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第五章 皇帝の寵姫として
第9話 オメガはオメガ
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だが、食卓を挟んでのやり取りは、穏やかに心を鎮めてくれる。
今夜から王宮で生活をする。
まだ、子供をはらんでいないうちから『皇妃』と呼ばれる。
後ろめたさで言葉に詰まるが、最高級のムール貝のプリっと爆ぜるような美味しさ。オムレツの濃厚さ。付け合わせのキノコのソテーを合間、合間につまんで食べる。
塩コショウだけで味付けされたソテーが料理のつなぎになっている。
考え抜かれた献立だ。
いぶされた生ハムの滋味深さ。
シャンパンがついつい、進んでしまう。
けれどもサリオンは自重した。
この後、自分はアルベルトと床入りをする。
そのために連れてこられ、そのためにもてなされている。
ここに来るまで、そしてここに来たあとも、頭からその場面が離れたことは一度もなかった。
これほどまでに尽くされようとも、子供を授かる気がしない。
アルベルトには落胆をされ、愛し合ってはいないのかと、きっと彼を傷つける。
オメガとしてここにいる価値がないと言われたも同然だ。
汚らわしい奴隷のオメガだ。
皇帝の寵姫と持ち上げられているのは全部、皇帝を愛し、愛された二人であれば、世継ぎが期待できるから。
ダビデ提督が子供を授かり、王宮での発言権がよりいっそう高まることを恐れているから。
「どうした? もう腹が膨れたか?」
美しく盛られたリンゴやブドウやイチジクの皿、クルミなど木の実の類が食卓に乗せられた。
果物や木の実は宴の終了の合図でもある。
宴が終われば床入りだ。
ユーリスを失って以来、誰ともベッドを共にしなかった。
しかも相手はアルベルト。
自分はちゃんとできるのか? 身体は彼に反応するのか。彼と床入りすることで、傷つけたりはしないのか。
頭の中が沸騰しそうになっている。
宴を締めくくる果物も木の実も刻々と近づくその時が、断頭台の階段を上っていくようで。
身体が強張り、喉が詰まったようになる。
覚悟したつもりでも、覚悟ができていなかった。
子を授かる授からないの前に、今はただ、うまくできるかどうかが怖いのだ。
サリオンは唇を引き結ぶ。
顔を伏せて、押し黙る。
二杯目のシャンパンが、か細いグラスの中で黄金の気泡を上げている。
今夜から王宮で生活をする。
まだ、子供をはらんでいないうちから『皇妃』と呼ばれる。
後ろめたさで言葉に詰まるが、最高級のムール貝のプリっと爆ぜるような美味しさ。オムレツの濃厚さ。付け合わせのキノコのソテーを合間、合間につまんで食べる。
塩コショウだけで味付けされたソテーが料理のつなぎになっている。
考え抜かれた献立だ。
いぶされた生ハムの滋味深さ。
シャンパンがついつい、進んでしまう。
けれどもサリオンは自重した。
この後、自分はアルベルトと床入りをする。
そのために連れてこられ、そのためにもてなされている。
ここに来るまで、そしてここに来たあとも、頭からその場面が離れたことは一度もなかった。
これほどまでに尽くされようとも、子供を授かる気がしない。
アルベルトには落胆をされ、愛し合ってはいないのかと、きっと彼を傷つける。
オメガとしてここにいる価値がないと言われたも同然だ。
汚らわしい奴隷のオメガだ。
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ダビデ提督が子供を授かり、王宮での発言権がよりいっそう高まることを恐れているから。
「どうした? もう腹が膨れたか?」
美しく盛られたリンゴやブドウやイチジクの皿、クルミなど木の実の類が食卓に乗せられた。
果物や木の実は宴の終了の合図でもある。
宴が終われば床入りだ。
ユーリスを失って以来、誰ともベッドを共にしなかった。
しかも相手はアルベルト。
自分はちゃんとできるのか? 身体は彼に反応するのか。彼と床入りすることで、傷つけたりはしないのか。
頭の中が沸騰しそうになっている。
宴を締めくくる果物も木の実も刻々と近づくその時が、断頭台の階段を上っていくようで。
身体が強張り、喉が詰まったようになる。
覚悟したつもりでも、覚悟ができていなかった。
子を授かる授からないの前に、今はただ、うまくできるかどうかが怖いのだ。
サリオンは唇を引き結ぶ。
顔を伏せて、押し黙る。
二杯目のシャンパンが、か細いグラスの中で黄金の気泡を上げている。
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