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第五章 皇帝の寵姫として

第19話 命じる立場

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 白いクロスがかけられたテーブルには朝食が並んでいる。

 中央には白くて柔らかそうな丸いパンの籠。
 パンにつけて食べるオリーブオイル。
 白い皿には鶏肉のマリネ。焼き目をつけた何種類ものハムやソーセージ。
 野菜をトマトで煮込んだ付け合わせ。
 クルミやアーモンドなどのナッツ類。
 干しブドウや干した杏などの果物類。

 あとは腰高テーブルに並べられた牛乳とオレンジジューズとワインの水差し、伏せたグラスの後ろには給仕の下男が立っている。

「朝食にワインは必要なのか?」
 
 アルベルトに皮肉を言ったつもりのはずが、給仕の下男が「畏まりました」とグラスにワインを注ぎかけた。

「いや、違います。欲しいと言ったんじゃありません」

 サリオンは慌てて訴えた。

「休みの日には朝からワインをたしなむが、お前はどうする?」
「だから、朝っぱらから飲んだりしたら仕事にならない」

 思わず声を大にして、次の瞬間、ハッとなる。
 そうなのだ。
 今日から廻しの下男として、泊り客を起こしに回ったり見送ったり、寝起きの悪いレナを何とかして起こすなど、朝から走り回ることもない。

 ワインを飲んでもいいのなら、構わないといった身の上だ。

「俺には水を」

 アルベルトは椅子に腰かけ、下男に命じた。

「だったら俺も」
「サリオン。しぼりたてのオレンジジュースをぜひ、お前に味わって欲しい。牛乳も牛舎でしぼりたてのものを用意した。遠慮はいらない。好きなものを好きなように食べてくれ」

 ナフキンを膝にかけたアルベルトに、にこやかに勧められ、押し黙る。

 それでも水をと頑固になるような意味はない。

「だったらオレンジジュースを飲ませてくれ」
「畏まりました」

 給仕はグラスを取ると八分目まで注いだものをサリオンの右手の近くに置いて戻る。

 朝食は、庶民とさほど大差はないが、素材は最高級のものなのだろう。
 アルベルトの自信がそれを物語っている。

「さあ、記念すべきお前との朝食を始めよう」

 朗々と歌でも歌うように言ったあと、アルベルトは取り皿にハムやソーセージ、ゆで卵やパンを自分の前に用意させた。
 貴重品の卵をゆでたものは宴席でも供される。
 それを朝から悠々食する皇帝を、皇帝らしいと感じざるを得なかった。

「お前は何がいい? ここにはない物でも欲しいものがあれば何でも言ってくれ。王宮にないものは何もない。すぐに持って来させよう」

 聞かれた途端に別の給仕が長テーブルに駆け戻り、サリオンが所望する物を取り分けようと準備する。

「……あの。俺も自分で取れます」
「サリオン」

 アルベルトが咎め立った声を出す。

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