくない。させたくない。見たく、ない。

「準備はいいかのう」

 メフィは最終確認といった様相でナナセたちを見て、端末ロッドに触れた。

「うんっ」「お、おうっ」「ああ」「だ、大丈夫!」

 それぞれが応えて、メフィはぐっ、と端末ロッドを握り締めた。

「はぁッ………!!!」

 メフィが荒々しい声を響かせた。瞬間、空気が揺らめくような気がした。実際揺らめいていたのかもしれない。隣に立っていたノウトの髪が揺れ動いている。
 光だ。青、紫、藍、霞色。
 色とりどりの鮮やかな光が部屋いっぱいに溢れ出す。視界が色に覆われて、包まれて。
 色、色、色。頭の中までもカラフルに刻まれていく。
 そして、────

 ゆっくりと光が引いていき、ほの暗いへやへと戻っていく。
 ……失敗した、のか? なんて思ってしまったがどうやらそうではないらしい。ほの暗い部屋であるのは変わらないが、メフィの姿も見えないし、なにより床の魔法陣もない。

「ついたのかな」

 リアが周りを見渡すようにそう言った。その時だった。がしゃん、と何か重いものが動いたようなそんな音がした。その方向を見ると、そこにはが立っていた。

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