皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ

文字の大きさ
上 下
256 / 297
第五章 皇帝の寵姫として

第41話 脳裏に浮かぶ同じ人物

しおりを挟む
「何をそんなに気を揉んでいる?」
「別に何も」
「お前は王宮に来てからずっと、眉間に皺をよせている。お前は俺と暮らす間中、そんな顔で過ごすのか?」
「そんなこと言ってない」

 サリオンは半円形に突き出した窓辺の肘掛け椅子に腰かける。

「この平地をどんな庭にするのか、考えて……」

 構想を練っていると言いながら、テーブルには本ひとつ置かれていない。

「サリオン……」

 戸惑いを露わにしながらつぶやかれ、サリオンは俯いた。
 おそらく二人の脳裏には同じ人物が浮かんでいる。

 
 ミハエルがいてもレナが側にいなければ、左胸が空洞になったように感じてしまう。
 それならレナを後宮に入れるよう、アルベルトに再度懇願すればいいのかと、堂々巡りで考える。

 いや、違う。

 レナが公娼で残り少ない避妊薬に怯えつつ、劣情をたぎらせた男たちの欲望の餌食にされているのが後ろめたい。
 自分ひとりが皇妃として、極上の生活を提供されるのが、罪深い気がして楽しめない。

 のうのうと楽しんでいてはいけない事態が迫っている。

「昼食は……」
「俺はやっぱり食欲がない」

 食欲がないなどという贅沢までをも許される。 
 公娼の廻しとして一日中館内を駆け回っていた頃は、硬いパンと野菜が浮いているだけのスープが食事だった。
 それでも空腹のあまり、がっついた。
 
 昼三のレナの食事は豪勢だったが、レナはそんな食事を哀れな廻しに分け与えたりしなかった。
 上下関係を明白にするため、禁止されていたとはいえ、レナからの温情は受けられなかった。

「そうか……」

 落胆を露わにしたアルベルトが嘆息した。

「パンと飲み物と果物ぐらい用意させようか?」
「……うん」
「わかった。だったら俺は公務に戻る」

 呼びつけた下男に指示すると、 きびすを返して部屋を出た。
 アルベルトのように何ひとつ邪気なくはしゃぐことができない自分に、きっと苛立っているはずだ。
 それでもがっかりするだけで、決して声を荒げない恋人の懐深さが身にしみる。
 
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

国王の嫁って意外と面倒ですね。

榎本 ぬこ
BL
 一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。  愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。  他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。

知らないだけで。

どんころ
BL
名家育ちのαとΩが政略結婚した話。 最初は切ない展開が続きますが、ハッピーエンドです。 10話程で完結の短編です。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

愛しいアルファが擬態をやめたら。

フジミサヤ
BL
「樹を傷物にしたの俺だし。責任とらせて」 「その言い方ヤメロ」  黒川樹の幼馴染みである九條蓮は、『運命の番』に憧れるハイスペック完璧人間のアルファである。蓮の元恋人が原因の事故で、樹は蓮に項を噛まれてしまう。樹は「番になっていないので責任をとる必要はない」と告げるが蓮は納得しない。しかし、樹は蓮に伝えていない秘密を抱えていた。 ◇同級生の幼馴染みがお互いの本性曝すまでの話です。小学生→中学生→高校生→大学生までサクサク進みます。ハッピーエンド。 ◇オメガバースの設定を一応借りてますが、あまりそれっぽい描写はありません。ムーンライトノベルズにも投稿しています。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

獣人王と番の寵妃

沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――

お世話したいαしか勝たん!

沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。 悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…? 優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?! ※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

処理中です...