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第五章 皇帝の寵姫として
第31話 命令できない
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「ありがとうございます。もう下げてくださって結構です」
まだ朝食の途中だったのだが、 瀟洒な部屋で給仕や下男に囲まれながら食事をするのは憚られる気がして断った。
アルベルトが去ったあと、自分たち二人のために並べられた数々の料理を盛った深鉢や平皿、数種の水差しは給仕によって再び粛々と下げられる。サリオンは、ひどい罪悪感に見舞われた。
あれが残飯として廃棄されているのなら、下働きの者たちに分け与えて欲しい。
全部取り分けてもらったのだから、誰の口もついていない。
かつて公娼でアルベルトがそうしてくれたように。
そして、まだ王宮の使用人に指示はできても命令はできずにいる。
だが、当たり前かと、胸中で呟いた。
欲望を吐き出しに来る男達を出迎え、買った男娼と饗宴にふけり、最後に部屋に送りつける。
昨日まではそれが仕事だったのだ。
今朝になっていきなり皇妃の日常になんてなれるはずがない。
「サリオン様。こちらで手を洗ってください」
下男のひとりが透明な容器に薔薇の花びらが浮かべられた器を差し出した。
干しブドウなど、直に手で食べた者があれば、その粘着きや汚れを落とすために使われる。
サリオンは食事のあとの手洗いはクルムで昼三だった時も、ユーリスといた時も用いていた。
だからなのか、さほど抵抗を感じずに済んだ。
洗われた指は絹の布で下男が拭く。
たかが朝食のために何人の使用人がこの部屋の中で行き来したのか、わからない。
朝食がすべて片付けられると、今度は肘に真新しい貫頭衣を、手にはサンダルを下げた下男が入ってきた。
「サリオン様。こちらにお着替え頂くよう、仰せつかっております」
それらは寝室の鏡の前の椅子の背と椅子の脚元に置かれた。
「ああ、はい。わかりました」
サリオンは立ち上がり、着替えるために寝所に行く。
まだ朝食の途中だったのだが、 瀟洒な部屋で給仕や下男に囲まれながら食事をするのは憚られる気がして断った。
アルベルトが去ったあと、自分たち二人のために並べられた数々の料理を盛った深鉢や平皿、数種の水差しは給仕によって再び粛々と下げられる。サリオンは、ひどい罪悪感に見舞われた。
あれが残飯として廃棄されているのなら、下働きの者たちに分け与えて欲しい。
全部取り分けてもらったのだから、誰の口もついていない。
かつて公娼でアルベルトがそうしてくれたように。
そして、まだ王宮の使用人に指示はできても命令はできずにいる。
だが、当たり前かと、胸中で呟いた。
欲望を吐き出しに来る男達を出迎え、買った男娼と饗宴にふけり、最後に部屋に送りつける。
昨日まではそれが仕事だったのだ。
今朝になっていきなり皇妃の日常になんてなれるはずがない。
「サリオン様。こちらで手を洗ってください」
下男のひとりが透明な容器に薔薇の花びらが浮かべられた器を差し出した。
干しブドウなど、直に手で食べた者があれば、その粘着きや汚れを落とすために使われる。
サリオンは食事のあとの手洗いはクルムで昼三だった時も、ユーリスといた時も用いていた。
だからなのか、さほど抵抗を感じずに済んだ。
洗われた指は絹の布で下男が拭く。
たかが朝食のために何人の使用人がこの部屋の中で行き来したのか、わからない。
朝食がすべて片付けられると、今度は肘に真新しい貫頭衣を、手にはサンダルを下げた下男が入ってきた。
「サリオン様。こちらにお着替え頂くよう、仰せつかっております」
それらは寝室の鏡の前の椅子の背と椅子の脚元に置かれた。
「ああ、はい。わかりました」
サリオンは立ち上がり、着替えるために寝所に行く。
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