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第六章 暴かれる
第9話 ディスク
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観戦を堪能したといった顔つきで席を立つアルベルトのトガを思わず引き止める。
「あのキリシタンは牢獄に監禁して、もう二度とここへは来なくてもいいようにしてくれ。アルベルト」
「何だと?」
「彼は戦いには勝利したんだ。その見返りとしての特赦を与えて欲しいんだ」
「何を言う。今ここで勝利したからといって、いつかは食い殺される運命だ。あの者だけ死刑にしない理由がない」
「理由ならあるだろう。今日でなら」
「サリオン。お前……」
アルベルトは言葉を失い、固く寄った眉間の皺に人差し指を当てていた。
興奮に湧いた観戦席から徐々に声も鎮まり、不穏なざわめきへと変化している。
彼らは観戦した皇帝の弁を待っているのだ。
「……わかった。ただし今回だけだぞ?」
聞えよがしに盛大な溜息をついたアルベルトは、椅子から立ち上がるなり両手を開いて前に出る。
「我が民よ! 今日はみなに我が寵妃を披露した記念すべき第一日だ。慈しみ深い妃の要望として、その者には特赦を与える!」
アルベルトが声を張るなり、さざ波のように怒声が広がり、やがて炎が立ち上るかのような罵声になった。
「あの者の名前は?」
アルベルトは近くにいる側近に囁いた。
「ディスクです」
「ディスクは今後一切競技場には入らない。その代わり、生涯死ぬまで禁固の刑であることに変わりはない」
倒したライオンの側らで宣告されたキリシタンが目を見張り、返り血で染まった顔を肘で拭く。
彼自身、何が起きているのか判別できないといった表情だ。
「ディスクを連れ出して禁固しろ」
側近に命じたアルベルトは、民衆がハチの巣をつついたような騒ぎになった競技場を後にする。
赤と金の刺繍がほどこされた絹のトガの裾も大きくひるがえる。
「アルベルト」
珍しくサリオンを置き去りにした彼にサリオンは早足で追いついた。
「アルベルト」
「俺はお前を民人に披露する場を間違えた」
いかにも苦々し気に、石造りの薄暗いトンネルにサンダルの音を響かせる。
「ありがとう。アルベルト」
「貴族への披露目は王宮の大広間でする。これ以上俺を困らせるな」
「アルベルト……」
サリオンの語気が和らぎ、ホッと小さく息を吐く。
アルベルトは小柄なサリオンを伏し目にじろりと見据えたが、降参したと言わんばかりに柔和になる。
生涯禁固の刑に処されることが、あのディスクという男の救いになるのかどうかは不明だが、すべては命あっての物種だ。
「あのキリシタンは牢獄に監禁して、もう二度とここへは来なくてもいいようにしてくれ。アルベルト」
「何だと?」
「彼は戦いには勝利したんだ。その見返りとしての特赦を与えて欲しいんだ」
「何を言う。今ここで勝利したからといって、いつかは食い殺される運命だ。あの者だけ死刑にしない理由がない」
「理由ならあるだろう。今日でなら」
「サリオン。お前……」
アルベルトは言葉を失い、固く寄った眉間の皺に人差し指を当てていた。
興奮に湧いた観戦席から徐々に声も鎮まり、不穏なざわめきへと変化している。
彼らは観戦した皇帝の弁を待っているのだ。
「……わかった。ただし今回だけだぞ?」
聞えよがしに盛大な溜息をついたアルベルトは、椅子から立ち上がるなり両手を開いて前に出る。
「我が民よ! 今日はみなに我が寵妃を披露した記念すべき第一日だ。慈しみ深い妃の要望として、その者には特赦を与える!」
アルベルトが声を張るなり、さざ波のように怒声が広がり、やがて炎が立ち上るかのような罵声になった。
「あの者の名前は?」
アルベルトは近くにいる側近に囁いた。
「ディスクです」
「ディスクは今後一切競技場には入らない。その代わり、生涯死ぬまで禁固の刑であることに変わりはない」
倒したライオンの側らで宣告されたキリシタンが目を見張り、返り血で染まった顔を肘で拭く。
彼自身、何が起きているのか判別できないといった表情だ。
「ディスクを連れ出して禁固しろ」
側近に命じたアルベルトは、民衆がハチの巣をつついたような騒ぎになった競技場を後にする。
赤と金の刺繍がほどこされた絹のトガの裾も大きくひるがえる。
「アルベルト」
珍しくサリオンを置き去りにした彼にサリオンは早足で追いついた。
「アルベルト」
「俺はお前を民人に披露する場を間違えた」
いかにも苦々し気に、石造りの薄暗いトンネルにサンダルの音を響かせる。
「ありがとう。アルベルト」
「貴族への披露目は王宮の大広間でする。これ以上俺を困らせるな」
「アルベルト……」
サリオンの語気が和らぎ、ホッと小さく息を吐く。
アルベルトは小柄なサリオンを伏し目にじろりと見据えたが、降参したと言わんばかりに柔和になる。
生涯禁固の刑に処されることが、あのディスクという男の救いになるのかどうかは不明だが、すべては命あっての物種だ。
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