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第五章 皇帝の寵姫として
第41話 脳裏に浮かぶ同じ人物
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「何をそんなに気を揉んでいる?」
「別に何も」
「お前は王宮に来てからずっと、眉間に皺をよせている。お前は俺と暮らす間中、そんな顔で過ごすのか?」
「そんなこと言ってない」
サリオンは半円形に突き出した窓辺の肘掛け椅子に腰かける。
「この平地をどんな庭にするのか、考えて……」
構想を練っていると言いながら、テーブルには本ひとつ置かれていない。
「サリオン……」
戸惑いを露わにしながらつぶやかれ、サリオンは俯いた。
おそらく二人の脳裏には同じ人物が浮かんでいる。
ミハエルがいてもレナが側にいなければ、左胸が空洞になったように感じてしまう。
それならレナを後宮に入れるよう、アルベルトに再度懇願すればいいのかと、堂々巡りで考える。
いや、違う。
レナが公娼で残り少ない避妊薬に怯えつつ、劣情をたぎらせた男たちの欲望の餌食にされているのが後ろめたい。
自分ひとりが皇妃として、極上の生活を提供されるのが、罪深い気がして楽しめない。
のうのうと楽しんでいてはいけない事態が迫っている。
「昼食は……」
「俺はやっぱり食欲がない」
食欲がないなどという贅沢までをも許される。
公娼の廻しとして一日中館内を駆け回っていた頃は、硬いパンと野菜が浮いているだけのスープが食事だった。
それでも空腹のあまり、がっついた。
昼三のレナの食事は豪勢だったが、レナはそんな食事を哀れな廻しに分け与えたりしなかった。
上下関係を明白にするため、禁止されていたとはいえ、レナからの温情は受けられなかった。
「そうか……」
落胆を露わにしたアルベルトが嘆息した。
「パンと飲み物と果物ぐらい用意させようか?」
「……うん」
「わかった。だったら俺は公務に戻る」
呼びつけた下男に指示すると、 踵を返して部屋を出た。
アルベルトのように何ひとつ邪気なくはしゃぐことができない自分に、きっと苛立っているはずだ。
それでもがっかりするだけで、決して声を荒げない恋人の懐深さが身にしみる。
「別に何も」
「お前は王宮に来てからずっと、眉間に皺をよせている。お前は俺と暮らす間中、そんな顔で過ごすのか?」
「そんなこと言ってない」
サリオンは半円形に突き出した窓辺の肘掛け椅子に腰かける。
「この平地をどんな庭にするのか、考えて……」
構想を練っていると言いながら、テーブルには本ひとつ置かれていない。
「サリオン……」
戸惑いを露わにしながらつぶやかれ、サリオンは俯いた。
おそらく二人の脳裏には同じ人物が浮かんでいる。
ミハエルがいてもレナが側にいなければ、左胸が空洞になったように感じてしまう。
それならレナを後宮に入れるよう、アルベルトに再度懇願すればいいのかと、堂々巡りで考える。
いや、違う。
レナが公娼で残り少ない避妊薬に怯えつつ、劣情をたぎらせた男たちの欲望の餌食にされているのが後ろめたい。
自分ひとりが皇妃として、極上の生活を提供されるのが、罪深い気がして楽しめない。
のうのうと楽しんでいてはいけない事態が迫っている。
「昼食は……」
「俺はやっぱり食欲がない」
食欲がないなどという贅沢までをも許される。
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それでも空腹のあまり、がっついた。
昼三のレナの食事は豪勢だったが、レナはそんな食事を哀れな廻しに分け与えたりしなかった。
上下関係を明白にするため、禁止されていたとはいえ、レナからの温情は受けられなかった。
「そうか……」
落胆を露わにしたアルベルトが嘆息した。
「パンと飲み物と果物ぐらい用意させようか?」
「……うん」
「わかった。だったら俺は公務に戻る」
呼びつけた下男に指示すると、 踵を返して部屋を出た。
アルベルトのように何ひとつ邪気なくはしゃぐことができない自分に、きっと苛立っているはずだ。
それでもがっかりするだけで、決して声を荒げない恋人の懐深さが身にしみる。
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