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第一章 勇者殺しの勇者
第43話 一日の終わりと約束
しおりを挟むマシロからミカエルに伝えるまでもなかったか。
ミカエルはそもそもこの戦いに興味なかったんだ。カンナ達は誰もミカエルの言うことに口を挟まなかった。誰も文句はないみたいだ。
ノウト達は言葉を失ってしまった。
その様子を見ていた一人の竜車騎手がミカエルに近付いて、口を開いた。
「勇者様、お言葉ですが〈封魔結界〉は勇者様全員が一斉に越えなければいけないという決まりがありまして……」
「分かった、〈封魔結界〉は超えるよ。それでいいでしょ?」
「は、はい。それならばこちらは何も言うことはありません」
「なんかさ……」
アイナが俯きながらも話す。
「ミカエル君の話聞いてたら私も記憶、別にいいかなって思えてきた。だって魔皇を討伐しようとしたら、死んじゃう可能性もあるじゃん? 記憶と命を天秤にかけたら、もちろん命でしょ、って思ってさ」
「大丈夫だろアイナぁ。だってオレらこんなに凄い力持ってるんだぜ? 少なくても魔皇くらいちょちょいのちょいで倒せるだろ!」
テオが大声で喋る。相変わらずうるさい。
「オレぁ倒すべきだと思うぞ! 記憶が戻ったとしてもこの幸せは消えないと思うしな!」
「おれも魔皇は殺すべきだと思うなぁ。だってさ、おれら勇者なんだよ? なんのために勇者やってんのさ。みんなも今まで色んな人達に会ってきただろう?そのみんなが口を揃えて『魔皇を倒して勇者様!』って言うんだ。民衆を守ってこそ勇者じゃない? ねぇ」
「でもその魔皇が人間に何かをしたって噂聞いたこともないんですよね……」
エヴァがフェイの言葉を遮る。
「エヴァちゃんいいこと言うね。でもね。今は〈封魔結界〉で魔人が閉じ込められているからこの平和があるんだ。いつそれが解き放たれて襲ってくるか分からない。そんな恐怖と日々戦ってるんだよ、尊い民達はさ」
「確かに、それはフェイの言う通りね……」
そう言ったのはシャルロットだった。
「民たちを守るのも勇者の役目ではあるわ。その役割から逃れるなんて少し無責任かもしれないわね」
「だろ~シャルロットちゃん。流石シャルロットちゃんだ分かってるなぁ。いやぁ賢い」
「『ちゃん』は付けないでって言ったでしょ」
「ああ、ごめんよ。シャルロットさん」
「そうそう。二度と間違えないでね」
シャルロットはまたしても自慢気な顔になる。
そんなシャルロットをリアが後ろからぎゅっ抱き締めた。シャルロットは「ふにゅ...」と変な声を漏らした。
ミカエルは罰の悪そうな顔をしている。ミカエルが悪いわけじゃないけどさ。でも確かに民たちのために、なんて言われたら反論出来ないに決まってる。
「凄い話が脱線したな」
どうにか流れを変えようとノウトがそう口にする。
「話を戻そう。部屋をどうするか、だよな」
「男女別に分けるのに反対意見の人~」
リアが手を上げて促す。
手を上げているのは誰もいないようだ────と思ったらダーシュがぶっきらぼうに手を上げていた。
「ダーシュ、またあなたは……」
パトリツィアが額に手を当てて頭を振っていた。
「姫をそいつと一緒にはしたくない」
ダーシュは上げた右腕をそのまま落下させてリアを指さした。
「ダーシュ、諦めましょう。ね。男部屋でもいいじゃないですか」
カミルがダーシュを説得しようとする。それ以降ダーシュは口を開かなかった。
「じゃあ、部屋分けはパーティ別じゃなくて男女別にしようか。さて、どうやって分けよう」
「腕相撲だ! 勝ったやつから決めようぜ」
テオが大声を出しながら立ち上がった。
「ウデズモウ、ってなんだい?」
レンが片言で聞き返した。
「腕相撲が分からないのかぁ? あっはっは! そんなやつ初めて見たぜ?」
「いや、ほんと分からないんだ。ごめん」
「謝ることないぞ、レン。そうか、腕相撲が分からないのか、腕ず……、あれ、ずもう、ってなんだ?」
「いやもういいからそれ。前も見たし」
ナナセがテオの肩に手を置いて座らせた。
竜車騎手のウルバンがこちらに振り返った。その手には短く、細い、串のような棒が何十本か握られていた。
「勇者様方がお話なさっていた間、私どもがクジを作ったので部屋割などはこちらで決めてはどうでしょうか」
「おお~。すごーい」
「作って貰ったことだし、お言葉に甘えて使わせて頂こうか」
「そうだな」
「ではまず女性の皆様から引いてくださいませ」
まずリア達が次々とウルバンの手に握られていた棒が勇者の手に渡っていく。
女性陣全員がそれを取り終わったのを見てノウト達も同じようにその棒を手に取る。
棒の先には数字で『2』と書いてあった。
するとフェイにそれを覗き込まれる。
「おっ、ノウト君おれと同じじゃない? やっぱり同じだ。いぇーい」
フェイがハイタッチをしてくるが当然スルーする。
「ごめんなー。フェイが迷惑かける」
ナナセがノウトを見てそう言った。
「ああ。夜の間、預かるな」
「っておいおいおい。おれは何なの、ねぇ」
「問題児」
ナナセが一言そう言って去っていった。彼は違う部屋のようだ。
「レン何番?」
「俺は1番。ノウトとは別だね。残念」
「別か~。運だししょうがないな。手っ取り早く荷物移しに行くか」
「そうだね」
ノウトはレンと一緒に自分たちのいた部屋に向かう。
てかこの部屋が2番号室か。
俺は別に荷物動かさなくていいわけだ。
自分のベッドにどさっと身を委ねる。枕に顔を押し付けた。
「ノウト、お疲れ様」
「ああ、レンもね」
ノウトは身を起こし、ベッドに座る姿勢になる。
「俺なんか全然。ノウトの方が無理してるように見えるよ」
「そんなことないけど、ありがとう、レン」
「うん。じゃ、俺向こう行くから」
「おう。おやすみ」
レンが手を振って部屋から出ていく。
自分以外誰もいないこの部屋は非道く広く感じた。この宿、部屋の数は少ないんだけどその分、部屋一つ一つがやけに広いんだよな。
しばらくするとシャルロット、フウカ、リアの三人が部屋に入ってきた。
「あっノウトくん」
「よっ」
「もしかして前と同じ部屋?」
「そうだよ」
「うわぁ、いいですね、楽で。やっぱり私もここで寝ようかな」
フウカはかつて自分の領地だったベッドに別れを告げるようにバタッとベッドに倒れた。
「フェイも一緒だけど」
「あっ、じゃあいいです」
そう言ってベッドから身を起こして荷物を持ってからそそくさと部屋から出ていくフウカだった。何だかフェイに同情したくなってくる。
「おやすみなさい、ノウト」
荷物を纏めたらしいシャルロットがこちらを見る。相変わらずちっちゃいな。仕草やら何やら小動物みたいだ。
「おう、おやすみ」
ノウトはシャルロットに手を振って送り出す。送り出すといっても他の部屋に移動するだけどさ。
「リアもおやすみ、ってうぉっ」
リアにも同じように手を振ると彼女がこちらに向かって歩いてきて、ノウトをベッドに押し倒した。
「な、なに?」
ノウトはリアから目を逸らすように小声で話す。
内心、心臓がばくばくいっていた。もっと気の利いたことを言いたかったがあまりにいきなりだったのですぐには反応出来なかった。
リアはノウトの耳に唇を近付けて、
「今夜0時に宿の近くの桟橋集合ね」
そう囁いて、顔を離した。
「その、密会のやつだから」
「ああ、それね……」
盗み聞きされたら困るとは分かったいるけどもっと良い伝え方あるだろ。
やっとリアと二人で話す機会が来たのか、と心で思う。いやぁ一日長かったな、ほんと。
「ってうえぇ!?」
これは、そうスクードの声だ。
「し、失礼しました~。……お二人ってそんな仲だったんすね……」
声は遠のいていく。ノウトはリアの方を掴んでばっ、と立ち上がり、
「ち、ちがうぞスクード! 大きな勘違いだ!」
と言及するが、すでにスクードの姿は見えなくなっていた。
「じゃ、おやすみ。ノウトくん」
「え、ああ、おやすみ。リア」
彼女は悪戯っぽい笑顔を見せて部屋から出ていった。
リアはノウトに妙に肩入れをしているような気がする。いや、驕りすぎかもな。リアは確かに誰に対しても友好的に接するけど。誰にでもリアはあんなことをするのだろうか。それを想像したら何だか胸が痛くなった。なんだこれ。
部屋に取り付けられた時計を見ても0時までは余裕があった。
約束の時間まで少し時間があるな。どうしようか。
このまま起きて待ってるとフェイに絡まれて面倒くさいことになりそうだし少しだけ寝ようかな。疲れたし。
大丈夫だって。0時前には起きれるからさ。と誰に言うでもなく、頭の中で自己暗示する。
竜車の中でヴェロアと情報共有したり、フェイに殺されたコリーを埋葬したり、海に行ったり、マシロと夕食を食べたり、フョードルたちを除いた勇者みんなで話し合ったり、色々あった。
今日は一段と長く感じたな。
ベッドに横たわって布団を被る。
今日一日のことを脳内で整理する。
しばらくすると、すとん、と微睡みに包まれて、眠りに落ちていた。
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