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第五章 皇帝の寵姫として
第1話 自分の妃
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かつて王宮には、皇帝アルベルトにレナをめとわせる為、アルベルトから送られた絹の 貫頭衣を着て、宝石がちりばめられたトングを履いて赴いた。
傾斜のついた石畳のその道を、再び馬車で上っている。
四方を騎馬兵に囲まれた道行きは、逃げ場のなさを物語る。
サリオンは再び窓際に擦り寄った。
葡萄の葉を模した巨大な青銅製の正門が視界に入る。
隣で背もたれに体を預けたアルベルトも、心なしか強張った顔つきだ。
思ってもみない成り行きに、追いつかないのだ。二人して。
「……寒くはないか?」
サリオンが窓を開けたため、朝の冴えた空気が流れ込んでいる。
手持無沙汰で窓枠に貼りつくサリオンが肩越しに振り返る。アルベルトは既にトガを脱ごうとしている。
「バカな事はやめろ!」
「何がだ」
「皇帝にしか許されない朱と金の刺繍入りのトガだぞ。そんなもの……」
手足が剥き出しの麻の貫頭衣一枚のサリオンを気遣って、着せかけようとする皇帝を押しとどめる。
「何がバカな事だ。自分の妃に風邪をひかせて平気な夫がいるものか」
「わかった。窓は閉める。わかったから」
抱きしめられているのならまだしも、着せかけられては堪らない。
ボロ雑巾のような貫頭衣を着た痩せぎすのオメガに、法王庁により定められた聖なるトガを被せるなど、皇帝と法王間に亀裂を起こしかねない暴挙であり、テオクウィントス帝国法王庁の最高位である法王への 冒涜だ。
そんな分別もつかないほど、頭に血が上っている。
今、自分に何がしてやれるのか。そればかりに気を取られ、前後の見境なく迫りくる恋人に、戸惑いながらもいじらしい。
すっかり夫になったつもりでいる。
程なく正門の衛兵の開門の号令が、静謐な朝の大広場に朗々と轟いた。
それにより、馬車の中での攻防はいったん休廷《きゅうてい》になる。
門番が押し開ける重厚な鉄門が軋みをあげる。
その先には、まだ途方もない大きさの広場が待ち受ける。
傾斜のついた石畳のその道を、再び馬車で上っている。
四方を騎馬兵に囲まれた道行きは、逃げ場のなさを物語る。
サリオンは再び窓際に擦り寄った。
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隣で背もたれに体を預けたアルベルトも、心なしか強張った顔つきだ。
思ってもみない成り行きに、追いつかないのだ。二人して。
「……寒くはないか?」
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手持無沙汰で窓枠に貼りつくサリオンが肩越しに振り返る。アルベルトは既にトガを脱ごうとしている。
「バカな事はやめろ!」
「何がだ」
「皇帝にしか許されない朱と金の刺繍入りのトガだぞ。そんなもの……」
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「何がバカな事だ。自分の妃に風邪をひかせて平気な夫がいるものか」
「わかった。窓は閉める。わかったから」
抱きしめられているのならまだしも、着せかけられては堪らない。
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そんな分別もつかないほど、頭に血が上っている。
今、自分に何がしてやれるのか。そればかりに気を取られ、前後の見境なく迫りくる恋人に、戸惑いながらもいじらしい。
すっかり夫になったつもりでいる。
程なく正門の衛兵の開門の号令が、静謐な朝の大広場に朗々と轟いた。
それにより、馬車の中での攻防はいったん休廷《きゅうてい》になる。
門番が押し開ける重厚な鉄門が軋みをあげる。
その先には、まだ途方もない大きさの広場が待ち受ける。
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