4 / 182
第一章 勇者殺しの勇者
第3話 噴水端会議
しおりを挟む城から出てすぐの噴水のある広場に勇者と呼ばれる者達、19人が集まっていた。
見回すと既に一組がいなくなっているのが分かった。城から出たあとすぐに城下町に繰り出したのだろう。さすがに早すぎるだろ。勝手にどっか行って協調性の欠片も感じられないし。
フョードルが皆の中心に立っている。
お互いが敵同士になるかもしれない。そして、素性も何も知らない同士だ。
簡単に口を開いたら何が起こるか分かったもんじゃない。
不思議とヴェロアの助言を欲しがっていた自分がいることに気づいた。
「なんか人数減ってるけど、まぁいいか。よし、魔皇をぶっ倒せる自信ある奴、こっち来い」
フョードルが腕を組みながら話を始める。
「魔皇を倒す自信も何も、自分の力も魔皇の力も測れてないのにそんなの自信ある人の方が少ないんじゃない?」
白髪の少年が顎に手を当てて考えている仕草をしながら話す。
容姿だけだとここにいる19人の中ではかなり若い年齢だと思われる。14とか15歳くらいだろう。しかしその話し方にはどこか大人びたものが感じられた。
「はぁ。そんなこたぁ分かってるよ。ただ早い者勝ちのこの戦いでんな悠長なこともしてられねぇだろ。ステイタスを見ろ。それで大体わかんだろ。自分の力くらい」
ステイタスを見ろと言われても、ほとんどが黒く塗り潰されていたそれを見たところで、自分の力なんて分かるはずがなかった。
「因みにオレは自信がある。魔皇を殺せる自信がな」
そう言ってフョードルは紋章を見せびらかすように左手甲を前に突き出す。
「白髪のお前、どうだ?」
「僕はパスするよ。君みたいな偉そうな人嫌いだしー」
「そうか、オレもお前みたいな生意気な奴嫌いだからウィンウィーン」
意外だった。あのジークヴァルトですら彼の仲間になったのに白髪の少年はそれを蹴ったのだ。
これはフョードルの信頼としてもかなり痛手だろう。
辺りを一瞬の静寂が襲う。
「あぁ~……。冷めちまったし、いいや今は。ザコは放っておいて街探索しようぜ、ジーク」
「お、おい! いいのか!?」
「いいよ、オレだけでも魔皇倒せると思うしな~」
そう言って彼はノウト達に背を見せて歩き出す。
そこで彼らを止めるように、
「ま、待ってください!」
「あ?」
「あの、わ、私、仲間に入ります……!」
突然声を上げ、フョードルの足を止めたのはあの暗い部屋でノウトと名前を教えあった少女、セルカ・リーベルだった。
「オーケー。いいぜ。可愛いし気に入った」
「よ、よろしくお願いします」
「待って、アタシも仲間に入れさせて。その子だけじゃどうなるか不安だから」
そう言ってさらにパーティ加入を立候補したのは赤髪の女性だった。眼光が鋭く迂闊に近寄れなそうな雰囲気だ。正直かなり怖い。
「大丈夫だいじょーぶ。魔皇は絶対に倒せるぜ」
「そうじゃないわよ。その子がアンタに襲われないか不安なの」
「はぁ? そんな心配すんなってオレはホモだ」
「なっ!?」
「うっそだよーん」
「はぁっ!? 死ね!!」
そう言って彼女はフョードルの腹に殴りを入れた。分かる。あれは本気のパンチだ。
「ぐっ……」
フョードルはよろけたがすぐに体制を整える。
「ナイスパンチだぜ……」
「チッ。死ななかったか……」
赤髪の少女は自分の拳を見て悔いていた。
「なんでこいつと同じパーティなんかに……」
ジークヴァルトは顔に手を当てて嘆いている。
「赤髪、名前は?」
「レティシア」
「よろしくな」
彼は手を差し出し握手を促したがレティシアはそれを無視した。当然だ。
「……俺も入れさせろ」
そしてついに五人目が現れた。長身で誠実そうな男だった。
身長高すぎかよ、190以上はあるんじゃないか?
「おおいいね。五人決定だ。加入理由は?」
「その女の子が危ないからだ」
「なぁ、オレの信頼やばくないか? それで魔皇を倒せる自信はあるのか?」
「ある」
「決まりだ」
フョードルは片手を彼に出し、それに彼も応じた。
「俺はシメオンだ」
「宜しく、シメオン」
二組目のパーティが決まってしまった。今になって焦りを感じて来た。
だが、あのパーティに立候補しなかった残りの14人の意見はほぼ同意見だろう。
フョードルがうざい。その一点に限る。
セルカの身を案じて動いたシメオンとレティシア、彼等には敬意を表したい。
「んじゃな、残りモノの諸君よ! くっはっはっはっ!!」
「煽るな!」
レティシアがフョードルの頭を殴る。案外いいパーティになっていそうだ。城下町の人混みに紛れ、彼らの姿はもう見えなくなっていた。
「嵐が過ぎ去ったね」
そう会話を切り出したのは暗い部屋から出たあとでノウトに話し掛けてきた爽やかな青年だった。
「あいつある意味凄いよな」
「ほんとっすよね、口調偉そう過ぎて絶対に仲間になりたくないって思いましたもん」とつんつん髪が同意した。
「ぷっ、カンナもだよ……っ」
黄色い髪の少女が急に吹き出して笑う。
やはり、フョードルの態度や行動に苛立ちを感じていた人は多かったようだ。
「うざかった人もいなくなったことだし、ここでみんな自己紹介しない?」
白髪の少年がみんなの顔を見合わせながら話しだす。
「といっても名前くらいになるけど。ほら呼び方分からないと大変だから」
「賛成するよ」
爽やかな青年がそれに賛成の意を唱え、他のみんなもそれに頷く。
「じゃあ僕から。僕はミカエル・ニヒセフィル。なんの能力かは言えない」
「はいはーい、じゃ次カンナね。」
間髪入れることなく手を挙げたのはさっき吹き出して笑っていた黄色の髪の少女だ。
「カンナはカンナ・ライトニー! 〈雷〉の勇者だって〈ステイタス〉に書いてあったよ!」
っておい。状況を理解してないのか。
「……カンナさん、何の勇者かは言わない方がいいっすよ」
カンナに注意したのはつんつん髪だった。
「えっ!? そうなの!?」
カンナは初めてそれを聞いたかのように驚いていた。大丈夫か、この子。
「そうっす。フョードルが言ってた通りここにいる他の人が敵になる可能性もなくはないですし」
「あぁっ! そうだった!」
「気を付けた方がいいっす。俺達なんにも分かっていないんすから。誰も信用しない方がいいっすよ」
「じゃあさ! 信用しようよ!」
いや、意味不明だ。
「えっ!? どういうことっすか!?」
「仲間になろ? さっきの偉そうだったやつみたいにさぁ」
「えぇ!? 確かに最後の四人になるよかいいっすけど……」
「決まりね!」
「えぇ……なんか強引さが最高にデジャブなんすけど」
「え~だめ~?」
「そう言われたら断りずらいっすね。いいっすよ別に。しょうがないすね、組みましょうか」
自己紹介の途中でいきなり、仲間決めがまたしても始まってしまった。
「改めて、俺はスクード・ゼーベックっす。もちろんどんな能力かは言いません」
「言ってよ~!」
「言わないっすよ! カンナさんの言っちゃったのにこれ以上こっちの手の内明かせませんから!」
「ぶー」
カンナとスクード。
カンナは少し、いやかなり幼稚だが明るくパーティの士気を高めてくれそうだ。
スクードも口調の割に頭の回転は良いし気が利きそうでもある。ここで立候補するか……?
「じゃあ、僕そこに入れさせて貰おうかな」
ノウトが逡巡しているとミカエルがそこに立候補した。
「大歓迎っすよ! 正直最後までこの二人で残る気が少ししてたんすけど良かった!」
「あはは。二人とも楽しそうだしね。折角仲間をこうやって作れる機会が出来たんだし、楽しくいきたいからさ」
「楽しくやろうね! よろしく、ミカ!」
「うん!」
「少し不安っす……」
スクードが思わず不安を口に出していたが運良くカンナの耳には届かなかったようだ。
「私もいいでしょうか~?」
そこで女性が控えめに手を挙げた。
「もちろん。お名前をどうぞ!」
「エヴァ・ネクエスです~。どうぞよろしくお願いします、ミカエルさん、カンナさん、スクードさん」
エヴァはセミロングの茶髪で大分ふわふわな感じの雰囲気だった。
見ているだけ口角が上がってしまいそうなほどの見ててほのぼのするオーラを放っている。
「よろしくねー、エヴァ~」
「はい!」
彼女はその全員とゆっくりと握手して回っていた。
ここで残った人達は察してしまった。
このパーティはゆるゆるすぎる、と。
エヴァを最後に立候補は途絶えてしまった。
当然かもしれない。
魔皇討伐には命を掛けているのだ。
お遊び気分じゃもちろん討伐が叶う可能性は低くなるだろう。
「うーん、じゃあ自己紹介続けて貰って気が変わったら是非、うちのパーティに参加してね。いつでもいいから」
そう言って彼は時計回りに自己紹介をするように促した。
「じゃあ、わたしかな?」
声を上げた彼女は銀髪の可憐な少女だった。驚くことにその銀髪は地面に着きそうなほど長かった。
彼女は白い薄汚れたの布切れのようなワンピースを着ていて、顔が整っているだけにその服装には酷く違和感があった。
「わたしはリア。能力は言えないけど最後の四人でいいやって思ってるよ」
「……どうしてだ?」
ノウトは思わず疑問を口に出してしまった。
この状況で残りの四人を自ら立候補するなんて頭がおかしいとしか言えないからだ。
「それは、秘密」
彼女は片目を閉じて悪戯な顔をして見せた。
綺麗な顔立ちをしたリアに見つめられて一瞬どきっとしてしまった。
「あと、きみとパーティを組みたいな」
そう言って彼女は俺を指さして提案する。
突拍子もない提案に思わず、
「……へ?」
と変な声を出す俺なのであった。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された「霧崎ルノ」彼を召還したのはバルトロス帝国の33代目の皇帝だった。現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が帝国領土に出現し、数多くの人々に被害を与えていた。そのために皇帝は魔王軍に対抗するため、帝国に古から伝わる召喚魔法を利用して異世界から「勇者」の素質を持つ人間を呼び出す。しかし、どういう事なのか召喚されたルノはこの帝国では「最弱職」として扱われる職業の人間だと発覚する。
彼の「初級魔術師」の職業とは普通の魔術師が覚えられる砲撃魔法と呼ばれる魔法を覚えられない職業であり、彼の職業は帝国では「最弱職」と呼ばれている職業だった。王国の人間は自分達が召喚したにも関わらずに身勝手にも彼を城外に追い出す。
だが、追い出されたルノには「成長」と呼ばれる能力が存在し、この能力は常人の数十倍の速度でレベルが上昇するスキルであり、彼は瞬く間にレベルを上げて最弱の魔法と言われた「初級魔法」を現実世界の知恵で工夫を重ねて威力を上昇させ、他の職業の魔術師にも真似できない「形態魔法」を生み出す――
※リメイク版です。付与魔術師や支援魔術師とは違う職業です。前半は「最強の職業は付与魔術師かもしれない」と「最弱職と追い出されたけど、スキル無双で生き残ります」に投稿していた話が多いですが、後半からは大きく変わります。
(旧題:最弱職の初級魔術師ですが、初級魔法を極めたら何時の間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。)

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。

最弱ユニークギフト所持者の僕が最強のダンジョン探索者になるまでのお話
亘善
ファンタジー
【点滴穿石】という四字熟語ユニークギフト持ちの龍泉麟瞳は、Aランクダンジョンの攻略を失敗した後にパーティを追放されてしまう。地元の岡山に戻った麟瞳は新たに【幸運】のスキルを得て、家族や周りの人達に支えられながら少しずつ成長していく。夢はSランク探索者になること。これは、夢を叶えるために日々努力を続ける龍泉麟瞳のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる