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第五章 皇帝の寵姫として

第47話 密約

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 ミハエルとの食事を済ませたサリオンは、おぼつかない足取りで窓辺の肘掛け椅子まで辿りつく。
 身を投げるようにして腰かける。
 普段は飲まないワインを浴びるように飲んだせいだろう。
 こめかみが脈打つように鼓動が逸り、身体中が暑かった。

 窓を開けたかったが、足に力が入らない。

 目の前は灯りひとつない漆黒の闇が広大に続いている。
 
 アルベルトは庭造りを好きにすればいいと言った深い闇。
 ここにどんな花を植えるのかさえ浮かばない。
 サリオンは自分で自分が嫌になる。

 レナがアルベルトの説得に応じて後宮に連れて来られたことは心から安堵した。
 その気持ちに嘘はない。
 けれども、なぜ自分を同行しなかったのかで怒っている。

 二人きりで何を話したのか。
 
 レナの意思を覆すほどの密約があったに違いない。

 恋人だと言いながら秘密を持つのは不実じゃないのかと、サリオンは憤る。
 
「サリオン」

 ノッカーを鳴らせることなく部屋にアルベルトが入ってきた。
 だからといって何になる。
 花束を贈るように嘘を並べる気でいるのだろう。

「サリオン」

 背中の間近で声がする。

「窓を開けてくれ」

 サリオンは高飛車に言い放つ。
 肘掛け椅子に腰かけたまま、皇帝にそれを命じた自分がいた。

 アルベルトは言われた通り、庭に面した窓を僅かに開けた。

「寒くないのか?」
「俺はレナと違って薄絹うすきぬじゃないからな」

 色気の欠片もないような綿の貫頭衣をレナに揶揄された。
 その鬱憤うっぷんを恋人のはずのアルベルトにぶつけると、椅子の背もたれにもたれかかり、足を組む。

「明日から俺もレナと同じ貫頭衣を着る。化粧もする」
「お前は売り物でも囲われ者でもない」
「だから何だって言うんだ」
「着飾る必要は何もない。お前が居心地良い服を着て、素顔のままでいてくれることが俺の望みだ」

 
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