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第五章 皇帝の寵姫として
第18話 離宮での朝
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泥のように眠り込んでも長年の習慣で、日が昇るころには目が覚めてしまっていた。
サリオンは弾力のあるベッドで肌触りの良い上掛けを半分めくりつつ、しばらくの間、呆けていた。
いけない。
夜まで登楼した客を起こして見送らなければと、思う一方で、少しずつ頭が覚醒してくる。
ここは、そうだ。王宮だ。
自分と二人で過ごすためだけに建てられた離宮であり、自分の部屋。
もうベッドを飛び起きてレナの部屋に行く必要はない。
レナが顔を洗うため、軽く沸かした湯を陶器の水差しに入れ、レナが顔を洗う間、側で湯を流し続けることもない。
サリオンは横倒れにパタンと倒れると、朝日があたるカーテンをじっと見る。
天井にはシャンデリア。
白漆喰壁の彫刻にほどこされた金箔が控えめに輝いて、朝の到来を告げている。
俺の寝室、という言葉が頭の中でくり返される。
昨日の夜で世界は何もかもが変わっていまい、なぜだか胸が締めつけられるようだった。
レナは公娼に取り残されたままなのに。
すると、寝室のドアがノックされ、「はい」と、これもまた慣習で返事をした。
「おはよう、サリオン」
「アルベルト?」
今朝はトガも着たアルベルトが遠慮がちにドアを開け、顔を出す。
「あんた、朝から政務があったはずだろう?」
「政務には行く。お前と朝食を取ったあとに、だが」
さっそくサリオンはベッドの上で頭が痛いとうつむいた。
どうせ、そうなると予測した通りのアルベルトの顔を見て、ホッとする。
「しょうがねえなあ」
サリオンは洗面台に用意された陶器製の水差しのぬるま湯を、下男に流してもらいながら洗面を済ませると、寝着のままでいいのかどうか躊躇する。
「寝着のままで構わないから寝室を出てきてくれ。お前とベッドが見える寝室は刺激が強すぎる」
「朝っぱらから何を言って」
ドアの向こうで待っている恋人の正面まで行き、どちらからともなくキスをする。
舌と舌とが絡まるような深いキス。
アルベルトの腕が背中に回され、抱きしめられながらのキスが「おはよう」の挨拶だ。
互いにキスを解いた後で、
「これ以上は限界だ。目が覚めたばかりのお前をベッドに押し倒しかねない」
と、苦笑する。
「さあ、冷めないうちに食事にしよう」
少年のように声を弾ませる恋人に先導され、居間に移り、半円型に突き出た窓辺に設えられた二脚の椅子とテーブルに驚いた。
「確か、昨日見た時はなかったよな?」
「今朝方になって思い出しだ。お前は臥台での食事に慣れていない。これからも、こうしてお前の部屋で朝食を取ることもあるだろう。そのために用意させた」
「今朝だって?」
人の気配や家具の出し入れなどの物音にすら目が覚めずにいた。
まるでアルベルトの胸の中に包み込まれているように。
サリオンは弾力のあるベッドで肌触りの良い上掛けを半分めくりつつ、しばらくの間、呆けていた。
いけない。
夜まで登楼した客を起こして見送らなければと、思う一方で、少しずつ頭が覚醒してくる。
ここは、そうだ。王宮だ。
自分と二人で過ごすためだけに建てられた離宮であり、自分の部屋。
もうベッドを飛び起きてレナの部屋に行く必要はない。
レナが顔を洗うため、軽く沸かした湯を陶器の水差しに入れ、レナが顔を洗う間、側で湯を流し続けることもない。
サリオンは横倒れにパタンと倒れると、朝日があたるカーテンをじっと見る。
天井にはシャンデリア。
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俺の寝室、という言葉が頭の中でくり返される。
昨日の夜で世界は何もかもが変わっていまい、なぜだか胸が締めつけられるようだった。
レナは公娼に取り残されたままなのに。
すると、寝室のドアがノックされ、「はい」と、これもまた慣習で返事をした。
「おはよう、サリオン」
「アルベルト?」
今朝はトガも着たアルベルトが遠慮がちにドアを開け、顔を出す。
「あんた、朝から政務があったはずだろう?」
「政務には行く。お前と朝食を取ったあとに、だが」
さっそくサリオンはベッドの上で頭が痛いとうつむいた。
どうせ、そうなると予測した通りのアルベルトの顔を見て、ホッとする。
「しょうがねえなあ」
サリオンは洗面台に用意された陶器製の水差しのぬるま湯を、下男に流してもらいながら洗面を済ませると、寝着のままでいいのかどうか躊躇する。
「寝着のままで構わないから寝室を出てきてくれ。お前とベッドが見える寝室は刺激が強すぎる」
「朝っぱらから何を言って」
ドアの向こうで待っている恋人の正面まで行き、どちらからともなくキスをする。
舌と舌とが絡まるような深いキス。
アルベルトの腕が背中に回され、抱きしめられながらのキスが「おはよう」の挨拶だ。
互いにキスを解いた後で、
「これ以上は限界だ。目が覚めたばかりのお前をベッドに押し倒しかねない」
と、苦笑する。
「さあ、冷めないうちに食事にしよう」
少年のように声を弾ませる恋人に先導され、居間に移り、半円型に突き出た窓辺に設えられた二脚の椅子とテーブルに驚いた。
「確か、昨日見た時はなかったよな?」
「今朝方になって思い出しだ。お前は臥台での食事に慣れていない。これからも、こうしてお前の部屋で朝食を取ることもあるだろう。そのために用意させた」
「今朝だって?」
人の気配や家具の出し入れなどの物音にすら目が覚めずにいた。
まるでアルベルトの胸の中に包み込まれているように。
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