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第五章 皇帝の寵姫として
第15話 お前の部屋
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湯あみ場を正面から抜けて、廊下にまで来た。
その突き当りを左に曲がってすぐの所にある木の扉のドアノブをアルベルトが回して引き開ける。
「ここが、お前が普段自由に使ってもいい、お前の部屋だ」
「俺の……部屋……」
そこは夢のような部屋だった。
大理石の床に、優しい色合いの絨毯が敷かれていた。
入ってすぐの右側には洗顔所があり、白磁の陶器製の洗面台が置かれている。
洗面はしたければ、洗面所専用のベルを鳴らす。
すると、正面の小窓があいて、自分が洗面を終えるまで、下男がぬるま湯が入った陶器の水差しを流し続けてくれるはず。
もしくは朝風呂を使ってしまうかの、どちらかだ。
グラスや歯ブラシや洗面用の石鹸容器、大小のタオルが整然と並べられた清潔な洗面台が置かれた廊下を通りすぎると、居間に就く。
窓はラウンド型に突き出した、上部が半円型の窓だった。
カーテンは引かれておらず、「好きに庭造りをしてもいい」といわれた空き地が広がっているだけだ。
「よく見ると、広いな。この庭は」
「掘り起こすなら、下男を呼んでさせればいい」
命令される側から命じる側へと転じた自分。
だが、お願いしますの要請は口にはできても、「やれ」とは言えない。
たぶん、きっと。
それから部屋の大まかな造りに目をやった。
まず目についたのは、重厚な造りの書卓だった。
その背後には天井まである本がずらりと並べられていて、圧巻でもある。
書卓の前面には背もたれのついた長椅子が、足の短いラウンド型のテーブルをはさんで向かい合わせに置かれている。あとは窓辺に置かれた青銅製のろうそく立てや、柱に直接付けられた燭台がいくつもある。
そして、天井からがシャンデリアが吊り下げられて、まばゆい光を放っていた。
今夜は既に明かりがともされ、床に敷かれた蔦文様の深い緑の絨毯や、可憐な色合いの小花文様の壁紙などにも目が行った。
明日からはここの応接セットで食事をとり、しばらくは庭の構想を練るのだろう。
と、その時、ふと思いついて書棚に行くと、庭造りに関する本が圧倒的に多く用意されている。
「アルベルト。この本は」
「お前は凝り性で勉強家だからな。きっと庭の構想を考えるのに本が要るだろうと思ったからだ」
アルベルトが近づいてきて、彼に肩を抱かれて言われる。
「少しは気に入ってくれたか?」
「もちろん!」
居間の中央に立派な書卓が置かれたことが、サリオンの胸を熱くした。
何よりも知性を満たすべくして作られた部屋だった。
「ありがとう」
「気に入ってくれたのか?」
「もちろん!」
弾むように答えた後で、アルベルトの胸の中に飛び込んだ。
「気に入ってもらえて良かった」
アルベルトはホッとしたように肩に入った力をゆるめ、サリオンを抱き返す。
「お前に気に入ってもらえるように、俺が指示して作らせた居間だからな。本や書卓が中央にある部屋なんて、意味がないとか地味だとか、思われたならどうしようかと、これでも内心ヒヤヒヤしていた」
「そんなこと」
あるはずがないと、彼の唇に合わせるだけのキスをする。
これだけの部屋や湯舟を造るには、相当の時間と資金がかかったはず。
彼はいつの日か自分をここへ迎え入れるべく、時間をかけて湯舟を作らせ、居間の壁紙から家具の配置まで、事細かに指示してきたに違いない。
その突き当りを左に曲がってすぐの所にある木の扉のドアノブをアルベルトが回して引き開ける。
「ここが、お前が普段自由に使ってもいい、お前の部屋だ」
「俺の……部屋……」
そこは夢のような部屋だった。
大理石の床に、優しい色合いの絨毯が敷かれていた。
入ってすぐの右側には洗顔所があり、白磁の陶器製の洗面台が置かれている。
洗面はしたければ、洗面所専用のベルを鳴らす。
すると、正面の小窓があいて、自分が洗面を終えるまで、下男がぬるま湯が入った陶器の水差しを流し続けてくれるはず。
もしくは朝風呂を使ってしまうかの、どちらかだ。
グラスや歯ブラシや洗面用の石鹸容器、大小のタオルが整然と並べられた清潔な洗面台が置かれた廊下を通りすぎると、居間に就く。
窓はラウンド型に突き出した、上部が半円型の窓だった。
カーテンは引かれておらず、「好きに庭造りをしてもいい」といわれた空き地が広がっているだけだ。
「よく見ると、広いな。この庭は」
「掘り起こすなら、下男を呼んでさせればいい」
命令される側から命じる側へと転じた自分。
だが、お願いしますの要請は口にはできても、「やれ」とは言えない。
たぶん、きっと。
それから部屋の大まかな造りに目をやった。
まず目についたのは、重厚な造りの書卓だった。
その背後には天井まである本がずらりと並べられていて、圧巻でもある。
書卓の前面には背もたれのついた長椅子が、足の短いラウンド型のテーブルをはさんで向かい合わせに置かれている。あとは窓辺に置かれた青銅製のろうそく立てや、柱に直接付けられた燭台がいくつもある。
そして、天井からがシャンデリアが吊り下げられて、まばゆい光を放っていた。
今夜は既に明かりがともされ、床に敷かれた蔦文様の深い緑の絨毯や、可憐な色合いの小花文様の壁紙などにも目が行った。
明日からはここの応接セットで食事をとり、しばらくは庭の構想を練るのだろう。
と、その時、ふと思いついて書棚に行くと、庭造りに関する本が圧倒的に多く用意されている。
「アルベルト。この本は」
「お前は凝り性で勉強家だからな。きっと庭の構想を考えるのに本が要るだろうと思ったからだ」
アルベルトが近づいてきて、彼に肩を抱かれて言われる。
「少しは気に入ってくれたか?」
「もちろん!」
居間の中央に立派な書卓が置かれたことが、サリオンの胸を熱くした。
何よりも知性を満たすべくして作られた部屋だった。
「ありがとう」
「気に入ってくれたのか?」
「もちろん!」
弾むように答えた後で、アルベルトの胸の中に飛び込んだ。
「気に入ってもらえて良かった」
アルベルトはホッとしたように肩に入った力をゆるめ、サリオンを抱き返す。
「お前に気に入ってもらえるように、俺が指示して作らせた居間だからな。本や書卓が中央にある部屋なんて、意味がないとか地味だとか、思われたならどうしようかと、これでも内心ヒヤヒヤしていた」
「そんなこと」
あるはずがないと、彼の唇に合わせるだけのキスをする。
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