あのエピローグのつづきから 〜勇者殺しの勇者は如何に勇者を殺すのか〜

shirose

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第一章 勇者殺しの勇者

第41話 月の下、駄弁り、街と夜

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 いくら呼んだってマシロが現れることはなかった。
 彼女が〈神技スキル〉を制御出来てないのが嘘かどうなんて分からない。今消えたのもたまたまかもしれない。
 でも嘘だった方がいいに決まってる。いつだってマシロに会いたいのはみんな同じだろ。

 ノウトはとぼとぼと宿への帰路を歩き続けた。
 マシロが言ってたのことの半分も理解出来なかった。いや、違うか。理解は出来たが共感は出来なかった。

「俺になら殺されていいってどういうことだよ……」

 その意図が分からなすぎて思わず愚痴のように零してしまう。だめだ。本当に意味が分からない。推測も何も出来やしない。

 歩いていると、ようやく目的の宿が見えてきた。
 マシロと話しているとあっという間だったな。
 道の向こう側から複数人が歩いているのが見えた。

「あっ、ノウトくん!」

 リアがこちらに向かって走ってくる。
 それに伴って他の人達もこっちに来る。レンやフウカ、シャル、それにミカエルたちもいた。
 みんなと目配せする。無事で良かった。無事も何も心配することなんて何もないのにそう安堵してしまった。

「ごめんね。一人にしちゃって。もっと早く戻ろうかと思ったんだけどすっごい道に迷っちゃって」

「いや大丈夫。それよりリア達の方も大丈夫だったのか? 迷子って」

「もう! スクのせいなんだからね!!」

 カンナが頬を膨らませてスクードにジャブをかます。

「いやもうほんとごめんって言ってるじゃないっすか! それに方向音痴の俺に舵を取らせたの間違いっすよ」

 スクードはカンナのジャブを両手でガードしながら大袈裟な手振りで話す。

「ていうかレン途中から気付いてたでしょ」

 シャルロットがレンを見上げて言う。

「あっバレた?」

「えぇ!? レンクン!? 気付いてたなら早く言って欲しかったんすけど!」

「いや、面白いなって思って」

「なんすかそれ!」

「ははははっ!」

 ミカエルが腹を抱えて笑いだす。

「笑ってる場合じゃないっすよミカ!」

「ごめんごめん。ほんと面白くて」

「まぁ、帰って来れて良かったな」

「はいっ。……あれ? ノウトは何してたんです?」

 フウカが人差し指を顎に当てて首を傾げる。

「俺はマシロと夕飯食べに外食してたんだ。今はマシロ見えないけどね」

「あぁ、マシロさんとね……」

「……ってほえぇ!? マシロちゃんって私たちと一緒にいたんじゃなかったんですか!?」

 エヴァが口に手を当てて驚く。さてはマシロのやつ何も言わないでこっちに来たな……。

「途中見えなくなったあとも私たちといたのかと思ってたけど一人で帰ってたのね……。何かおかしいと思ったのよ」

 シャルロットが嘆息気味に呟く。

「あら、皆さん」

 宿の前の道で談笑をしていると聞き覚えのある声をかけられた。パトリツィアだ。もちろんその仲間たちも全員いた。

「やっほー」

 ニコがそれぞれにハイタッチしていく。ノウトはその輪に加わらなかった。

「皆さんお揃いのようで。何をしてらっしゃるのですか?」

「ただお話してただけだよー」

 ミカエルが無難に答える。

「おいお前……。……姫に手ェ出したら、ボコす」

 ダーシュがリアを睨み付け、あくまでぼそぼそと喋る。
 声は小さいのに妙な気迫があるんだよなぁ、こいつ。背丈はノウトとほぼ同じだけど声にドスが利いてるというかなんというか。
 パトリツィアはダーシュより小さな声で「こ、こら。ダーシュ」と言って彼を止めようと横に立つがダーシュはそれが意識外にあるようだ。
 ノウトはリアの前に立つ。身体が勝手にそう動いてしまった。本能がそうしろと言っているようにも思えた。

「なんだ? ……ノウト」

 ぼさぼさ髪から見えるその鋭い眼光に臆しそうになる。
 キャラじゃないと自覚しつつもノウトは肩をそびやかすように話す。

「リアに手を出したら、お前をボコす」

「ひゅ~」

 レンが下手くそな口笛を吹く。お前はどっちの味方なんだよ、おい。すっごい恥ずかしくなってきたじゃないか。

「やめなさい、ダーシュ」

 ジルがダーシュを制止しようと間に入る。

「そうですよ、ダーシュ。空気を読んでください。ほんわかムードっぽかったでしょうが」

 カミルがダーシュを窘める。

「黙れバカミル」

「そうよ黙りなさいアホバカミル。死んで償いなさい」

「ジルはいいですけど、ダーシュにそれ言われたくないです」

「ジルにはいいんだ……」

 ミカエルがドン引きしながらも呟く。
 相変わらずこのパーティは何かやばい。
 リアはノウトの背をぽんっと軽く叩いてから前に出る。

「だから私はぜーったいに攻撃しないって言ったよね」

「信用できるか」

「してよ~。もぉ~~~。ねぇ~~」

 リアはそう言ってダーシュの肩を揺する。可愛いかよ。ニコも真似して反対の肩を揺すり始めた。次にカンナがダーシュの背をジャブし始めた。これはまだ可愛い。

 しかし、最後はカミルが何を思ったかダーシュの胸ぐらを掴んで揺すりだした。何故か内股だった。四人で「ねぇ~~~」と喚き出す。いきなり地獄絵図か?
 この奇妙な光景に耐えきれなくなったのかミカエルとエヴァ、それにフウカが吹き出す。

「………こんなやつが危害を加えてくると思うか?」

 ノウトは慈愛の目でダーシュを諭そうとする。

「……ふん」

「がぁッ……!!」

 ダーシュは軽視するような目でノウトを見てからカミルの腹にパンチを入れ、宿へ入っていった。
 カミルは腹を抑えて地に這い蹲る。あれは本気の殴りだった。いたそう。パトリツィアが屈んでカミルの背をさすりながらリアの方を見て、

「リアさん、申し訳ございません。うちのダーシュがご迷惑をおかけして」

「いやいや、気にしてないから大丈夫だよ」

「ダーシュはパティしか見えてないからねぇ。困ったもんだぜ~」

 ニコが腕を組んでから肩をすくめる。パトリツィアは「えっ!?」と口に両手を当ててばっ、と立ち上がる。

「世界とパティならパティを選びそうね」

 ジルは呆れたように言った。

「そ、それは世界を選んで欲しい、ですね」

 パトリツィアは少し狼狽えながら言う。どうしてダーシュはパトリツィアにここまで肩入れしてるのだろうか。
 今思えば初めて会話したあの時からダーシュはパトリツィアに気のあるようなことを言っていたような気がする。何故なのか。そんなの、考えても分かるわけない。

「さて。ここでずっと話してる訳にもいかないしさ、そろそろ中に入ろうよ」

 レンが提案し、皆がそれに従って扉を開けて中へ入っていく。ノウトは最後尾になって歩いていった。
 前を歩いていたリアが振り向く。

「さっきはありがとね」

「まぁな」

 リアはふふっ、と笑ってから前を向いた。

 世界とパティだったらパティを選ぶ、か。

 もしそれが、世界と俺の大切な人だったら。

 俺はどっちを選ぶのだろうか。

 もしくはそのどちらも─────
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