皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

第五章 皇帝の寵姫として

第60話 自覚が足りない

　それがアルベルトをどれほど深く失望させているのかは承知の上だ。
　この王宮では求められたら応じるだけだ。
　それがどれほどアルベルトを空しくさせるかも、全部わかっている。

　わかっているのに、それをしない。

　サリオンは闇に沈んだ庭に目をやる。

　昼過ぎからは人員も増やされて、下地造りは完了した。
　明日からは噴水を作り、花壇を造る。
　造形物が完成したら花を植え、木を植える。

　明日の朝、目が覚めれば優雅な朝食をゆったり済ませ、自分がしたいことだけをすればいい。

　対価としての夜伽の義務も果たさずに、寵愛だけを受け取り続ける自分に 反吐へどが出る。

　アルベルトが退室すると、部屋の中には一人きり。
　廊下では頑強がんきょうな護衛兵がドアの左右に立っている。
　そんな中、遠ざかるサンダルの靴音が胸に刺さるようだった。

　湯あみをしよう。
　サリオンは痛む自分の胸をなだめるように心の中で呟いた。
　今日は一日庭造りの指示を飛ばして埃まみれだ。

　居室から出て湯あみ場に続くドアを開け、汗にまみれた貫頭衣を脱いだ時、サリオンはこの小汚い恰好のままでアルベルトと食事をとったことに気がついた。
　とてもじゃないが、公務で疲れた伴侶をもてなす身なりではない。
　レナならきっと、宝石がちりばめられた薄絹の貫頭衣に腰帯を締め、化粧をほどこし、香油をつけて待ち望んだに違いない。

　こういう所も、自分は何のためにここに来たのか失念している証でもある。

　まるで自覚が足りていない。