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第三章 争奪戦

第72話 いつものサリオン

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「やっと、いつもの顔になってきた。何の話をしに来たのかは別として、料理と酒を存分に楽しめ」

 アルベルトの手はサリオンの後頭部から、うなじへ流れて上下した。

 むっとしたサリオンは頭を振って払い除け、腕の中から逃れ出た。
 それでもアルベルトは大人の余裕を醸した微笑をたたえている。

 唇を横に引き上げた、 艶然えんぜんとした微笑みが、癪に障って仕方がない。

 いつもの調子を取り戻すどころか、じわじわ包囲網を狭められ、急所をふとした言葉で突かれて一人で狼狽している。
 まんまと術中にはまっている。


 饗宴に入る前から惑乱させられ、本当にレナの話を切り出せるのも危ぶまれる。

 このままレナがアルファや富裕層のベータの子供を孕まなければ、最高位の昼三から引きずり下ろされ、奴隷市に売りに出されてしまいかねない状況にまで、追い詰められていることも。

 サリオンは 忸怩じくじたる思いで唇を固く引き結ぶ。


 レナのためにも、そして何よりアルベルトの皇位継承者誕生のためにも、最善策を講じなければならないと、自分自身に言って聞かせる。

 そうでなければ、従兄弟のダビデが誕生した息子を旗印にして、アルベルトの政権討伐に乗り出すに違いない。


 皇帝と肩を並べて歩くうち、前方の、廊下の突き当たりにある大きな両開け扉の左右に、兵卒が槍を携え、立っている。
 おそらくアルベルトが案内しようとしている饗宴の間は、あの部屋だ。

「さあ、着いた。お前と食事をするのなら、これからも度々使うことになる」

 アルベルトの声と姿が一定の距離まで近づいた刹那、ドアの左右で居住まいを正す兵士の甲冑金具の音がした。
 二人が左右に引き開けた扉の手前にアルベルトが立ち、中へと招くかのように、手のひらを部屋へと向けて微笑んだ。

「わっ……」

 と、部屋の出入り口に立ち、サリオンは感嘆の声を思わず上げた。

 最初に視界に入ったのは、広々とした庭に面して楕円形に張り出した空間だ。

 両開きの半円形の高い窓が並んでいて、篝火で照らされた庭の噴水や豊かな植栽、ブロンズ像など、その張り出した空間から、部屋に居ながらにして、絵画のように鑑賞できる。

 サリオンは引き寄せられるようにして、まっすぐ窓辺に近づいた。

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