皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

第五章 皇帝の寵姫として

第29話 嘘はつかない

「円形競技場で猛獣に食い殺されて、俺はアルベルトに隠し事はしたくない」

　サリオンは揺るぎない眼差しで覚悟を告げた。

「だけど、そうなったらなったで、お前がいなきゃ陛下の御子を身ごもる相手までいなくなる」
「レナがいる」

　即答したサリオンにミハエルが絶句する。
　窓から差し込む日差しが強く、高くなっている。
　まだ、朝食を済ませていなサリオンの給仕を待たせることも憚られる。
　朝食をあとにしてまで話し込んでいたという噂を立てられでもりしたら、サリオンの身に危険が及ぶ。

「避妊薬はまだ少しは残っているんだろう？」
「あったはずだが……」
「レナのことは、またあとで話をしよう。お前も起き抜けの頭で朝食もまだとなれば、考えつく方法も考えつかない」

　ミハエルは腰に手を当て、短く嘆息した。
　そして、うつむいた頭を上げると、
「また、あとで来る」
　とだけ言い残した。

　ミハエルが部屋を出ると、待ちくたびれたとばかりに給仕が続々入って来た。

「野菜の煮込みとパンを温めなおしてきましょうか？」
「いえ、食事はもう結構です。全部下げて頂けますか」
「畏まりました」

　仮面のように表情のない下男を筆頭に、数名の給仕が朝食の皿やグラスを下げ始めた。