183 / 297
第四章 逆転
第1話 皇帝の来館
しおりを挟む
その日の夜の公娼は、数日振りの皇帝の来館に沸いていた。
夕方になって王宮の使者から届けられた巻き紙に、相方の指名はレナだと書かれていたことも、館の主人を喜ばせた。
巻き紙を主人に渡したサリオンに、
「陛下はレナをお見捨てになられた訳ではなかったんだ」
と、喜色を浮かべ、今夜は念入りに支度をするよう言いつける。
「このぐらい間が開いた後の方が、男の方も盛さかりやすい。皇帝といえども陛下も男だ。レナをとびきり磨いてやれ」
「……はい」
「提督の御子を身籠ったオメガと、皇帝の御子を身ごもったオメガとでは格が違う。何としてでも公娼うちから皇太子を輩出したい。王宮の後宮から懐妊の報せが届かないうちに、だ。この国では第一子が皇太子になるんだからな」
その栄誉に一役買った者として、皇帝から何らかの報酬が得られると、期待している顔つきだ。
浮かれる主人を後にして、サリオンはレナの居室に移動する。
俯き加減で唇を固く引き結び、大理石の階段を駆け上る。
そのサンダルの靴音が尖っている。既に苛立ちをはらんでいる。
そんな自分に自分で舌打ちしたい気分になる。
皇帝を今まで通りに歓待し、豪勢な饗宴の席でレナをはべらせ、夜が更けたらレナの居室に二人で向かう。
そして、アルベルトがレナの寝所に初めて足を踏み入れる。
しかも、その場に自分も居合わせる。
レナと睦むアルベルトを、この目で見届けなければならないのだ。
「レナ」
居室のドアをノックして引き開ける。
すると、蜂蜜と数種の香草を混ぜた濃艶な芳香が、出入り口まで漂った。
肌理の細かいレナの肌に光沢を添えるため、先ほど廻しの自分が調合した乳白色のクリームが、銀の器に盛られたままになっている。
それを『舐める』前提で、男の劣情を昂ぶらせ、興奮を持続させる作用が強い香草を練り込んだ。
これを今からレナの全身に塗りつける。
そのあと素肌が透けて見えるほど、薄い生地の貫頭衣を着せかけて、繊細な刺繍がほどこされた腰紐を結んでやり、手足の爪の手入れをする。
レナは今夜に限って衣装も宝石も化粧も爪を染める染料の色までも、自分で選ぶと言い出した。
そのため、レナの要望通りに、支度を手伝うのみとなる。
普段着の麻の貫頭衣姿のまま、レナは長椅子に浅く腰をかけ、手前の楕円のテーブルに、ありったけの宝石を並べている。
これ等の首飾りや耳飾り、指輪や腕輪はアルベルトの不在時に、レナの気を僅かでも引きたい一心で、常客が貢いだ品々だ。
「どれにしようか迷ってるんだ。陛下は煌々しいのはお好みじゃないけれど、いつもと違った感じにしたいんだ。だって今夜は……」
レナは金の指輪を摘み上げ、はにかんだ。
滑らかな白い頬や目元がほんのり上気する。
夕方になって王宮の使者から届けられた巻き紙に、相方の指名はレナだと書かれていたことも、館の主人を喜ばせた。
巻き紙を主人に渡したサリオンに、
「陛下はレナをお見捨てになられた訳ではなかったんだ」
と、喜色を浮かべ、今夜は念入りに支度をするよう言いつける。
「このぐらい間が開いた後の方が、男の方も盛さかりやすい。皇帝といえども陛下も男だ。レナをとびきり磨いてやれ」
「……はい」
「提督の御子を身籠ったオメガと、皇帝の御子を身ごもったオメガとでは格が違う。何としてでも公娼うちから皇太子を輩出したい。王宮の後宮から懐妊の報せが届かないうちに、だ。この国では第一子が皇太子になるんだからな」
その栄誉に一役買った者として、皇帝から何らかの報酬が得られると、期待している顔つきだ。
浮かれる主人を後にして、サリオンはレナの居室に移動する。
俯き加減で唇を固く引き結び、大理石の階段を駆け上る。
そのサンダルの靴音が尖っている。既に苛立ちをはらんでいる。
そんな自分に自分で舌打ちしたい気分になる。
皇帝を今まで通りに歓待し、豪勢な饗宴の席でレナをはべらせ、夜が更けたらレナの居室に二人で向かう。
そして、アルベルトがレナの寝所に初めて足を踏み入れる。
しかも、その場に自分も居合わせる。
レナと睦むアルベルトを、この目で見届けなければならないのだ。
「レナ」
居室のドアをノックして引き開ける。
すると、蜂蜜と数種の香草を混ぜた濃艶な芳香が、出入り口まで漂った。
肌理の細かいレナの肌に光沢を添えるため、先ほど廻しの自分が調合した乳白色のクリームが、銀の器に盛られたままになっている。
それを『舐める』前提で、男の劣情を昂ぶらせ、興奮を持続させる作用が強い香草を練り込んだ。
これを今からレナの全身に塗りつける。
そのあと素肌が透けて見えるほど、薄い生地の貫頭衣を着せかけて、繊細な刺繍がほどこされた腰紐を結んでやり、手足の爪の手入れをする。
レナは今夜に限って衣装も宝石も化粧も爪を染める染料の色までも、自分で選ぶと言い出した。
そのため、レナの要望通りに、支度を手伝うのみとなる。
普段着の麻の貫頭衣姿のまま、レナは長椅子に浅く腰をかけ、手前の楕円のテーブルに、ありったけの宝石を並べている。
これ等の首飾りや耳飾り、指輪や腕輪はアルベルトの不在時に、レナの気を僅かでも引きたい一心で、常客が貢いだ品々だ。
「どれにしようか迷ってるんだ。陛下は煌々しいのはお好みじゃないけれど、いつもと違った感じにしたいんだ。だって今夜は……」
レナは金の指輪を摘み上げ、はにかんだ。
滑らかな白い頬や目元がほんのり上気する。
0
お気に入りに追加
330
あなたにおすすめの小説
俺の番が変態で狂愛過ぎる
moca
BL
御曹司鬼畜ドSなα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!!
ほぼエロです!!気をつけてください!!
※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!!
※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️
初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀
母の再婚で魔王が義父になりまして~淫魔なお兄ちゃんに執着溺愛されてます~
トモモト ヨシユキ
BL
母が魔王と再婚したルルシアは、義兄であるアーキライトが大の苦手。しかもどうやら義兄には、嫌われている。
しかし、ある事件をきっかけに義兄から溺愛されるようになり…エブリスタとフジョッシーにも掲載しています。
セックスが注文できるお店
雫@来週更新
BL
このお店では来店なさったご主人様の希望で受けか攻めを注文でき、どんなタイプがいいかも注文することができる。やることはセックス。もちろん玩具だって注文できるし何だって注文できる。そんなお店へ来てみたくはありませんか?秘密はすべて守ります。
SM、コスプレ、結腸攻め、尿道プレイ、玩具、アナルビーズ、アナルプラグ、浣腸、ピアス、尿道ブジ―などが入るかもしれないし、入らないかもしれないです。よろしくお願いします!
【オメガの疑似体験ができる媚薬】を飲んだら、好きだったアルファに抱き潰された
亜沙美多郎
BL
ベータの友人が「オメガの疑似体験が出来る媚薬」をくれた。彼女に使えと言って渡されたが、郁人が想いを寄せているのはアルファの同僚・隼瀬だった。
隼瀬はオメガが大好き。モテモテの彼は絶えずオメガの恋人がいた。
『ベータはベータと』そんな暗黙のルールがある世間で、誰にも言えるはずもなく気持ちをひた隠しにしてきた。
ならばせめて隼瀬に抱かれるのを想像しながら、恋人気分を味わいたい。
社宅で一人になれる夜を狙い、郁人は自分で媚薬を飲む。
本物のオメガになれた気がするほど、気持ちいい。媚薬の効果もあり自慰行為に夢中になっていると、あろう事か隼瀬が部屋に入ってきた。
郁人の霰も無い姿を見た隼瀬は、擬似オメガのフェロモンに当てられ、郁人を抱く……。
前編、中編、後編に分けて投稿します。
全編Rー18です。
アルファポリスBLランキング4位。
ムーンライトノベルズ BL日間、総合、短編1位。
BL週間総合3位、短編1位。月間短編4位。
pixiv ブクマ数2600突破しました。
各サイトでの応援、ありがとうございます。
ゲイアプリで知り合った男の子が浮気してお仕置き調教されるはなし
ましましろ
BL
あらすじはタイトルの通りです。
※作者の性欲発散のために書いたのでかなりハードなプレイ、マニアックな内容となっております。
【登場人物】
黒田春人 (ハル)
会社員
26歳
宮沢時也 (M)
無職
18歳
タロさん
別のBL小説を同時に連載しているので投稿頻度はまだらです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる