290 / 297
第六章 暴かれる
第5話 身代わり
しおりを挟む
イエスはたとえ教えに背いても、自身の成したいことを成さない罪でもって人を罰する。
サリオンはミハエルの言葉を繰り返し思い返した。
既に日は落ち、庭園にも夜のしじまが下りていた。
帰ろうと、胸の中で一人ごちるとハッとなる。
ここに連れられてきてから半月にもならないのに、あの部屋が帰る家になっている。
アルベルトとともに食事をする。
遠征先での風変りな慣習や食べ物や飲み物でもって楽しませてくれている。
自分が笑えば、アルベルトも満たされたような笑顔になる。
この関係を信者としての背徳だと思わなくてもいい。
ミハエルの言葉はサリオンの信念を根底から覆すものだった。
それでもどうしても思いは自責の念に傾いた。
「そうだ、サリオン」
夕食を済ませ、クルミなどの木の実や干した杏、葡萄を摘まみにして、食後のワインをたしなんでいたアルベルトが、顔を歪めて切り出した。
「実は明日。正午にキリスト教信者の処刑が大円形劇場で断行される」
「えっ……?」
ワインは呑まず、干した果物だけを食べていたサリオンは声色を変えて目を上げた。
「剣一本だけで飢えたライオンと戦わせる。民人はそれを見物に来る。皇妃として俺と一緒にお前もそれを見届けなければならないが」
慎重に言葉を紡いだアルベルトをサリオンは一括した。
「嫌だ」
「サリオン」
「俺は人が食いちぎられる処刑を娯楽になんてできない」
サリオンは取りつく島もないほどきっはりと言い放つ。
「体調が優れないとか適当に何とか言って欠席扱いにしてくれよ」
「サリオン。これは皇妃としての義務なんだ。いつかは同席することになる」
「それじゃあ、今すぐ俺を王宮から追い出してくれ」
「サリオン。お前がそういう人間だということは重々承知しているつもりだ。だが、玉座に上った人間には権威を象徴する義務がある」
「信者を虐殺することが、皇帝としての皇妃としての権威の象徴でもあるなら余計に嫌だ」
プイと横を向きながら、サリオンは華奢な足を組み、腕組みもした。
「どうしても嫌か?」
「どうしても嫌だ」
「それなら後宮でいちばん高い位についているレナを同席させることになる」
苦渋の決断を迫られたようにアルベルトの顔がくしゃりと歪む。
アルベルトは息を大きく吸ったあと、吐き出しながら肩を落とした。
「レナの役目は皇妃の責務の身代わりでもある」
それでも嫌かと、アルベルトの目がサリオンに訴える。
サリオンはミハエルの言葉を繰り返し思い返した。
既に日は落ち、庭園にも夜のしじまが下りていた。
帰ろうと、胸の中で一人ごちるとハッとなる。
ここに連れられてきてから半月にもならないのに、あの部屋が帰る家になっている。
アルベルトとともに食事をする。
遠征先での風変りな慣習や食べ物や飲み物でもって楽しませてくれている。
自分が笑えば、アルベルトも満たされたような笑顔になる。
この関係を信者としての背徳だと思わなくてもいい。
ミハエルの言葉はサリオンの信念を根底から覆すものだった。
それでもどうしても思いは自責の念に傾いた。
「そうだ、サリオン」
夕食を済ませ、クルミなどの木の実や干した杏、葡萄を摘まみにして、食後のワインをたしなんでいたアルベルトが、顔を歪めて切り出した。
「実は明日。正午にキリスト教信者の処刑が大円形劇場で断行される」
「えっ……?」
ワインは呑まず、干した果物だけを食べていたサリオンは声色を変えて目を上げた。
「剣一本だけで飢えたライオンと戦わせる。民人はそれを見物に来る。皇妃として俺と一緒にお前もそれを見届けなければならないが」
慎重に言葉を紡いだアルベルトをサリオンは一括した。
「嫌だ」
「サリオン」
「俺は人が食いちぎられる処刑を娯楽になんてできない」
サリオンは取りつく島もないほどきっはりと言い放つ。
「体調が優れないとか適当に何とか言って欠席扱いにしてくれよ」
「サリオン。これは皇妃としての義務なんだ。いつかは同席することになる」
「それじゃあ、今すぐ俺を王宮から追い出してくれ」
「サリオン。お前がそういう人間だということは重々承知しているつもりだ。だが、玉座に上った人間には権威を象徴する義務がある」
「信者を虐殺することが、皇帝としての皇妃としての権威の象徴でもあるなら余計に嫌だ」
プイと横を向きながら、サリオンは華奢な足を組み、腕組みもした。
「どうしても嫌か?」
「どうしても嫌だ」
「それなら後宮でいちばん高い位についているレナを同席させることになる」
苦渋の決断を迫られたようにアルベルトの顔がくしゃりと歪む。
アルベルトは息を大きく吸ったあと、吐き出しながら肩を落とした。
「レナの役目は皇妃の責務の身代わりでもある」
それでも嫌かと、アルベルトの目がサリオンに訴える。
19
お気に入りに追加
330
あなたにおすすめの小説
俺の番が変態で狂愛過ぎる
moca
BL
御曹司鬼畜ドSなα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!!
ほぼエロです!!気をつけてください!!
※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!!
※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️
初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
【オメガの疑似体験ができる媚薬】を飲んだら、好きだったアルファに抱き潰された
亜沙美多郎
BL
ベータの友人が「オメガの疑似体験が出来る媚薬」をくれた。彼女に使えと言って渡されたが、郁人が想いを寄せているのはアルファの同僚・隼瀬だった。
隼瀬はオメガが大好き。モテモテの彼は絶えずオメガの恋人がいた。
『ベータはベータと』そんな暗黙のルールがある世間で、誰にも言えるはずもなく気持ちをひた隠しにしてきた。
ならばせめて隼瀬に抱かれるのを想像しながら、恋人気分を味わいたい。
社宅で一人になれる夜を狙い、郁人は自分で媚薬を飲む。
本物のオメガになれた気がするほど、気持ちいい。媚薬の効果もあり自慰行為に夢中になっていると、あろう事か隼瀬が部屋に入ってきた。
郁人の霰も無い姿を見た隼瀬は、擬似オメガのフェロモンに当てられ、郁人を抱く……。
前編、中編、後編に分けて投稿します。
全編Rー18です。
アルファポリスBLランキング4位。
ムーンライトノベルズ BL日間、総合、短編1位。
BL週間総合3位、短編1位。月間短編4位。
pixiv ブクマ数2600突破しました。
各サイトでの応援、ありがとうございます。
平凡リーマンが下心満載のスケベ社長と食事に行ったら、セクハラ三昧された挙句犯されてしまう話
すれすれ
BL
【全6話】
受けのことを密かに気に入ってたド変態エロおじ社長×純情童貞平凡ノンケ(だが身体はドスケベ)リーマンの話です。
社長が変態エロ爺で、受けにセクハラ質問責めしたりオナニー強要したりします。
そして快感に激弱な受けが流されに流され、セックスまでしちゃってめでたくちんぽ堕ちします。
【含まれるもの】
オナニー強要&鑑賞、乳首責め、飲精&飲尿(どちらもグラスに注いで飲む)、アナル舐め、寸止め、前立腺責め、結腸責め、おもらし、快楽堕ち、中出しetc
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる