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第六章 暴かれる

第11話 目くらまし

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 翌日の夕刻、西に傾く太陽が庭の木立の影を濃く長く落としていた。
 噴水の飛沫も日の色に染まり、飛沫が心地よい音を響かせる。
 そして、石畳みで 舗装ほそうをされていない小道を歩く音がして、近くなる。

「やっぱりここにいたのか」

 と、足を止めたアルベルトが苦笑した。
 サリオンは大理石の椅子に腰をかけ、暮れなずむ景色を眺めていた。

「やっぱり?」
「庭師が言っていた。お前はよくここに座っていて、女神の彫像を見上げていると」
「好きなんだ」
「そうか」
「この女神だけが両手に何も持っていない。伏し目に目を伏せて、飛び込んで来いと言わんばかりに両腕を開いている」
「そうか」

 アルベルトも隣に並んで腰かけた。
 
「頭から掛けたベールの ひだも綺麗だな」
「うん」
「そんなに寂しいか?」
「えっ?」
「彫刻の女神に縋りつくほど寂しいか?」

  漫然まんぜんと ほうけていたサリオンが目を上げる。

「俺では駄目なんだな」
「アルベルト」
「俺ではお前を癒しきれないんだな」
「そんなことは言っていない」
「だけど、そんな風に見えてしまう」
「アルベルト」

 悲壮な声音で告げられて、サリオンは困惑した。
 アルベルトに身体の正面を向け、握られた拳に手のひらを重ねて温める。

「そんな風に俺の何もかもを背負おうとしなくてもいいんだ」
「だけど、俺はそうしたい」
「あんたは彫刻にまで嫉妬するんだな」

 頬を緩めたサリオンはふっと息を吐く。

 もしキリスト教者だと知られたら、アルベルトは皇帝の妃であっても邪教の教徒として街灯にするか、円形競技場で猛獣の 餌食えじきにさせるかの判断を迫られる。
 
「そろそろ夕飯だろ? 部屋に戻ろう」

 日が落ちると、使用人が庭の薪に火を点ける。
 七割がた整備の済んだ庭に、点々と灯された まきが火の粉を上げてパチパチと音を立てている。
 そして、姿がなければ女神の彫像の前にいることを、あえてサリオンは隠さない。
 木を隠すなら森の中と言わんばかりにそうすることで、ただ単に気に入りに過ぎないと思わせる。
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