皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

第四章 逆転

第31話 頼ればいいのに

　早朝になり、知人の饗宴に招かれた客が帰路につく馬車、奴隷に担かつがせた屋根付きの輿こしに乗り、張り出した下腹をさするアルファと思しき男達。

　サリオンは、互いの邸宅を行き来する彼等が視界に入るたび、顔を背けて鼻白む。
　今から自分は、これらの驕慢きょうまんで怠惰なアルファを見下せる最高位に就く。

　王宮では彼等が自分に傅かしずくのだ。

　だからといって自尊心をくすぐられ、血が騒ぐようなこともなく、サリオンの胸に湧くのは階級社会への義憤ぎふんだけ。
　
　たとえどんな不祥事を起こそうと、アルファならば処罰はされない。
　ベータに転じることもない。
　ベータの下層階級でも、奴隷としてオメガを意のままに貶おとしめる。

　故国のクルムでは王族のユーリスに身請けされ、絢爛豪華けんらんごうかな邸宅で、贅沢と我儘わがままの限りを許された。
　ユーリスは番つがい以外のオメガにも、情け深くふるまった。
　温情を示していた。

　それは、オメガだった自分への配慮だと、サリオンは言わずもがなで悟っていた。
　オメガを邪険に扱うことは、すなわち番つがいのオメガに対する侮蔑に直結するからだ。

「サリオン。いい加減、窓から離れろ」

　半ば呆れた声音で促され、サリオンは振り向いた。
　反対の窓枠に肘をつき、頬杖しながら微笑むアルベルトを直視できずに目を伏せる。
　差し伸べられた片腕が、この胸の中に収まれと告げている。

　悪態を突き合う時だけは平気なのに、こんな風に艶めいた顔をされるたび、どうしていいのかわからない。