あのエピローグのつづきから 〜勇者殺しの勇者は如何に勇者を殺すのか〜

shirose

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第一章 勇者殺しの勇者

第2話 支配者の王命

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 太陽が死ぬほど眩しく感じる。まるで何百年ぶりに太陽を見たかのようだ。

「眩しいね」

「うん」

 隣にいた青年が話し掛けてきた。正直かなりイケメンだ。爽やかな笑顔が眩しい。
 見るからにいい人そうな笑顔をしていた。

「生まれて初めて太陽を見たような感覚だ」

「言えてる」

「これからどうなるんだろうね」

「さぁ……。それが分かったらどんなに楽か」

「ははっ。そりゃそうだ」

 青年の爽やかさに一瞬ながらも元気づけられた。
 見た所、城裏から入れる地下室から出てきたようだ。前方には城下町が見えた。
 ここにいる全員の数を数えてみると、自分とヴェロアを合わせて25人があの暗い部屋から出てきたことが分かった。勿論、途中でノウトが倒してしまったであろう人を除いてだが。
 もう色々となんのためにだとか、どうしてだとかは考えても無駄だと結論づける。

 そんなことを考えているうちに、がしゃん、がしゃんと音を立てながら、甲冑を着た兵士らしき人が現れた。その数ゆうに10人。まるでノウト達がここから出て来るのがわかっていたようだ。これまた奇妙な格好だなと思ってしまった。

「お待ちしておりました。勇者の皆様。それではご案内致しますのでこちらからどうぞ」

 そう言って甲冑の彼等は城の外周に沿って進み、皆はそれに次々と続いていった。ノウトは最後尾を歩いていくことにした。

 ノウトの仲間だという真っ白な少女、ヴェロアの様子をちらりと見る。
 空中を浮遊しながらも壁を貫通したりしている。
 幽霊、みたいな感じだろうか。誰もその姿を見ようともしないということはやはり、自分だけにしか見えないようだ。
 一瞬彼女と目が合ったが、すぐに目線を逸らす。

『ノウト、こうしてお前に助言出来る時間も実は限られている。メフィやアガレスに魔力を供給されながらこうして顕現出来ているからな。どこかで一人になる機会を作ってくれ。そこでゆっくり───』

 話している途中で突然ヴェロアの姿が見えなくなった。
 新出の単語ばかりで頭が痛くなってくる。
 ひとまず従うしかないな。ヴェロアの口調はキツいものがあるが何故かその声音には安心出来る何かが感じられた。


      ◇◇◇


「良くぞ参られた勇者諸君。そなたらを召喚したのは他でもない。悪しき魔人帝国の皇帝をその聖なる加護によって滅して欲しいのだ」

 城の外周を回って正面入り口から城内に入り、この国の王と思われる人物の御前に訪れた。

「なぁ、王様よ。そもそもの話なんだがどうしてオレらなんだ?」

 くるくるした髪の天パ男が王に向かってとんでもない口調で質問する。首飛ばされないだろうか。

「おお、勇者よ。混乱するのも仕方があるまい。そなたたちは天に選ばれた存在。天啓を受けた女神の加護をその御身に受けた勇者なのだ。〈エムブレム〉無しに魔瘴の漂う魔人領に入ることすら叶わん。悪しき魔人を滅するにはそなたたちの力を借りなければならないのだ」

「へぇ~そうかい」

 天パはなにやら納得がいっていないようだ。どうでもよさげな反応だ。

「まぁそう、不安がるでない。明日までにゆっくりと準備をして休息を取るといい。民には話を通してあるがゆえ、勇者の証を見せればどこの施設も無料で使用できるであろう」

 なにそれ凄いな。勇者ってのは国から大変支持されているらしい。

 ざわめく俺ら24人の中で唯一きちんとした作法で王の話を聴いている奴がいた。

「〈光〉の勇者、ジークヴァルト・アルフォンス=ブライト=シュナイト、魔皇討伐の勅令、しかと承りました。必ずや魔皇の首を持って帰参仕ります」

 皆の視線が彼に一直線に収束する。
 うわぁ。なんだこいつ。ガチモンじゃないか。

「おいお前」

「なんだ」

 天パがジークヴァルトにつっかかる。天パはいちいちつっかかるの好きなのだろうか。

「お前は本当に記憶がねえのか?」

前の記憶ならない。皆もそうなのだろう。ただ、先の王の話を聞いただろう? 俺達は神に選ばれた勇者だ。君もそうだ。一緒に魔皇を倒しに行こうじゃないか」

「はっ、誰がするか。こんな状況でお前は頭がおかしいのか?」

「……誰の頭がおかしいと?」

「お前だよお前。いいか、それが本当だとしてどうして行かなきゃいけねえ。おい王様、魔皇を倒したら何か褒美があるんだろうな。名誉とか栄光とか抜かしたらはっ倒すぞ」

 天パは指を王に向けながら肩をそびやかしてめちゃくちゃ無礼なことを言っている。
 言動一つ一つが危ないやつだ。それにしても周りにいる衛兵はどうしてこいつを咎めないんだろうか。

「そうだな、言い忘れていた。魔皇の首を持って帰ってきた者にはこの国の永住権、一生を遊んで暮らしても失くならない程の財産、それと失った記憶。この三つ全てを褒美として贈ろう。勿論一人だけではない。五人一組の徒党パーティを組み、魔皇を討伐しその首を持って来た、一組だけにその褒美を授けよう」

 俺達は皆、唖然としていた。
 安住の地と消えた記憶を今一度戻せることが魔皇を殺す恩恵。
 確かにこれならば動機に成り得るかもしれない。
 そして五人一組のパーティ。
 しかし、この場にいるのは24人だ。一つの組が4人になることが確定している。
 おそらく一人、あの暗い部屋でノウトが倒してしまい、置いてきてしまった人の分、一人枠が空いてるんだ。

「明日の朝、8時の刻にて王都アカロウト正面門に集まれ。それまで魔皇討伐の準備をしてくるのだ」と王様がそう言い放つ。

「くくくく………いいぜ、面白い」

 天パはかなり乗り気になったようだ。顔を伏せて口に手を当てて変な笑い声で笑っている。

「その勝負乗った。オレが魔皇とやらを殺してやるよ」

「き、貴様さっきから王に向かってなんて口を利いてるんだ!」

「よし、お前仲間になれ」

「はぁ!?」

「オレはフョードルだ。なんの勇者かは言わねー」

「俺は言ったぞ、フョードル。なんのつもりだ」

「馬鹿かお前は魔皇がどんな所で聞き耳を立ててるか分かんねぇだろ。それに他の勇者も敵に成りかねねぇ。こっちの素性はなるべく明かさない方がいいに決まってる」

「そんなことは分かりきっている。俺は魔皇を討てる確固たる自信があったから言ったんだ」

「ふん、そうか。まぁいーや。他にオレのチームに立候補したいやつは居るか? 残り先着三名様までだぜ」

「いやいつ俺がお前と組むと言ったんだ!?」

「決定事項だ、ジーク。宜しくな~」

「ぐっ……」

 急展開だ。
 いきなり天パ、もといフョードルがパーティを組み始めた。俺含めて残り22人。

「取り敢えず城出るぞー」

 フョードルがそう促し、その背中を追って次々と着いていく。
 ここまでのペースは完全に彼のものだった。
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