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第五章 皇帝の寵姫として

第34話 怯えるな

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「お前が出て行ってから避妊薬の調達に気がついたとしても、それはレナの責任だ。後になって気がついたとしても、お前がもう王宮入りしている事実は曲げられない。サリオンがどれほど自分を思っていてくれたかを、レナは痛感するべきだ」
「ここでそんなことを言っている間に避妊薬が尽きてしまったら」
「その心配をするのはお前じゃなくて、レナだろう」

 ミハエルはレナに対して良い感情を持っていないらしい。
 だとしたら、避妊薬の調達に手を貸してくれなどとは言い出せない。

「レナが誰かの子供を身ごもって、身請けをされて公娼を出るのもレナの人生。お前は皇帝の子供を身ごもって、親子で人生の楽園を享受する。お前はまずお前の人生を生きることを考えろ」
「できない」

 サリオンは即答した。
 自分だけが幸せになるなんて。望まないレナに無理やり出産させるなど。
 自分にはできない。痛ましすぎて。そんなこと。

「避妊薬の入手が困難だっていうのなら、レナを後宮にぶち込むしかないだろう。後宮に入れば避妊薬など飲まずにすむ」
「だけど、それはレナに拒絶されてしまっている」
「単に感情的になっていて、反発しただけかもしれないぞ?」
「レナはサリオンがいなければ、自分がどんなに無力か思い知ることになる。そうなったらなったで、案外すんなり後宮入りを受け入れるかもしれない」
「そんなこと」
「お互い、頭が冷えたところだろう。レナに手紙でも出してやれ」

 ミハエルは部屋のドアを開け、追い出した下男を呼び寄せる。
 そして紙とペンを用意させた。

「何度も言うが、ある意味お前もレナに囚われている。レナを満足させてやるにはどうしたらいいのかが、お前の言動の指針になっている。俺はそんなお前を見ていると、これまでのお前の人生は何だったんだろうて思わずにいられない」
「ミハエル」
「幸せになることに臆病になるなよな。レナのことばかり考えて暗い顔をしていたら、アルベルトまで不安にさせることになる」

 
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