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第一章 勇者殺しの勇者
第26話 はじめての備忘録
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地平線の彼方に海が見え始めた。今日の昼頃には白海の国シェバイアの首都フリュードに着けるだろう。フリュードに着けばシャルロットの出す食事のレパートリーも増えるはずだ。何気にそれが楽しみなノウトだった。
野営地から出発してから3時間が経とうとしていた。会話をしたり、客車内で〈神技〉のちょっとした練習をしたりして──────ノウトはしなかった、というか出来なかったが──────時間を潰していたらあっという間だった。今は全員ぼーっとしていたり、時々談笑したり、または目を瞑って寝たりしている。
そんな折、ノウトが意味もなく竜車の外を窓越しに眺めていたら、肩をとんとんと叩かれたので「ん?」と振り返ると、彼女がそこに立っていた。
髪や肌は雪のように白く、その頭に生える二本の角は対照的に漆黒な彼女。そう、魔皇ヴェロアだ。
昨日は一度も会うことがなかったため少し心配をしていたが無事そうでほっと肩を撫で下ろす。
突然現れたことに少し驚きはしたが流石にもう慣れてしまった。
「ノウト、どうかした?」
隣に座るシャルロットがノウトが急に振り返ったことに疑問を持ったのか怪訝そうな顔で質問する。
「いや、なんでもない」
そこにヴェロアはいるはずなのに、ノウト以外誰も見えていない。
改めて思うと不思議な光景だ。
向かいに座っているリアと一瞬目が合うが直ぐに逸らす。
ヴェロアはニカッと笑って、
『ノウト、おはよう』
(おはよう。……といってももう10時だけどな)
『仕方ないだろう。私は私でやることがあってだな』
(別に咎めてるわけじゃないよ。ごめん、こうしてるの周りから見たら不自然だから窓の外眺めながら会話する)
『ああ、問題ない』
ノウトはもう一度窓の外を眺める。だいぶ海岸に近づいているのが分かった。
(────それで、ヴェロア。一つ報告することがあってさ)
『なんだ、誰か片付けたのか?』
(んー、当たらずとも遠からずというか。……そこに銀髪の女の子いるよな)
『ああ、いるな。なんかお前の後ろ姿をじっと見ているようだが……』
マジかよ。今魔皇と交信していることもリアの察しの良さからしてバレている可能性はある。……いや、流石にないか。判断材料が少な過ぎるし。
(彼女、リアって言うんだけど。そいつに俺が魔皇の協力者ってことバレちゃってさ)
『……え、えぇっ!?』
(おっ、いい反応)
『言うとる場合か。……ん? バレてるならどうしてそこのリアという少女は今生きてるんだ? 早く仕留めるべきだろう』
(それが彼女、不死身でさ。俺の〈神技〉効かなくって。あとリア、俺達の仲間になりたいって)
『ちょっと待て。流石の私も頭がこんがらがってきたぞ……』
ノウトはヴェロアにこうなった経緯や諸々をざっくりと説明した。実行しようとしている作戦の内容も報告する。
『勇者の説得か……』
(だ、ダメ……?)
『いや、いい。物凄くいい。出来ることならば、それが最善とも言える。しかし、全滅よりも遥かに難易度が高いぞ』
(それは承知の上だよ)
ヴェロアの顔は見えないがおそらく少し笑っている。小さな笑いが零れたのが聞こえた。
『……うむ、そうだな。お前が決めたことだ。やるしかない。それに、リアという少女に抵抗されたらお前は勝ち目がなさそうだしな』
(っておい)
『ははっ』
(……でも絶対に説得出来ないと確信したその時は、俺は殺すよ、そいつを)
『ノウト、無理はするなよ』
(……他人事みたいに言わないでくれよ)
『私は一度命を落としたも同然の身だからな。ノウトに任せて、その結果どうなっても何も悔いは無い』
(…………)
目頭が熱くなってきた。あぁ、だめだ俺。涙腺が緩すぎる。
『よし、じゃあ早速、勇者達の神技をおさらいするとしよう。遅くはなってしまったが、どっちにせよそれで相手の危険度は測った方がいい』
(それもそうだな)
ノウトは自分の背嚢から何も書かれていないスクロールとペンを取り出す。竜車が走行中なのでがたがたと揺れ、文字を書きにくいにも程がある状況だが、この際仕方ない。
『用意周到だな』
(まぁね。……まずは俺のパーティか)
つらつらと自分たちのパーティについて纏める。ノウト、レン、リア、シャルロット、フウカと書いているうちに、ふと疑問が生まれた。
(そういえば、俺のパーティの彼らと以前会ったことってあったりするのか? 例えば戦ったとか)
『う~ん、記憶にある程度だとないな。───いや、そこのちっちゃい女の子はいたような気がするな』
(シャルロットか)
『ああ、私のいるところまで辿り着いたのを考えるにロストガン、メフィ、それにユークが仕留め損ねた強者だな。尤も私が消し炭にしてしまったが』
(リアやレン、フウカは見てないのか?)
『見てないな、多分。確か彼らは〈風〉と〈影〉と〈生〉の勇者だろう? 私もノウトもそういった手合いとは戦ってないはずだから、ロストガンかユークあたりにやられてしまったのだろうな』
(リアがやられる、なんておかしくないか?)
『不死だからって無敵って訳じゃないぞ、ノウト。例えば土砂で生き埋めにしたり海の底に沈めたり凍らせたり』
(あー……わかったわかった。何となくリアがどうやられたか察しちゃうからやめて)
ノウトは頭を振って想像したことを忘れようとする。そして他のパーティのことについても書き始めた。圧倒的に〈神技〉の情報が少ない。
(他の勇者の情報を教えてくれないか?)
『わかった。といっても教えられることは限られているがな。私は相手を瞬殺してしまったからノウトが相手した情報しか持ちえていないし私が遁走を余儀なくされた相手の能力は未知数だったからな』
(俺と魔皇だけが過去に戻ったっていうあれか)
『そうだ。ノウト曰く《触れたものを消す能力》、《炎を操る能力》、《死者を操る能力》そして《瞬間移動する能力》。これらを持つ勇者がいたとお前は言っていた』
『炎を操る能力』っていうのはおそらく、いや絶対にレティシアのことだ。他は思い当たる節が全くない。
───おい待て。瞬間移動……? そんな能力を持った奴がいたら魔皇の所まで跳んで一瞬で殺されてしまうじゃないか。
『そう。ノウトの思っている通りだ。お前自身が一番危険視していた人物でもある』
(なるべく早くそいつを見つけ出さないとな。……そいつらの外見の特徴とかないか?)
『んん~。まず《触れたものを消す能力》、これは白髪の少年だったと言っていたな』
白髪の少年。
極めて特徴的な容姿。それに当てはまる人物は……。
(────ミカエルだ)
野営地から出発してから3時間が経とうとしていた。会話をしたり、客車内で〈神技〉のちょっとした練習をしたりして──────ノウトはしなかった、というか出来なかったが──────時間を潰していたらあっという間だった。今は全員ぼーっとしていたり、時々談笑したり、または目を瞑って寝たりしている。
そんな折、ノウトが意味もなく竜車の外を窓越しに眺めていたら、肩をとんとんと叩かれたので「ん?」と振り返ると、彼女がそこに立っていた。
髪や肌は雪のように白く、その頭に生える二本の角は対照的に漆黒な彼女。そう、魔皇ヴェロアだ。
昨日は一度も会うことがなかったため少し心配をしていたが無事そうでほっと肩を撫で下ろす。
突然現れたことに少し驚きはしたが流石にもう慣れてしまった。
「ノウト、どうかした?」
隣に座るシャルロットがノウトが急に振り返ったことに疑問を持ったのか怪訝そうな顔で質問する。
「いや、なんでもない」
そこにヴェロアはいるはずなのに、ノウト以外誰も見えていない。
改めて思うと不思議な光景だ。
向かいに座っているリアと一瞬目が合うが直ぐに逸らす。
ヴェロアはニカッと笑って、
『ノウト、おはよう』
(おはよう。……といってももう10時だけどな)
『仕方ないだろう。私は私でやることがあってだな』
(別に咎めてるわけじゃないよ。ごめん、こうしてるの周りから見たら不自然だから窓の外眺めながら会話する)
『ああ、問題ない』
ノウトはもう一度窓の外を眺める。だいぶ海岸に近づいているのが分かった。
(────それで、ヴェロア。一つ報告することがあってさ)
『なんだ、誰か片付けたのか?』
(んー、当たらずとも遠からずというか。……そこに銀髪の女の子いるよな)
『ああ、いるな。なんかお前の後ろ姿をじっと見ているようだが……』
マジかよ。今魔皇と交信していることもリアの察しの良さからしてバレている可能性はある。……いや、流石にないか。判断材料が少な過ぎるし。
(彼女、リアって言うんだけど。そいつに俺が魔皇の協力者ってことバレちゃってさ)
『……え、えぇっ!?』
(おっ、いい反応)
『言うとる場合か。……ん? バレてるならどうしてそこのリアという少女は今生きてるんだ? 早く仕留めるべきだろう』
(それが彼女、不死身でさ。俺の〈神技〉効かなくって。あとリア、俺達の仲間になりたいって)
『ちょっと待て。流石の私も頭がこんがらがってきたぞ……』
ノウトはヴェロアにこうなった経緯や諸々をざっくりと説明した。実行しようとしている作戦の内容も報告する。
『勇者の説得か……』
(だ、ダメ……?)
『いや、いい。物凄くいい。出来ることならば、それが最善とも言える。しかし、全滅よりも遥かに難易度が高いぞ』
(それは承知の上だよ)
ヴェロアの顔は見えないがおそらく少し笑っている。小さな笑いが零れたのが聞こえた。
『……うむ、そうだな。お前が決めたことだ。やるしかない。それに、リアという少女に抵抗されたらお前は勝ち目がなさそうだしな』
(っておい)
『ははっ』
(……でも絶対に説得出来ないと確信したその時は、俺は殺すよ、そいつを)
『ノウト、無理はするなよ』
(……他人事みたいに言わないでくれよ)
『私は一度命を落としたも同然の身だからな。ノウトに任せて、その結果どうなっても何も悔いは無い』
(…………)
目頭が熱くなってきた。あぁ、だめだ俺。涙腺が緩すぎる。
『よし、じゃあ早速、勇者達の神技をおさらいするとしよう。遅くはなってしまったが、どっちにせよそれで相手の危険度は測った方がいい』
(それもそうだな)
ノウトは自分の背嚢から何も書かれていないスクロールとペンを取り出す。竜車が走行中なのでがたがたと揺れ、文字を書きにくいにも程がある状況だが、この際仕方ない。
『用意周到だな』
(まぁね。……まずは俺のパーティか)
つらつらと自分たちのパーティについて纏める。ノウト、レン、リア、シャルロット、フウカと書いているうちに、ふと疑問が生まれた。
(そういえば、俺のパーティの彼らと以前会ったことってあったりするのか? 例えば戦ったとか)
『う~ん、記憶にある程度だとないな。───いや、そこのちっちゃい女の子はいたような気がするな』
(シャルロットか)
『ああ、私のいるところまで辿り着いたのを考えるにロストガン、メフィ、それにユークが仕留め損ねた強者だな。尤も私が消し炭にしてしまったが』
(リアやレン、フウカは見てないのか?)
『見てないな、多分。確か彼らは〈風〉と〈影〉と〈生〉の勇者だろう? 私もノウトもそういった手合いとは戦ってないはずだから、ロストガンかユークあたりにやられてしまったのだろうな』
(リアがやられる、なんておかしくないか?)
『不死だからって無敵って訳じゃないぞ、ノウト。例えば土砂で生き埋めにしたり海の底に沈めたり凍らせたり』
(あー……わかったわかった。何となくリアがどうやられたか察しちゃうからやめて)
ノウトは頭を振って想像したことを忘れようとする。そして他のパーティのことについても書き始めた。圧倒的に〈神技〉の情報が少ない。
(他の勇者の情報を教えてくれないか?)
『わかった。といっても教えられることは限られているがな。私は相手を瞬殺してしまったからノウトが相手した情報しか持ちえていないし私が遁走を余儀なくされた相手の能力は未知数だったからな』
(俺と魔皇だけが過去に戻ったっていうあれか)
『そうだ。ノウト曰く《触れたものを消す能力》、《炎を操る能力》、《死者を操る能力》そして《瞬間移動する能力》。これらを持つ勇者がいたとお前は言っていた』
『炎を操る能力』っていうのはおそらく、いや絶対にレティシアのことだ。他は思い当たる節が全くない。
───おい待て。瞬間移動……? そんな能力を持った奴がいたら魔皇の所まで跳んで一瞬で殺されてしまうじゃないか。
『そう。ノウトの思っている通りだ。お前自身が一番危険視していた人物でもある』
(なるべく早くそいつを見つけ出さないとな。……そいつらの外見の特徴とかないか?)
『んん~。まず《触れたものを消す能力》、これは白髪の少年だったと言っていたな』
白髪の少年。
極めて特徴的な容姿。それに当てはまる人物は……。
(────ミカエルだ)
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