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第一章 勇者殺しの勇者
第18話 導く者と導かれし者たち
しおりを挟む「は?」
それはノウトの口から出た言葉ではなかった。もちろん同じ反応をしそうにはなったが、声には出さなかった。その声の主はシャルロットだった。
「運命とかそんな詩的な答えじゃなくて方法を聞いたのよ、ノウトは」
「確かに運命は詩的な戯言にも聞こえるけど事実そうなんだからそれ以外に答えようはないかな。運命られた理に則っておれらは生きてるんだ。ただそこにおれがヴェティ、ナナセ、テオ、アイナと仲間になるっていう運命があっただけのことだよ」
「いいからフェイのことは無視して」
アイナはフェイの前に出て言葉を遮る。
「まぁ要するに私達はあの時フェイに誘われて成り行きでパーティ組んだだけだから。あのフョードルとかいうやつの仲間にはなりたくないって思っただけ。ちょっと今は後悔してるけど。まぁヴェティが可愛いからプラマイゼロで」
そう言ってアイナはヴェッタの頭を撫でる。ヴェティは無反応だ。ほんとに生きてるのかこの子は。そう思ってしまうほどに顔には感情を感じられないし、動作も必要最低限だ。ここまで来ると不安になってくるが二本足で立って瞬きもしてるから生きてはいるな。
「おれがマイナスなんて酷いこというな~」
「いや、ときどき言動がやばいんだって、フェイは」
「いやこれがおれだよ。普通だって。ねぇヴェティ」
ヴェッタは相変わらず無反応。
言葉すら発しないし顔をフェイに向けることも無く、こちらをただ見続けていた。なんか俺したかな。
「あああぁぁぁっっ!! お前らぁぁっ!!」
そこで聞き覚えのある声が後方から聞こえた。めちゃくちゃ大声だった。耳が痛い。
「オレがパーティ募るときに勝手にどっか行った奴らじゃねぇか!」
「あぁ君はいつぞやの」
「一番にパーティ決めやがって。一番の座をオレに譲れ協調性ゼロ共」
「フョードル、そこまでにしとけ。言ってることがよく分かんないぞ」
「うるせぇジーク、オレはどんな分野においても一番が一番好きなんだよ、分かったか?」
「はいはい、そうですねー。いやもうほんとお邪魔しました~」
レティシアがそう言ってフョードルの首根っこを掴んで引っ張っていく。
何だか哀れなやつだ、そう思ってしまった。台風が一瞬訪れて一瞬で去っていった感じだ。どんなパーティにも一人二人は問題児がいるな、うん。
ミカエル達の方を見遣る。パーティ全員で会話してるようだ。四人パーティを押し付けてしまって何か申し訳ない気分だ。
……ってあれ? よく見たら五人、居ないか? 見たことのない人が一人ミカエルのパーティで話している。
空色の髪をした女の子だ。
その左手甲には勇者の紋章である《エムブレム》がしっかりと刻まれていた。じっと見ていると目が合う。やばい、見過ぎたかも。
「なぁ、リア、あそこに」
「やあぁぁっと集まりましたね、勇者の皆々様」
リアに向けられたノウトの声は何者かの大声によって遮られてしまった。
またしてもが背後から聞き覚えのある声がした。声の方向を見るとあの男が立っていた。
始めてノウトたちが目覚めたあの部屋にいた変な男だ。
ウザったらしい喋り方が特徴的すぎる。
どこから現れたのだろうか。目立つ服を着ているのにそこに居るのに話しかけられるまで気づかなかった。
「そこの人達は30分近く遅刻ですよ全くもう」
「へっ、何事も用意周到にするのが俺のポリシーなんでな」
「そこは一番を狙えよ。こっちの身にもなれ」
「謝んねえぞシメオン。お前らはオレが魔皇を殺した時にひれ伏すことになるからな」とフョードルは腕を組みながら豪語する。
「頼もしいんだか、なんなんだか……」
そう言ったのはセルカだった。彼女もかなり手を焼いてそうだ。
「うるせ……って今のセルカが言ったのか!? 意外だなおい!」
「はいはい君がうるさいですよ~。少し黙って下さい勇者さぁん。え~ではまずね、パーティを皆さん組んだということでやって貰いたいことがね、あります」
フョードルは変な男にまたしてもキレているがそれを彼はスルー。
奇妙な男は自分の右手と左手を組んで、
「パーティの皆さんで手を繋ぎ合って円陣を組んで下さいませ」
言われるがままにノウト達は手を繋ぎ合う。
右にリア、左にシャルロットがいる。
三秒ほどそのままでいると、
「はい、もう大丈夫で~す。離してくださぁい。ではね、左手の〈エムブレム〉を確認してみて下さい」
左手をこの前に持ってきて〈エムブレム〉を見てみる。
すると、五芒星の外周のみが鈍く光っていたそれがその中央部分もまた同じように輝き出した。
「これで皆さん正式なパーティになりましたよ~。はいそれでは本筋を話しますね~」
変な男が話を続ける。妙なスピード感を感じる。どこか急いでる感じだ。
どうでもいいけど、こいつは名前とかないんだろうか。教えてくれとは言わないが固有名詞がないと呼びずらいにも程がある。絶対に会話したくないので聞きたくはない。マジで。
「勇者の皆様にはここ宗主国アトルから竜車で約七日程掛けて魔人領と人間領の境目、〈封魔結界〉に向かってもらいます」
「今日には魔人領に着けるのかと思ってたけど……」
「まだ七日も猶予があるんですね」
フウカが相槌を打つ。
「その途中アトルの属国、白海の国シェバイアと銀岳の国ニールヴルトを通過します。えぇ。封魔結界を通り抜けるまでは皆さん、ご一緒にキャラバン体制で同行しますよ。あっ私は行きませんけど」
「いや行かないんすね」
スクードが堪らずツッコむ。
「私は私でやることがありますのでね~。的な意味深なことを言いつつ特にありませんけどね、やること」
「早く話を続けろウザ野郎」
そう言ったのはダーシュだった。痺れを切らしたらしい。
「は~い、そう言われたらもう仕方ありませんね。各竜車それぞれにアトルの騎士さんたちが手網を持って下さると言うのでその点は安心してください」
竜車をどう操縦するのかと思ったがちゃんと同行する人がいるのか。
「ん~、まぁ言いたいことはそれくらいですかね。大事なことは封魔結界を越えるのは勇者皆様同時で、ということくらいですかね。それだけ覚えといてください」
やけに念を押してくるな。同時に超えないと何か起きるのか?
「え~最後に、勇者の皆々様に大変残念なお知らせです」
奇妙な男は楽しそうに笑みを浮かべながら、
「あなたがた勇者の中に魔皇の手先、協力者がいまーす」
その衝撃的な一言を言い放ったのだった。
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