14 / 182
第一章 勇者殺しの勇者
第13話 君の手で
しおりを挟む
「ノウトくん、殺らせないよ」
「っ!?」
そこにはさっき俺が《弑逆》で殺したはずの彼女が立っていた。
な、なんだ。何が起きている。
俺の頭がおかしくなったのか? さっき、殺したはずだよな……?
リアの〈神技〉は触れたものが生きてさえいれば瞬時に回復させる能力。
ミカエルの時や俺たちがレティシアに丸焦げにされた時にも彼女はその力を使っていた。
それが仮に自分に使えるとして既に死んでしまっていたリアが自分にそれを使えるはずがない。
間髪を入れずに掴まれている腕にもう一度《弑逆》を発動し彼女を殺す。
リアは一瞬、力を抜くもすぐに掴んだ腕を起点に俺を組み伏せるように覆いかぶさった。足を上から抑えられ身動きが取れない。
「ノウトく」
もう一度《弑逆》で殺す。
「痛いって」
もう一度。
「もう、落ち着い」
そして、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
彼女を殺した。しかし、彼女はすぐに起きてしまう。
能力が効いていないのか……?
いや、弑逆が効いてない訳じゃない。
こいつ。不死身なんだ。
彼女は自らを〈生〉の勇者と宣っていた。
他人の修復能力も然るながら自分に対するその能力は他人に使う何倍も強力なのか。
『生きる』ことを強いられているんだ。
一気に血の気が引いていくのが分かった。
そんなの、無理だ。
不死の治癒者。
こんな奴がいたら勇者を全員殺すなんて。
不可能だ。
無理。
お終い。
終了。
ゲームオーバー。
俺は彼女を《弑逆》で殺すのをやめる。
自分の身体から力が抜けていくのが感じられた。
リアは俺の上に四つん這いで跨って俺の両腕を両手で掴んだ。
「や、やっとやめてくれた。一瞬だけど死ぬほど痛いからさ、やめてよね」
彼女の目からあふれる大粒の涙が頬を伝って俺の顔へ零れる。
「……何が、……目的だ?」
「目的?」
「俺が勇者の全滅を目標にしていることに気付いていたなら、俺が今日寝静まった所で殺せばいい。何なら今殺してもいいじゃないか? お前は、……何がしたいんだ?」
「そんなの、最初に言ったじゃん」
「最初に……?」
「君とパーティを組みたいって言った時、『面白そうだから』ってさ」
「もう一度言ってやろうか? そんなの理由になってない」
「ちゃんとした理由だよ」
リアは一瞬遠くを見るように目を細めてから、
「───わたし、自分が不死身だってステイタスを見て知った時、軽く絶望しちゃったんだよね。あぁ、わたしは死ねないんだな。永遠を生きなくちゃ、いけないのかなって。今も何回も殺されて、本当に死ななかったし」
彼女は一瞬間を置いて、
「だから、魔皇討伐とかもぶっちゃけどうでもよかったりして。だから、君といれば楽しめるかなって思ったんだ」
あとげなく微笑みながら、言葉を紡ぐ。
「始めの部屋でいきなり一人誰かを殺しちゃう君に。独り言で勇者を内側から勇者を全滅させるなんて言っちゃう君に。わたしはもっと興味が湧いた」
俺の頬に彼女が手を当てる。「そして」と言葉を重ねてから、
「そんなこと言ってる割に、今わたしの目の前で涙を流してる君に、ね」
「………ぁ……なんで、俺………」
頬を涙が伝っていたことに気付く。
「わたしを初めて殺した時から泣いてたよ」
「……っ!」
「推測するに、君は嫌々そう命じられてる。違う?」
「違う。嫌々なんかじゃ。俺は仲間を守らないと。ヴェロアを守らないと」
「仲間ってのは、私達じゃないよね。やっぱり魔皇さんと繋がってるんだね」
「………くそ、俺は、終わりだ、もう」
「違うよ。始まりだよ」
「……ぁ?」
「君はめっちゃくちゃ面白いことしようとしてる。なんか、ずるいよそれ」
「……面白くなんか、ない。お前らを殺せって言われてるんだぞ。面白い訳、……ないだろ」
「やっぱり、ノウトくんはそういう人じゃなかったね」
「そういう人って?」
「お試しで人を殺しちゃうような、心に芯のない人」
「………」
リアが俺の耳に顔を近づけて言う。
「わたしも混ぜて」
「……は?」
俺が蒼白とした顔で困惑していた丁度その時、予想外な方向から声がした。ある意味予想していたこととも言えるが。
「……君達、そこで、何してるの………?」
レンが起きた。やばい。
リアが俺の事をばらしたら……。
「あははー。ちょっとわたし、夢遊病でさ。ごめんね、ノウトくん。迷惑掛けて」
リアはレンに俺の事を一切吹聴することなく、誤魔化した。ここまで来ると畏怖すら感じる。
「大丈夫大丈夫、おやすみ、リア」
それに応じて俺も誤魔化すことにした。リアの手の上で転がされてるとしか思えない。
ヴェロアとリア。人に転がされてばっかだ。
「おやすみ、ノウトくん。ごめんねレンくん、起こしちゃって、おやすみ~」
そそくさとリアは部屋を出ていった。
「……お、おやすみ。………隣の部屋に行くとかもう夢遊病の範疇超えてない?」
レンはそう呟いてもう一度布団を被る。もう眠ったようだ。
レンが聞いてなくて良かった……。ほんとに。
「おやすみ、レン」
そう呟いて俺はようやっと床に就く。
少し頭を冷やして冷静になる。
……なんか、怒濤の一日だったな。
最後のリアのインパクトが強過ぎて寝れなそうだ。何も予測出来ない奴だった。
やることなすことめちゃくちゃで、何処までが計算づくなのか分からない。
正直言ってイカれてるな、リアは。
……ただ、楽しみたいという気持ちだけは本当に良く伝わってきた。
意外にも目を閉じて横になるだけで、俺はすぐに寝付けた。
朝を告げる太陽は、上りつつあった。
「っ!?」
そこにはさっき俺が《弑逆》で殺したはずの彼女が立っていた。
な、なんだ。何が起きている。
俺の頭がおかしくなったのか? さっき、殺したはずだよな……?
リアの〈神技〉は触れたものが生きてさえいれば瞬時に回復させる能力。
ミカエルの時や俺たちがレティシアに丸焦げにされた時にも彼女はその力を使っていた。
それが仮に自分に使えるとして既に死んでしまっていたリアが自分にそれを使えるはずがない。
間髪を入れずに掴まれている腕にもう一度《弑逆》を発動し彼女を殺す。
リアは一瞬、力を抜くもすぐに掴んだ腕を起点に俺を組み伏せるように覆いかぶさった。足を上から抑えられ身動きが取れない。
「ノウトく」
もう一度《弑逆》で殺す。
「痛いって」
もう一度。
「もう、落ち着い」
そして、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
彼女を殺した。しかし、彼女はすぐに起きてしまう。
能力が効いていないのか……?
いや、弑逆が効いてない訳じゃない。
こいつ。不死身なんだ。
彼女は自らを〈生〉の勇者と宣っていた。
他人の修復能力も然るながら自分に対するその能力は他人に使う何倍も強力なのか。
『生きる』ことを強いられているんだ。
一気に血の気が引いていくのが分かった。
そんなの、無理だ。
不死の治癒者。
こんな奴がいたら勇者を全員殺すなんて。
不可能だ。
無理。
お終い。
終了。
ゲームオーバー。
俺は彼女を《弑逆》で殺すのをやめる。
自分の身体から力が抜けていくのが感じられた。
リアは俺の上に四つん這いで跨って俺の両腕を両手で掴んだ。
「や、やっとやめてくれた。一瞬だけど死ぬほど痛いからさ、やめてよね」
彼女の目からあふれる大粒の涙が頬を伝って俺の顔へ零れる。
「……何が、……目的だ?」
「目的?」
「俺が勇者の全滅を目標にしていることに気付いていたなら、俺が今日寝静まった所で殺せばいい。何なら今殺してもいいじゃないか? お前は、……何がしたいんだ?」
「そんなの、最初に言ったじゃん」
「最初に……?」
「君とパーティを組みたいって言った時、『面白そうだから』ってさ」
「もう一度言ってやろうか? そんなの理由になってない」
「ちゃんとした理由だよ」
リアは一瞬遠くを見るように目を細めてから、
「───わたし、自分が不死身だってステイタスを見て知った時、軽く絶望しちゃったんだよね。あぁ、わたしは死ねないんだな。永遠を生きなくちゃ、いけないのかなって。今も何回も殺されて、本当に死ななかったし」
彼女は一瞬間を置いて、
「だから、魔皇討伐とかもぶっちゃけどうでもよかったりして。だから、君といれば楽しめるかなって思ったんだ」
あとげなく微笑みながら、言葉を紡ぐ。
「始めの部屋でいきなり一人誰かを殺しちゃう君に。独り言で勇者を内側から勇者を全滅させるなんて言っちゃう君に。わたしはもっと興味が湧いた」
俺の頬に彼女が手を当てる。「そして」と言葉を重ねてから、
「そんなこと言ってる割に、今わたしの目の前で涙を流してる君に、ね」
「………ぁ……なんで、俺………」
頬を涙が伝っていたことに気付く。
「わたしを初めて殺した時から泣いてたよ」
「……っ!」
「推測するに、君は嫌々そう命じられてる。違う?」
「違う。嫌々なんかじゃ。俺は仲間を守らないと。ヴェロアを守らないと」
「仲間ってのは、私達じゃないよね。やっぱり魔皇さんと繋がってるんだね」
「………くそ、俺は、終わりだ、もう」
「違うよ。始まりだよ」
「……ぁ?」
「君はめっちゃくちゃ面白いことしようとしてる。なんか、ずるいよそれ」
「……面白くなんか、ない。お前らを殺せって言われてるんだぞ。面白い訳、……ないだろ」
「やっぱり、ノウトくんはそういう人じゃなかったね」
「そういう人って?」
「お試しで人を殺しちゃうような、心に芯のない人」
「………」
リアが俺の耳に顔を近づけて言う。
「わたしも混ぜて」
「……は?」
俺が蒼白とした顔で困惑していた丁度その時、予想外な方向から声がした。ある意味予想していたこととも言えるが。
「……君達、そこで、何してるの………?」
レンが起きた。やばい。
リアが俺の事をばらしたら……。
「あははー。ちょっとわたし、夢遊病でさ。ごめんね、ノウトくん。迷惑掛けて」
リアはレンに俺の事を一切吹聴することなく、誤魔化した。ここまで来ると畏怖すら感じる。
「大丈夫大丈夫、おやすみ、リア」
それに応じて俺も誤魔化すことにした。リアの手の上で転がされてるとしか思えない。
ヴェロアとリア。人に転がされてばっかだ。
「おやすみ、ノウトくん。ごめんねレンくん、起こしちゃって、おやすみ~」
そそくさとリアは部屋を出ていった。
「……お、おやすみ。………隣の部屋に行くとかもう夢遊病の範疇超えてない?」
レンはそう呟いてもう一度布団を被る。もう眠ったようだ。
レンが聞いてなくて良かった……。ほんとに。
「おやすみ、レン」
そう呟いて俺はようやっと床に就く。
少し頭を冷やして冷静になる。
……なんか、怒濤の一日だったな。
最後のリアのインパクトが強過ぎて寝れなそうだ。何も予測出来ない奴だった。
やることなすことめちゃくちゃで、何処までが計算づくなのか分からない。
正直言ってイカれてるな、リアは。
……ただ、楽しみたいという気持ちだけは本当に良く伝わってきた。
意外にも目を閉じて横になるだけで、俺はすぐに寝付けた。
朝を告げる太陽は、上りつつあった。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
転生令嬢は庶民の味に飢えている
柚木原みやこ(みやこ)
ファンタジー
ある日、自分が異世界に転生した元日本人だと気付いた公爵令嬢のクリステア・エリスフィード。転生…?公爵令嬢…?魔法のある世界…?ラノベか!?!?混乱しつつも現実を受け入れた私。けれど…これには不満です!どこか物足りないゴッテゴテのフルコース!甘いだけのスイーツ!!
もう飽き飽きですわ!!庶民の味、プリーズ!
ファンタジーな異世界に転生した、前世は元OLの公爵令嬢が、周りを巻き込んで庶民の味を楽しむお話。
まったりのんびり、行き当たりばったり更新の予定です。ゆるりとお付き合いいただければ幸いです。

最弱ユニークギフト所持者の僕が最強のダンジョン探索者になるまでのお話
亘善
ファンタジー
【点滴穿石】という四字熟語ユニークギフト持ちの龍泉麟瞳は、Aランクダンジョンの攻略を失敗した後にパーティを追放されてしまう。地元の岡山に戻った麟瞳は新たに【幸運】のスキルを得て、家族や周りの人達に支えられながら少しずつ成長していく。夢はSランク探索者になること。これは、夢を叶えるために日々努力を続ける龍泉麟瞳のお話である。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

お母さん冒険者、ログインボーナスでスキル【主婦】に目覚めました。週一貰えるチラシで冒険者生活頑張ります!
林優子
ファンタジー
二人の子持ち27歳のカチュア(主婦)は家計を助けるためダンジョンの荷物運びの仕事(パート)をしている。危険が少なく手軽なため、迷宮都市ロアでは若者や主婦には人気の仕事だ。
夢は100万ゴールドの貯金。それだけあれば三人揃って国境警備の任務についているパパに会いに行けるのだ。
そんなカチュアがダンジョン内の女神像から百回ログインボーナスで貰ったのは、オシャレながま口とポイントカード、そして一枚のチラシ?
「モンスターポイント三倍デーって何?」
「4の付く日は薬草デー?」
「お肉の日とお魚の日があるのねー」
神様からスキル【主婦/主夫】を授かった最弱の冒険者ママ、カチュアさんがワンオペ育児と冒険者生活頑張る話。
※他サイトにも投稿してます

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

悪役令嬢は鏡映しの夢を見る
重田いの
ファンタジー
とあるファンタジー小説の悪役令嬢の身体の中に入った日本人の社畜の魂である「私」。
とうの悪役令嬢は断罪イベントの衝撃で死んでしまったあと。
このままいけば修道院に押し込められ、暗殺されてしまう!
助けてくれる男はいないので魔物と手を組んでどうにかします!!
ほぼ一人で奴らをみなごろすタイプの悪役令嬢です。
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる