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第五章 皇帝の寵姫として
第4話 国家のための侵略者
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両開け扉が開かれた正面玄関から、アルベルトに腰を抱かれ、その足を踏み入れる。
王宮に入ったのは二度目になる。
当然と言えば当然なのだが、単なる貴族の邸宅とは雲泥《うんでい》の差の煌びやかさ。
正面から入ってまっすぐ続く廊下の右側には、等間隔で半円型の細長い鏡が並んでいる。
その鏡には、対面の緑豊かな中庭や漆喰細工に金箔がほどこされた壁が映し込まれる。
雫型のシャンデリア。
数々の守護神や女神を模した彫刻は、窓と窓の間に飾られ、金の燭台に火が点されていた。
もうそんなに時間が経っていたのかと、夕映えに染まる庭に視線を移しつつ、胸の中がしんとなる。
公娼が開門される頃合いだ。
それに反して、王宮のドアや窓は衛兵により閉じられる。
サリオンは以前来た通り、突き当りで右折したが、反対にアルベルトは左折した。
「よく覚えていたな。確かに前に、お前と過ごした部屋の方はそちらだが」
半笑いになったアルベルトは、離れてしまったサリオンに手を伸ばす。
長いトガが、まるで羽のようだった。
「こちらには、俺と下男の職人たちしか足を踏み入れていない離宮を作らせた。お前と一緒に過ごせるのなら、お前と俺しか立ち入ることが出来ない場所が欲しかった」
「造らせた、だって? 離宮を、か?」
「離宮といっても、お前が遜《へりくだ》ったり緊張したりしないような、温かみのある内装で作らせた。居室は三部屋。主寝室と、あとは風呂か。そんなものだ」
「そんな無駄遣いするような金はあるのか?」
「何を言うか。俺とお前がくつろぐ離宮を建てたぐらいで、この国の財政はビクともしない」
誇らしげに告げたアルベルトに対して、サリオンの顔は見る見るうちに曇り出す。
それは近隣諸国に攻め込んで、領土を拡大し続けてきたからこその巨額の資金だ。
この王宮も、造らせたという離宮もそうだ。
何の憂いもなく、ユーリスと過ごしていられた故国を侵略された心の痛みが蘇る。
自分はそんな男の胸の中に収まったりしていいのだろうか。本当に。
伏し目になって微動だにしないサリオンに、アルベルトはハッとしたように狼狽した。
「すまない、サリオン。浮かれ過ぎた」
サリオンの葛藤を読み解いたかのように、アルベルトが謝罪する。
動こうとしなくなったサリオンに近づいた。
「俺は多くの国を滅ぼした。それを誇っているのだと思ったのかもしれないが。恋人には自分を最も良く見せたい 業のようなものだった」
「……わかっている」
アルベルトは国のために戦場に向かっていた。
国土を広げ、国が豊かになるように。
ダビデ提督のように決して残虐行為を誇示したりしない男だと、わかっている。
それはよく分かっている。
「だけど俺には、そういうお前が愛おしい」
王宮に入ったのは二度目になる。
当然と言えば当然なのだが、単なる貴族の邸宅とは雲泥《うんでい》の差の煌びやかさ。
正面から入ってまっすぐ続く廊下の右側には、等間隔で半円型の細長い鏡が並んでいる。
その鏡には、対面の緑豊かな中庭や漆喰細工に金箔がほどこされた壁が映し込まれる。
雫型のシャンデリア。
数々の守護神や女神を模した彫刻は、窓と窓の間に飾られ、金の燭台に火が点されていた。
もうそんなに時間が経っていたのかと、夕映えに染まる庭に視線を移しつつ、胸の中がしんとなる。
公娼が開門される頃合いだ。
それに反して、王宮のドアや窓は衛兵により閉じられる。
サリオンは以前来た通り、突き当りで右折したが、反対にアルベルトは左折した。
「よく覚えていたな。確かに前に、お前と過ごした部屋の方はそちらだが」
半笑いになったアルベルトは、離れてしまったサリオンに手を伸ばす。
長いトガが、まるで羽のようだった。
「こちらには、俺と下男の職人たちしか足を踏み入れていない離宮を作らせた。お前と一緒に過ごせるのなら、お前と俺しか立ち入ることが出来ない場所が欲しかった」
「造らせた、だって? 離宮を、か?」
「離宮といっても、お前が遜《へりくだ》ったり緊張したりしないような、温かみのある内装で作らせた。居室は三部屋。主寝室と、あとは風呂か。そんなものだ」
「そんな無駄遣いするような金はあるのか?」
「何を言うか。俺とお前がくつろぐ離宮を建てたぐらいで、この国の財政はビクともしない」
誇らしげに告げたアルベルトに対して、サリオンの顔は見る見るうちに曇り出す。
それは近隣諸国に攻め込んで、領土を拡大し続けてきたからこその巨額の資金だ。
この王宮も、造らせたという離宮もそうだ。
何の憂いもなく、ユーリスと過ごしていられた故国を侵略された心の痛みが蘇る。
自分はそんな男の胸の中に収まったりしていいのだろうか。本当に。
伏し目になって微動だにしないサリオンに、アルベルトはハッとしたように狼狽した。
「すまない、サリオン。浮かれ過ぎた」
サリオンの葛藤を読み解いたかのように、アルベルトが謝罪する。
動こうとしなくなったサリオンに近づいた。
「俺は多くの国を滅ぼした。それを誇っているのだと思ったのかもしれないが。恋人には自分を最も良く見せたい 業のようなものだった」
「……わかっている」
アルベルトは国のために戦場に向かっていた。
国土を広げ、国が豊かになるように。
ダビデ提督のように決して残虐行為を誇示したりしない男だと、わかっている。
それはよく分かっている。
「だけど俺には、そういうお前が愛おしい」
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