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第四章 逆転

第17話 レナは脅威 

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「畏まりました。陛下のお申し出通りに致します」

「話が早いな。さすがは俺が任じた館の主だ」

 テーブルに戻された銀の杯がカツンという、硬質な音を響かせた。すかざず下男がワインの瓶を片手に歩み寄って来た。けれどもそれを目顔で制したアルベルトは、「話は済んだ」と微笑んだ。

 こんな時、サリオンはアルベルトが持つ裏の顔を垣間見る思いがする。

 自分にだけは見せる甘く切ない顔とは全く別の顔。
 列強各国を滅ぼして、領土を拡大し続ける征服者。

 この世には、自分の思い通りにならないものなどないとでも言いたげな顔。

 気が緩んだアルベルトからサリオンは、すっと手を引く。

 館の主と同様に、サリオンもまた俯いた。

 どんなに月日が流れても、アルベルトという新たな男に恋をしても、忘れることなど出来ない光景。

 両手を縄で縛られて、荒野を馬で引きづり回され、最期は人の 形骸けいがいですらなくなったユーリスが、鮮明に脳裏に蘇る。
 尻を浮かせたサリオンは、アルベルトから距離を取る。

 それに動じたかのように、隣で彼が身じろいだ。


「サリオン。……俺は」
「レナには俺から話をする。レナにも言いたいことがあるだろうし、俺にはそれを聞く義務がある」

「いや、レナには俺が話をする」

 サリオンは、顔も上げずに話の筋を変えて言う。
 サリオンが離れた分だけ近づいて、気分を害したサリオンを、取りなすように言葉に言葉を重ねてきた。

「レナも混乱するだろう。まだ後宮に入るかどうかもわからない。どちらにしてもお前には、見られていたくないはずだ」

 レナとは二人で話がしたいと、 さとされる。
 それはレナに向けられた優しさだ。

 レナに罵詈雑言を浴びせかけられ、傷つけたくないなどという配慮ではなく、惨めな思いをさせられる、レナの立場を思いやっての申し出だ。

 サリオンは返事を求めるアルベルトに、 うとましさすら感じていた。

 こんな風にアルベルトは、レナにも優しい。
 どんな時でも気遣うことを忘れない。

 レナを大事にすることが、同席している恋人の良心の 呵責かしゃくを和らげる。
 だからこその言い分なのだとわかっているのに、胸がざわめく。
 暗雲が垂れ込める。

 レナにとって男はなびかせ、手なづけるもの。

 レナとアルベルトを二人きりにすることに、にわかに不安がこみ上げる。

 
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