あのエピローグのつづきから 〜勇者殺しの勇者は如何に勇者を殺すのか〜

shirose

文字の大きさ
上 下
22 / 182
第一章 勇者殺しの勇者

第21話 テンプレートミール

しおりを挟む
「勇者様方~!」

 御者席の方から声がする。竜車の操縦主ウルバンだ。

「そろそろ野営地につくのでそこで今夜は野営しましょう」

「分かりました~お疲れ様です」

「お疲れ様ですー」

「恐縮です!」

 フウカと共に苦労人の彼をねぎらう。
 竜車は徐々にスピードを落としていき、道沿いに止まった。

「お~い、リア起きろ~」

 リアの肩を揺らして起こす。

「ほぇ……。フリュード着いたの……?」

「いや、まだだよ。今夜は野営するそうだ」

野営キャンプか~……。なんだかわくわくするね」

「そう?」

「するでしょ」

「しますよ」

 フウカとリアが顔を近づけてくる。

「雨風に晒されながら外で寝ることなんて不安だよ、俺は」

「雨は降ってないし大丈夫でしょ。テントとかはないけど寝られるって」

 そう言ってリアは客車から下りる。
 俺はレンとシャルが起きたのを確認してから外に出る。

 平原だ。
 少し距離を置いた所に小川が流れているのが見える。
 光源は竜車の客車内から漏れる光と月と星の灯りと仄かに光る左手甲の《エムブレム》だけだった。
 野営地と言っても何か施設があるという訳ではなくただ危険な獣のテリトリーではない、というだけのようだ。

 他のパーティの人間も竜車から次々と降りていくのが見て取れた。

「スールとヘカもお疲れ様」

 リアが二頭の走竜の首を撫でる。恐る恐るシャルも撫でていた。
 レンは星空を仰ぐ。

「風、気持ちいいね」

「ほんとですね」

 フウカが大きく深呼吸をする。
 見るとウルバンが既に火を熾していた。 仕事が早い。竜車の操縦とか全てにおいて有能過ぎる。他のパーティの所もぽつぽつと火が灯されてる。

「食事にしましょうか」

 ウルバンは荷台を漁って麻の袋を取り出す。
 保存食と思われる干し肉と固そうなパンだ。

「ふふん、私の出番のようね」

 シャルがそう言うと彼女はその手を胸の前に持ってきてぽんっ、と広げた布の上に食べ物を次々と出現させた。
 今朝食べた食材達だ。
 焼きたてのパンにベーコン。器に入った豆入りのスープ。熟されたチーズ。
 実は昼食もこれだったので本日三回目の料理だ。

「……あ、相変わらず凄いですね。勇者様のお力は」

 ウルバンがそれを見るのは二回目なのに目を見開いて驚いている。シャルは腕を組んで、わかりやすく得意げな顔をしてみせる。まさに神技だ。

「またこれなんだね。シャル、他のは出せないの?」
 
「だ、出せるわよ。見てなさい」

 レンに軽く挑発されたシャルはもう一度手をかざして、昨日も出してみせたプレーンクッキーと昨日の夕飯にシャルが食べていたシェバイアエビのグラタンを出現させる。

「そ、それだけ?」

「うるさいわね。造れるのは触れたもの全てって言ったでしょ? そもそもまだ目覚めてから日も浅いのにそんなに多くは出来ないわよ」

「昨日の昼食は出せないのか?」

 俺が問うと、

「昨日の昼……。何食べたっけ……」

「ふむふむ。そもそも覚えてないと出せないんだね」

「ま、まぁそういうことにはなるわね。これこれを造るっていう明確なイメージがないと出来ない。昨日の昼食っていう抽象的な指令じゃ造れないわ」

「う~ん、なるほどなぁ~。でもシャルちゃんが色んなものに触れたりすればそのデメリットがないも同然だね」

「そうね。あと私は便利屋じゃないんだから、礼はしなさいよね」

「ありがとう、シャル」「頂きます、シャル」「ありがとね、シャル」「かわいいなぁシャルちゃんはぁ」「シャルロット様、感謝します」

 みんなで感謝を羅列する。なんか、一人違ったような気がしなくもないがこの際気にしない。

「ふふっ。分かればいいのよ」

 リアに頬擦りされながらも満更ではないシャルだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
【書籍化決定しました!】 異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く異世界での日常を全力で楽しむ女子高生の物語。 暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

最弱ユニークギフト所持者の僕が最強のダンジョン探索者になるまでのお話

亘善
ファンタジー
【点滴穿石】という四字熟語ユニークギフト持ちの龍泉麟瞳は、Aランクダンジョンの攻略を失敗した後にパーティを追放されてしまう。地元の岡山に戻った麟瞳は新たに【幸運】のスキルを得て、家族や周りの人達に支えられながら少しずつ成長していく。夢はSランク探索者になること。これは、夢を叶えるために日々努力を続ける龍泉麟瞳のお話である。

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

幼馴染のチート竜,俺が竜騎士を目指すと伝えると何故かいちゃもんつけ始めたのだが?

モモ
ファンタジー
最下層のラトムが竜騎士になる事をチート幼馴染の竜に告げると急に彼女は急にいちゃもんをつけ始めた。しかし、後日協力してくれそうな雰囲気なのですが……

【書籍化進行中】魔法のトランクと異世界暮らし

猫野美羽
ファンタジー
※書籍化進行中です。  曾祖母の遺産を相続した海堂凛々(かいどうりり)は原因不明の虚弱体質に苦しめられていることもあり、しばらくは遺産として譲り受けた別荘で療養することに。  おとぎ話に出てくる魔女の家のような可愛らしい洋館で、凛々は曾祖母からの秘密の遺産を受け取った。  それは異世界への扉の鍵と魔法のトランク。  異世界の住人だった曾祖母の血を濃く引いた彼女だけが、魔法の道具の相続人だった。  異世界、たまに日本暮らしの楽しい二拠点生活が始まる── ◆◆◆  ほのぼのスローライフなお話です。  のんびりと生活拠点を整えたり、美味しいご飯を食べたり、お金を稼いでみたり、異世界旅を楽しむ物語。 ※カクヨムでも掲載予定です。

処理中です...